音大の先生やピアノの先生から現在のピアノ教育について不満を聞かされることがあります。この10年間聞かされつづけた気がします。現代のピアノ教育の環境は決してよくはないのでしょう。しばしば空虚で、実質を充実させる努力が欠けたままでは、水準の向上は望めません。たとえ苛烈でも、それなりに地に足がついたものを追いもとめた井口基成をどうしても全否定できないのも、そのせいです。そして、このようなあまり望ましくない変質に音楽をめぐる文筆が強く関与していた、というのも事実なのでしょう。
それはそうなのです。
ただ、音大の先生や音大に関係している先生は、その地位により社会的評価と給与と影響力を得ているのであり、そうであるならば、現実を変革する努力に取り組む立場にあるようにも思うのです。音楽界とピアノ教育に問題があり、世間に流布されている言説に疑問があるのならば、教育活動を通じて、また演奏や執筆といった活動を通じて、どのように、それが再構成されなければいけないかを主張していく必要もあるように思うのです。