ワインバーでキレた話 | ワインな日々~ブルゴーニュの魅力~

ワインな日々~ブルゴーニュの魅力~

テロワールにより造り手により 変幻の妙を見せるピノ・ノワールの神秘を探る


ドメーヌ・デュジャック エシェゾー 1996
開栓日     2006年8月10日
開栓場所    神戸のワインバー
インポーター  トーメン
店での価格   28000円

久しぶりに面白い体験をした。記憶が新鮮なうちに記録しておく。
今日からわたしはお盆休みで、朝からプレゼンの準備をして、夕方いつものごとく
1時間ほどしゃべった。
そのあとご接待で、三宮にあるワインバーに連れて行ってもらった。初めての店である。

ワインリストを見せてもらったが、キラ星のようなワインが並んでいる。
ブルゴーニュではボトルで3万円程度のものが平均的で、1万円以下のワインなどほとんどない。
ロマネ・コンティとラ・ターシュは合わせて10ヴィンテージ以上置いてあり、
価格もリ-ゾナブルだった。
他には、ルーミエのボンヌ・マール2002が3万円、ルジェのクロ・パラントゥー1997が3万2千円
等々・・

店主のお薦めもあり、デュジャックのこの1本となったが、テイスティングに注がれた液体から
まったく香りが立ちのぼっていない。
「閉じているんですかねえ」
とコメントしたら、「コルクからは良い香りがしています」と店主に言われて、
手元にコルクを見せてもらった。

側面に線があり、上部までワインが染みている。
当然気付いたが、初めての店だし、ここでクレームを付けるのをためらい、飲み始めた。
あとで思えば、ここではっきりと「No」と言うべきだったのかも知れない。

20~30分ほど経って、これは閉じているのではなく、酸化して死んでいるのだとはっきり分かった。
そこで店主に、「このワイン、死んでいますよ。コルクがこの状態だから、コルク不良ですね」
と言ってボトルのワインを試飲してもらった。
そこで返ってきた返事が、「さっきテイスティングしたのに、だいぶ経ってから言われてもねえ・・」
という言葉であった。

こうなると銭金の問題ではない。「このワインをどう思うんですか」と聞き返したら、
「人によって、許容範囲の狭い人もあれば、広い人もあります。うちのお客さんで、沢山飲まれている
 人がいますが、その方ならこれはOKとおっしゃいます」
という返答だったので、完全にキレました。

要するに、この程度なら不良ワインとは言えないから、クレームを言うな、ということらしい。
開栓早々から何の香りも飛ばない、うすっぺらで赤い色水みたいな飲み物が、不良ワインではないと、
この店主は言う。目の前には、明らかに液漏れしたコルクもあるというのに。
しかも、「液漏れしても、味が落ちていないワインもありますから」などと平然と言い放つ。

「このワインを許容範囲とするあなたのお客は、ワインが分かっていない。
 そんな人とわたしをいっしょにしないでいただきたい。それより、これが不良ワインでないと
 言い張るあなたがプロとして許せない」
とキッパリと言ってしまいました。

初めての店で、開栓すぐにキッパリとワインを押し返さなかったのが、ルールとしてどうだ、
と言うこともどうかしている。
わたしは趣味でワインを飲んでいるだけで、正直にその時点でのワインを評価しているに
すぎない。
お金を払うか払わないかに関して、白黒をつけることが問題ではないのである。

個人でやっている店だから、ワインを突き返されると経済的に大変だ、というのも分かる。
だからといって、開栓後20分で完全に死んでいると分かるワインを、
主観の問題にして逃げるというのはいただけない。

1本目が死んでいたら、笑いながら2本目を開けて、お支払いはまあまとめて適当に、
ということでいいわけである。
そして、今夜も最終的にはそうなった(と思われる・・・自分で払っていないので分からない)。

最大の問題は、店主が理屈と詭弁を弄して、ワインをきちんと評価しなかったことにある。
わたしが指摘した時点で、「ああ、これは完全に逝っちゃってますね」と素直に言って欲しかった。
この一言が聞けなかったから、あれだけのワインをリストに備えながら、
「この店主、ほんとうにブルゴーニュを分かってるのかな」という疑問が、今でも頭の隅から消えずにいる。

今夜の教訓・・・ブルゴーニュは、どこで開けてもやっぱり不安定。
わたしのように、感性の指示することでは絶対に妥協しない、というウルサイ客が飛び込みで
やって来るかも知れないし、ブルゴーニュで商売をする、というのは、誠にアブナイ仕事なのである。