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Battle Day0-Day262までのあらすじ (登場人物についてはサイドバーを参照してください)
BattleDay233~ここまでのあらすじ
結局莉子は連絡がなく、父の希望していた老人ホームは、せっかくのアイテル部屋に入ることができず次の機会を待つことになった。コオはいら立ちを募らせる。莉子ばかり心配する父、同僚のソフィの事故のケア、などはコオを疲弊させ、その中で重症のアレルギー事故をを起こしたコオは、体調とともに心のバランスも大きく崩していた。
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父の誕生日が来た。物を送っても、もう仕方ないだろう。コオは、甘いものが好きな父に、その日ショートケーキを買った。
父は食べるのが好きだ。コオが週末に持ってくる、僅かなお菓子を楽しみにしている。北寿老健はおやつの時間もあるのだが、父はいつも「あんんなのひとくちで終わっちゃううよ。」と文句を言っていた。かといって、それを施設のスタッフに言うことはない。
施設の介護士や看護師の話を聞いていても、父は自分でトイレに歩いていくし、特にワガママも言わない、施設としては負担の少ない入所者であるようだ。なんと行っても大半は、自立歩行がままならず車椅子、話ができる人は少数。極端にワガママだったり、明らかな認知症だったりで、父はむしろ優等生だ。
「パパ、誕生日でしょう?おめでとう。今日はちょっと特別なもの買ってきたよ」
コオが見せると、いちごのショートケーキに父は目を輝かせた。
「お母さんが、ずっとお菓子を作ってたじゃないか。」
「うん。まだ家にあるんじゃないの?オーブンだの何だの。お菓子作りの道具がさ。」
「莉子ちゃんも、一時期通ったんだよな、お母さんと同じ料理学校に。」
「へえ。」
「お母さんみたいに仕事にしようかと思ってたみたいだけど、結局続かなかった。」
「・・・」
母が、料理学校の先生になったとき母は40代後半だったと思う。もともと好きだったのもあるのだろうが、当時高校生だったコオは、母が今まで見たことのないような熱心さで、講師試験の試験勉強をしていたのを覚えている。実技だけとは行かず、紙のテストももあったのだろう。母は、自分が好きなことにはとてつもない集中力を見せるところがあった。いくつになっても勉強はできる、ただし、勉強するまとまった時間をとること、長く離れていた“勉強“をすることが、どれほど大変なことかを間近にみせられたが、母はあれで良かったのだろう。
それにつけても、とコオは思う。
あの母の姿を同じく見ていながら、莉子は母から何も学ばなかったのだろうか。何かをやり遂げようとすれば、無理をしなければならないことがある。たとえ好きな事であっても、あるラインを超える時は苦しい時もある。
たとえ同じ親の元で育っても、見えているものの解釈の仕方が全く違ったのかもしれない、コオはそんなことを考えた。

