解説:新・スゴロクトーキング! | 茨城大学人文社会科学部正保研究室

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新・スゴロクトーキングの解説です。

スゴロクトーキングは1995年頃に最初のバージョンが作られ、その後少しずつ改善を重ねてきました。ここでは本年発表の新・スゴロクトーキングに基づいて改訂の経緯と狙い等について簡単に解説を行います。

 

1.どうしたら長く(豊かに)話せるか?

一番大きな問題点は、学校現場でスゴロクを行ったとき、早くワークが終わってしまう、ということでした。

「先生、終わった〜。次どうすんの〜?」という声を何度も聞きました。

このような問題に対処するため、一時は「スゴロクトーキング・プラス」というツールを使ったこともあります。

これは、一度サイコロを振って止まったマスの話題を話した後、再度サイコロを振ってスゴロクトーキング・プラスの中の接続詞を一つ選び、その接続詞に続く話をさらに続ける、というものでした。これはインプロの発想を取り入れたものでしたが、「話を長引かせる」という点では大きな効果はなく、弥縫策に終わった感がありました。

また、ネコ(以前はカエル)のマスでは一旦全員が止まって、通り過ぎたマスの話題を話す、というルールを適用したこともありましたが、これはルールに従うことができる子どもが少なく、ルールの徹底という点で問題がありました。

要するに会話というものは「話すこと」と「聞くこと」から成り立っているのですが、年少者の場合は聞く能力が十分育っていないために、人の話を聞いてそこからイメージを膨らませて、相手に質問したり、感想を言ったりすることがなかなかできないのだと思います。例えば、臨床心理学を学ぶ大学院生がスゴロクトーキングをやると、一般の学生に比べて明らかにお話はゆっくりと豊かに進んでいきます。

また、従来は最後に「ゴール」に到達するという形式になっていたのですが、「ゴール」があること(あるいは「ゴール」という文字が目に入ること)によって無意識のうちに参加者の闘争本能が刺激されて、先を急ぐという結果になっているのではないかとも考えました。そもそも、「ゆっくりお話を楽しんでください」(インストラクション)と言いながら「ゴール」を設定するのも変な話といえば変だと思います。

このため、新バージョンでは「ゴール」そのものをなくして、ホームからスタートしてホームに戻ってくるようにしてあります。ホームに戻ってきて時間が余っていたら、自然に2周目に進んでいるようです。

そのうえで、今は、無理をして話を長引かせようとするのは止めて、自然な流れに任せるようにしています。

 

2.最初に6が出たらどうするか?

全体の構成は日常生活ゾーン、一番の体験ゾーン、小さな秘密ゾーン、非現実ゾーン、希望のゾーンの5つのゾーンから成っています。各ゾーンに5つずつ話題を配置し、ネコのマスも含めて、全員少なくとも一度は同じカテゴリーの話題を話すように構成してあります。サイコロの目は偶然性を産み出しますが、これにより、参加者の体験の統一化を図ることができます。また、ネコのマスによって、個人の希望もある程度叶うようになっています。

最初のゾーンは日常生活に関する話題を並べてあり、誰でも気軽に話すことができるようにしてあります。しかし、以前のバージョンでは最初にサイコロを振った子が6を出した場合、いきなりカエル(いまはネコ)のマスに到達してしまい、そうすると一旦全部のマスの話題を確認して、その中から話す話題を選ぶ必要がありました。このため新スゴロクトーキングでは日常生活ゾーンのみ6マス構成とし、ホームでふったサイコロが6を出したとしても、ネコのマスには到達しないように作ってあります。

 

 

3.セクシュアル・マイノリティの方への配慮

以前のバージョンでは後半部分に「結婚の条件は」「結婚は何歳頃がいい」「子どもは何人がいい」という話題が設定してありました。これらの話題は一部の生徒、特に女子高生にはとても人気の話題でした。一方、近年、セクシュアル・マイノリティの方々の存在が認知されつつあります。何人かのセクシュアル・マイノリティの方に確認したところ、これらの話題は「話しにくい」ということでした。また、成人の方で離婚経験のある女性が拒否反応を示されたことがありました。もちろん、以前のバージョンから「話しにくい話題はパスすることもできる」としてあったのですが、このような性格を持つ話題は除いた方がいいだろうと考えて新バージョンでは削除しました。いつの日か性的指向等にかかわらずに自由にこのような問題について話し合える日が来るといいと思います。

 

4.全体の構成について

2.でも述べましたが全体の構成は日常生活ゾーン、一番の体験ゾーン、小さな秘密ゾーン、非現実ゾーン、希望のゾーンの5つのゾーンから成っています。最初は日常生活に関する何気ない話題で誰もが抵抗なく話せる話題を指示してあります。一番の体験ゾーンは「そういえば…」と自分を振り返りながら「一番の」という指定をすることで話題の選択にあまり迷いがないようにしてあります。その心の流れを引き継いで「小さな秘密」という自己開示のゾーンに進みます。「小さな」という限定(修飾)をつけることで話し手があまり構えずに話せるように配慮してあります。その上で現実にはありえない話題の非現実ゾーンへ進みます。ここに至る頃には話すことには十分慣れているので、日常はありえないような話でも自由に話せるようになっています。最後は希望のゾーンで未来に向かって意識を開いて行く形で終わります。

また、「心の時制」という観点で上記のゾーンを整理してみることもできます。

日常生活ゾーンは「現在形」のゾーンです。これに対して一番の体験ゾーンは「過去形」のゾーンです。小さな秘密ゾーンは「現在形」と「過去形」が混ざり合っています。非日常のゾーンと希望のゾーンは両方とも「未来形」ですが、現実性の度合いが少し異なります。このように現在の心の時制からお話を始めて一旦過去へ戻り、最終的には未来に向かって進む構成になっています。

 

このような諸事情を考慮して新・スゴロクトーキングは構成されています。

 

新・スゴロク・トーキングはこちら

 

 

※イラスト差し替えました(2024/4/29)