2024年11月30日付け茨城新聞【茨城論壇】です。
本年4月に『10時間の授業で学校が変わる! 楽しく学べるグループワーク』(金子書房)を出版以来、県内外あちこちの学校でその内容が実践されています。それに伴い、それらの学校で行われている実際の授業を参観する機会が増えてきて、先日も10月(「ワンワード」など)、11月(「私は有名人」など)のグループワーク授業を複数の学校で見せていただきました。
そこで目を引いたことはパワーポイントを使ったインストラクション(ワークのやり方の説明)で、それにより単に話し言葉だけで伝えるのではなく、視覚情報で伝えることもできるし、イラストなども使用して生徒の興味を引くこともできていて、これは私も真似したいと思いました。
一方、そのインストラクションを聞いている生徒たちの顔を見ていると今ひとつ物足りなさを感じたところもありました。「やってみよう!」という生き生きとした意欲に満ちた生徒たちの表情はあまり見られず、どこか教科の授業の延長的な雰囲気でした。これは一体何だろうと考えて気がついたのは、伝達内容が認知的情報中心だったことです。
心理学ではしばしば人間の心を認知、感情、行動の3側面に分けて捉えます。例えば、1枚の風景写真を見たとして、それがいつどこの写真かを考えるのは認知機能です。一方、そんなこととは無関係にその写真が好きか嫌いかを感じるのが感情機能です。そして、自分もそこへ行ってみようとアクションを起こすのが行動機能です。これらの3機能のバランスが取れているのが理想的な状態です。
グループワークのインストラクションにおいても同様のことが言えて、本来なら、どうするかを説明した後(認知)、先生自らが実際にやって見せて(行動)、なんだか面白そうだ!という気持ちを起こさせて(感情)、それを生徒たちの活動(行動)につなげることが望まれます。
パワーポイントを使ったインストラクションは何をどうするかという情報の伝達が中心で、それは専ら認知機能に働きかけますが、その先の感情機能、行動機能への働きかけが不十分と思いました。また、このことと関連して、大学生のアシスタントや教育実習生にモデルをやらせた先生はおられましたが、実際に自分でやってみせた先生はほとんどいなかったことも気になりました。もし、先生自らが生徒たちの前で身体を張って実際にやってみせていたら、生徒たちはもっと積極的に参加しただろうなと思った場面がいくつかありました。
そもそも今回見学したワークはいずれも出たところ勝負のような内容のワークなので、先生が実際にやって見せることには、ひょっとしたら失敗するかもしれないというリスクが伴います。ここで、普段学校で生徒たちを評価する立場にある先生はそのリスクを取ることを無意識のうちに避けているのかしれないと推測しましたがどうでしょうか。しかしそこで先生がリスクを省みずにやってみせることで初めて生徒たちに伝わるものもきっとあると思います。
アメリカの教育学者のウィリアム・ウォード(1921-1994)は「平凡な教師はただしゃべる。良い教師は説明をする。優れた教師はやってみせる。偉大な教師は生徒の心に火をつける」と言いました。先生自らがやってみせ、そして生徒たちの心に火をつけることができたらグループワークはもう半分以上終わったようなものです。生徒たちはきっと進んで意欲的にワークに取り組むでしょうし、結果的にそのことは先生方を助けることにもつながるのです。
