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これまでの話

Battle Day0-Day169 のあらすじは、以下のリンクをご覧ください、

登場人物は右サイドに紹介があります、

 

Day170- あらすじ

コオの父は、紅病院から北寿老人保健施設(通称北寿老健)に移った。

父の回復は順調で、カラオケを歌い、写経をし、本を読み、好きだった囲碁にも手を付けるようになっる。離婚後の一人暮らしは孤独であったコオだが、息子たちと訪れた父の施設での夏祭りなど、ひと時、穏やかな時を過ごしていた。1ヶ月がたち、父は自宅にもう戻らず、施設にはいるつもりであることを話し、永住型の施設を探してくれるようにコオに頼む。コオはケアマネージャー・立石に連絡を取り、高齢者住宅専門の業者を紹介してもらい探し始める。その過程で、コオは、父の年金額を知らなければ話をすすめられないと認識するが、莉子を経由しなければならず、いつまでたっても情報は手に入らない。コオは父と同年代の親戚をもつ職場の長田から得た情報をもと検討をつけたところで、コンタクトを取った業者のうちの一つと連絡をとり、候補施設を見学することになる。

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 「父は、最初の老健入所で個室だったんです。孤独感があって嫌だった、といってました。2回目の大部屋の方がよかったみたいです。ですから、できる限りたくさんイベントがあるような、集まれる場所があるのがいいと思ってます。」

 

 そういったコオに、所長と名乗った女性はカレンダーを見せながら、

 

 「そうですね、毎日、何かしらのイベントは行ってますよ。場所は、皆さんと食事をされる大食堂、もしくはその隣の談話室ですね。」

 

 30日のカレンダーのマス目には、カラオケ、とか習字、とか陶芸教室とか、そんなことが書いてあった。保育園の行事業のようにかわいいイラストが加えてある。

 

 「参加したくなければお部屋にいても構わないんです。参加しませんか、とお声はかけますけどね。陶芸教室など材料費が少しかかるイベントは、少しご負担く場合はあります。リハビリは、老健とはことなりまして、基本的には生活リハビリです。つまり、生活の上での動き自体がリハビリ、という考え方です。食事のたびに部屋から食堂まで歩く、ということ自体がリハビリなんです。ですからリハビリの時間、というのはないですがお声がけして、機能回復訓練室にお誘いすることはできます。基本的には本人のご希望ですけれど。その際はもちろん職員が付き添います。」

 

 少しずつコオはわかってきた。なるほど。

 こういう永住型の老人ホームは、必ず介護者の目があるとはいえ、マンション生活のようなものなのだ。だから基本強制はない。本人の意志が最重要なのだ。

 

 「お父様は、要介護2ですよね。自立歩行も問題ない。でしたら3階ですね。2階は・・・もう少し症状の重い方が入所されてますので。」

 

 特に認知に問題のない入所者と、認知症の入所者はフロアを分けてある。これも基本は3つの施設で同じだった。

 車いすの通れる広い廊下。少し古いが清潔感のある建物。なにより、コオは介護職員の人たちの雰囲気がいい、と感じたのでこの1番目の施設はとても気に入った。

 次は、かかる費用の説明を受けた。

 この日は3つ、また後にコオはいくつかの施設を見学することになるのだが、基本的に費用のパターンは施設ごとに2つのプランをもっていた。

 

 プランA: 月々の支払 XX 万円+オプション(医療費、おむつ代、有料イベントへの参加費)

 プランB: 前金 + 月々の支払〇〇万円 +オプション(医療費、おむつ代、有料イベントへの参加費)

 

 さて、AとBの月々の支払額は大きく異なる。例えばこの一つ目の施設では5万円ほどBプランの方が安い。

 けれど、前金は300万円だ。

 通常前金300万円は5年をかけて償却される。月当りにするなら5万円。

 つまり最初の5年だけを考えるなら、A,Bプランともに、結局、月の支払額は変わらない。

 しかし、その後6年目からも月の支払額は変わらないので、長く入所が見込まれる場合はBプランの方が断然安いということになる。ちなみに、万が一5年以内に入所者が亡くなったりした場合は、前金分は入所期間分を相殺し、戻ってくることになっている。

 

 どちらを選んでも、結局は一緒なのだが、それは支払いの出所がが同じ場合だ。

 コオは月々の分は基本は父の年金から、と考えていたので、父の無理がない支払を考えるのなら、自分と莉子が前金を出すのがいいだろうと考えていた。

 そう、その時はまだ、コオはそう考えていたのだ。貯金を吐き出すのはきついけれど、父の面倒を5年見てもらえる分だと思えば妥当な額だろう。子供が小さかった時にかかった保育園代の額を思い出しながら、コオは思った。

 オプションは、今の父の状況ならば月1万円みれば十分。不慮の医療費も考えた方がいいだろうが、それは仕方のない部分だ。自分の支払いが一番多くはなるだろうが、莉子から少し、と父の貯金で何とか賄えないことはないだろう。

 高額医療費助成を使えば、返ってくる分だってある。

 

 (いずれにしても最終的には父の年金額を知らなければならないけど)

 コオは忙しく頭の中で計算をしていた。