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Battle Day0-Day262までのあらすじ (登場人物についてはサイドバーを参照してください)
BattleDay233~ここまでのあらすじ
結局妹・莉子からは連絡がなく、父の希望していた老人ホームは、せっかくの空いている部屋に入ることができず次の機会を待つことになった。コオはいら立ちを募らせる。
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コオは次第にバランスを崩していった。
もともと、離婚して、一人暮らしになり、泣き暮らしながらも仕事をしていた事自体が驚きなのだ。ただ、たとえ父を通じてでも、理不尽な妹・莉子に対応することは、コオの価値観のバランスを崩すようなことだった。だから、コオには普通の(コオにとっては普通の)会話ができる場所が絶対に必要だった。仕事場は、そういう意味では辛いながらもコオにとっては安全な場所だったはずなのだ。
けれど、週末の父の面会で、たびたび莉子の仕事のことが話に出るようになってから、コオはひどく仕事に行くのもつらくなってきていた。その頃、事故があった。
コオは、その日、ぼんやりしていたわけではなかったはずなのだが午前中、昼近くに仕事をしていて小さな傷を作ってしまった。親指の付け根でぽつりと針を刺した程度の小さな傷は、痛みも特になく、コオは流水をしばらくかけ、軽く消毒だけした。別に危険なウイルスを扱っているわけでもないから、これで十分だろう。
ところが1時間もしないうちに、猛烈に腕がかゆくなってきた。
(あ、アレルギーだ。)
コオはアレルギー体質だ。スギの花粉症がもともとかなりひどかったが、特にこの仕事についてから、花粉以外でも色々なアレルギーが出てきた。しかし、良くも悪くも、慣れがでてしまった。
1時間もたたないうちに、オフィスの男性社員が目をむいた。
「し、嶋崎さん、なんすかそれ!?」
「え?あーなんか、すごいかゆいけど。」
鏡を見に化粧室に行き、コオは自分が頭の先から全身が真っ赤にはれ上がっているのを知った。そういえば、昼にランチを食べに行ったとき、何故か食べ物が飲み込みにくくて、食道を通っていかない感覚があって、おかしいと思ったのだ。
・・・これはいわゆるアナフィラキシー的なものだ。呼吸には幸いあまり出てないようだけど。でもかゆみはすごい勢いで増してきている。頭皮から始まり全身がじっとしていられないくらいかゆい。いや・・・目もおかしくなってきた。鼻の中も。
(これは・・・まずいかなぁ・・・粘膜に浮腫が出てきたら・・・脱水しそう。)
目の裏、鼻の中。口や気管にも出たら、呼吸に支障が出るだろう。目と鼻の閉塞感が時間とともに明らかにひどくなってくる。
(このままほおっておいて…死んでもいいかなぁ)
コオはぼんやりと思った。

