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Battle Day0-Day231までのあらすじ (登場人物についてはサイドバーを参照してください)

 

 

Day232-これまでのあらすじ

 ある日、夜中に電話が鳴る。遼吾を待つコオだったが、期待に反して電話は、T大学病院。コオの同僚ソフィ李が事故を起こし、救急車で運ばれた連絡だった。命に別状はなかったが、翌日に病院に迎えに来るように、病院側に頼まれる。不便な場所にある病院とけが人のため、コオは別れた夫遼吾に車を借り, ソフィのもとに向かい、彼女の大けがを目の当たりにする。検査結果が出るまで4時間待たされることになり、コオは、一度職場に戻り、ソフィの着替えを購入し、上司に事故の報告をした。ソフィのところに戻るが、彼女は朝コオに会ったことを覚えていなかった。コオは記憶が抜け落ちていくソフィに不安を感じながらも退院を手伝い、車で帰路に就いた。

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 ソフィの事故は、その後もコオの生活にしばらく後を引いた。 

 警察との現場検証や、病院の再診。病院は遠すぎたので、近くの病院への転院手続き。折れた歯のための病院探し、予約。付き添い。ともかく、どこに連絡しても、彼女は英語は自在、日本語は聞く方は問題ないが喋る方は片言だ、と伝えると日本人に付き添ってもらってくれ、といわれた。

 事故の経緯、救急車で搬送されたときの話は、コオが最初に関わったので、どうしてもコオが付き添わざるを得ないことが多かった。しかし、様々なソフィの事故処理をを、自分だけが引き受けるのもおかしな話だ、と思ったので、コオは少しずつ、同じ部署の同僚たちに仕事を振りわけていった。

 大概が面倒くさい、という顔をしつつも引き受けてくれた。もっとも、そんな顔をされると、それだけでコオは罪悪感を感じてしまい、それがストレスになるので自分でやってしまう、というのが今までのパターンだった。しかし今回はともかくソフィの労災手続きだけでも仕事量があまりにも多かったので、心に蓋をするように努めた。

 コオが、労災関係の書類を病院に届けるように頼んだとき、露骨に面倒くさいので嫌だ、といった男性社員もいた。その時は危うく、『もういいです、私がやります』と言いそうになったのは本当だ。けれど、今回ばかりはそうもいかない。

 

 「ええ、大変ですよね。実際病院も遠いですし。来週は私は彼女の付きそいで行きますが、再来週は私はどうしても無理なので江古田君が行ってくれます。転院できれば、もっと楽に行けるようになると思いますが、今は送迎だけで往復3時間はかかります。みんな仕事がありますから、分担しないと、仕事時間が削られる一方になってしまいますから、今回の書類を届けるのは、すみませんけどよろしくお願いします。ああ、その書類ですが書類がこちらにもどってきたらその時の処理は咲田さんが全部引き受けてくださるそうです。」

 

 コオはぶっきらぼうに言った。私が、申し訳ない、と思う必要はないのだ。これはソフィの仕事だ。それが彼女が言葉の問題でできないから、同僚としてボランティアで手伝っているだけ。それは私自身に割り当てられた義務ではない。私以外の同僚に手伝ってもらったからといって私が罪悪感を覚える必要はない。めんどくさい、とやらない奴が罪悪感を持てばいい。こいつがどうしてもやらないというなら、上司に言ってやる。めんどうくさがってんじゃねーよ!!そもそも、この大学病院、あんたの自宅方向じゃない!

 

 「・・・わかりました。」

 「ええ、よろしくお願いします。遠いけど、気を付けて行ってくださいね。ちょっと道が分かりにくかったから。」

 

 思えば、いつだってその男性社員に対しコオは苦手で強く出られなかった。それをこれだけコオが強く出られたのはこのときが初めてだった。コオが無駄に罪悪感を持ちがちで、ついつい自分で引き受けてしまう。コオはいつもそれを利用されているような気がしていたので、この時、少々気分がよくなったのも本当だった。

 父の老人ホーム

 莉子とのトラブル

 遼吾との離婚

 この3つの事がずっとコオにのしかかっており、そこにソフィの事故処理が加わり、仕事以外でコオの日常は膨れ上がり精神的には限界だ、とコオは感じていた。