長い旅だった。
『指輪物語』 評論社文庫、9巻+追補版(索引)の全10巻。
これは、世界を手に入れられるほど強い魔力を持つ「指輪」をめぐる物語だ。指輪を持つホビット(小人)族と仲間たちが故郷を出て、指輪を滅ぼす使命を授けられ、それを果たして帰還するまでの旅だった。
ファンタジーのバイブルと言われる作品なので、義務感でもって、物凄い勢いで飛ばして読み始めたのが……いつの間にか物語世界に引きこまれているのを自覚した。
池澤夏樹いわく、「小説の面白さというのは、一旦読み始めたら、延々と読んで、読んで、それでもまだ続いて、最後に『ああ、終わった』と思うような、そういう作にあると、」 (世界文学を読みほどく 新潮選書)
なるほど、そうかもしれない。読後10日ほどたった今、「思い返すといろいろなことがあったなあ」というような、感慨をもっている。追手があり、頼れる仲間がいて、味方に出会い、戦いがあり、いろいろな世界を通り抜け……。「ナルニア国」からクロゼットを通って帰ってきた子どもたちのように、「あの世界」のことを懐かしく思う。
よく言われように、この作品は世界観がすごい。巻末の「著者ことわりがき」を読んで納得がいった。「1936年から1949年にかけては、おりおりにしか執筆を進めることができなかった」と書いているが、言語学者としての本業が忙しかったからだけではない。この世界で使われる「エルフ語」をつくり上げることが元々の著者の目的であり、また、この世界の古代から盛時にかけての物語を整理することを、先に行ったからだ。
つまり、この『指輪物語』と、これより先に出版された作品『ホビット』は、この世界の終末期にあたる物語だ、というのだ。ゆえに、『指輪物語』のはしばしに、過去の記憶が伝承として現れる。それが何だか非常に気になってしまう。
たとえば、私が印象に残ったのは「エント」という木の精と守人の中間のような種族。昔々はエント女がいた。今はいないから、エントっ子が生まれなくなってしまったと嘆く。なんでエント女がいなくなったかというと…… きりがないので説明は省くが、エント女が戻るあてはないのか、ホビットはエント女に伝言を伝えてやれたのか、いまだに気になる。
この作品は、古きよき英国風で正統派ファンタジーの名に恥じない名作だと思う。ハリー・ポッターなどは英語で読んでも「少年ジャンプ」みたいな感じがするのだが、これは世界観だけでなく、人物(妖精その他)造形もエピソードにも深みがある。多少、描写がくどい、とか、長い、とか思ってしまったところもあるけれど……その苦労も、読み終えたなら、報われるのだ。