ヴェネツィア共和国とは、蛮族に追われて仕方なく、海の傍の沼沢地帯に作られた国だ。
この本は主にその興隆期を描いている。主要な登場人物は……誰だっけ。覚えていない。
塩野氏はヴェネツィア共和国に惚れ込んだわけで、個々の人物に力点をおいていない。ヴェネツィア共和国そのものがヒーローなのだ。
海辺の沼沢地で耕地なし真水なし、という最悪な環境で、どのようにヴェネツィアは栄華をきわめたのか。
元老院による寡頭政、国としての商売のやり方、同じ海を駆けるライバル・ジェノバとの比較などあらゆる角度からこの国の魅力を描いたのが本書である。
惚れたものを書くとき塩野氏の筆は勢いにのり、冴え、おもしろい。そりゃもう、痛快です。
最もおもしろくて笑いさえ出てしまったのが「第四次十字軍」の章です。
<以下、この章についてネタばれ 注意>
大規模な十字軍遠征を決めたフランス貴族に、大量の輸送船を提供する契約をかわしたヴェネツィア共和国。
国の力を総動員して用意した。出陣の約束の日、思うように人員が集まらず、対価の支払いもままならないフランス貴族に対し、ヴェネツィアはどうしたか?
十字軍だからってタダで船と人員をお貸しするわけにはいきません……でも用意したもの無駄にするのも大損です。そこで――
ヴェネツィアに利するほうへ十字軍を導き、借金のカタに働かせてしまいました。無理矢理、というのではなく商売人らしく駆け引きでもって、です。
こちらからあちらへ、今度は季節が悪くなったからちょっと待て、こうすれば利益があがるよ などなどと十字軍を言いくるめて動かしていきます。
結果、ヴェネツィア共和国にはとても利益のある遠征となりました。
十字軍のほうはさんざん連れまわされ転戦して、終わってみれば あれ? おかしい。異教徒と戦ってないじゃないですか!
これでは十字軍とは言えません。
途中でいやになって離脱した人々ももちろんいたのですが、ヴェネツィアに金銭的に借りがある主要陣(フランスのボンボン貴族?)はうまく乗せられてしまったのでした。ヴェネツィア共和国は十分モトが取れたようです。
あっぱれ。
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