講談社文庫 1998 土屋京子 訳
祖母・母・著者の三代の女性の体験を綴ったノンフィクション。国家と社会の動きに翻弄される家族の歴史から、「中国で生きる」現実が生々しく描かれ、圧倒される。共産党幹部だった母の述懐が核となっており、一般中国人には知り得ない貴重な真実が織り込まれている。
1924年、祖母は15歳で軍閥将軍の妾になった。日本占領下の満州で育った母は、共産党に参加。戦後、夫と一緒に共産党幹部に昇進した。中華人民共和国成立後、1952年に産まれた著者は、両親が嫉まれて失脚したため、迫害の中で思春期を迎える。過去を疑われて逮捕された父は精神異常をきたし、母は自らも嫌疑をかけられながら奔走し、父を救おうとする。文化大革命では両親は労働キャンプへ送られ、著者は紅衛兵になったのち農村へ下放される。その後、無免許医や電気工をしながら文革の残虐さと理不尽をみつめ、耐えながら大人になる。ようやく毛沢東が死んで鄧小平が復権、1978年、なんとかロンドン留学の権利を勝ち取って国外脱出を果たすことができた。
簡単に読めるので上・中・下巻といっきに読んで、おなかいっぱい胸いっぱいになってしまった。すさまじい。おそろしい。やることが劇的で、激情にあふれる中国の人々。全編を通じて、メンツとタテマエと理不尽が幅をきかせ、その下には常にねたみそねみと悪意があり、怒涛のような権力欲と不正が活動し、難を避けるためにはいつも本音を隠して演技をしていなければならない・・・。
中国では、多少とも恵まれた立場に居て目立つ者は、いつ追い落としに遭うか用心しなければならないようだ。また、誰と、どの派と与していれば吉か凶かわからない。賛美された者がある日批判され、批判されていたものがまた再評価され持ち上げられる。軍閥割拠の時代から現在まで、状況は変わらない。軍閥のあとは、日本に支配された。反日勢力として国民党が来て、それから共産党がやってきた。誰もが時代の流れのなかで、どれかにいくらかは関わっていたに違いない。それを何十年もたって弾劾するなど言いがかりとしか思えないが、そんな時代がまたやってこないとはいえないのではないだろうか。
次期総書記・習近平も父が党内の権力抗争に敗れ、投獄された。そのせいか、文革のときはわずか15歳で農村に下放されたという。「共産党のおそろしさを知る男」というわけだ。名誉回復で文革時の汚名を返上し、既得権益を握る人たちが多数いる。しかし、人民は文革でさほど被害を受けなかったためか、ひどい飢饉が毛沢東のせいだった(本書によれば)など情報がないためか、今も反日デモに毛沢東像をかかげ、「あのころは平等でよかった」と叫んでいる。共産党と人民の隔たりは大きい。今後、人民をどう幸福にするのか? カリスマにも「反日」にも頼らずがんばっていただきたい・・・と切に願う。
