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これまでの話
Battle Day0-Day135 のあらすじは、以下のリンクをご覧ください、
登場人物は右サイドに紹介があります、
Day170- あらすじ
コオの父は、紅病院から北寿老人保健施設(通称北寿老健)に移った。
父の回復は順調で、カラオケを歌い、写経をし、本を読み、好きだった囲碁にも手を付けるようになっる。離婚後の一人暮らしは孤独であったコオだが、息子たちと訪れた父の施設での夏祭りなど、ひと時、穏やかな時を過ごしていた。1ヶ月がたち、父は自宅にもう戻らず、施設にはいるつもりであることを話し、永住型の施設を探してくれるようにコオに頼む。コオはケアマネージャー・立石に連絡を取り、高齢者住宅専門の業者を紹介してもらい探し始める。その過程で、コオは、父の年金額を知らなければ話をすすめられないと認識し、父に尋ねるが、結局莉子、あるいは莉子の持つ通帳の情報がなければわからないことがわかっただけであった。コオは父に、莉子に尋ねる、もしくは通帳の数ページのコピーを持ってくるように、頼んでくれ、という。
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いつまでたっても、年金の額はわからず、通帳のコピーも届かなかった。
コオは、父の面会に行くたびに、「それで莉子はなんて言ってた?通帳のコピーは?」と聞くのだが、
「それが聞くと、『パパは心配しなくって良い』っていうだけなんだよ・・・」
「いや、そういう問題じゃないないんだけど?」
そもそもなんだ、その答えは。
心配とかじゃない、必要な情報なのに。相変わらず、こちらが聞いても求める答えが全く返ってこない。
コオはいらいらしていたが、 ふと、職場のパートの長田(おさだ)さんの話を思い出した。確か、親せきが・・・父と同じくらいの年の叔母さん?が結婚せずに、定年まで勤めあげた人で・・・その叔母さんというひとは確か結婚してなくて・・・姪っ子の長田さんに、金銭管理を任せていた、とか言ってたような気がする。企業に勤めていて、父と同じくらい働いて、同じくらいに定年を迎えた。事情を話して、大まかな年金額を教えてもらうことはできないだろうか?コオは全くの他人だし、失礼ですけど・・・といえば、もしかして。それを一応目安にすればいいのではないだろうか?
コオは、職場で二人になれる時間を探した。それは大して難しいことではなかったが、切り出し方をコオは迷いながら、言った。
「長田さん。すごく失礼なのを承知のお願いがありるんですけど…年金のことで知りたいことがあるんです。長田のおばさまの。」
長田さんは目を丸くしていた。お嬢様で育ったらしく、おっとりとした女性的でいい人なのだが、ストレートに話をすすめるのは時々難しい。ただし、女性的に過ぎて、周辺情報から入ると、彼女の相づちから話がどんどんそれていく可能性がある。仕事中ではあるのだ。ストレートに聞いて、駄目なら駄目で、仕方ない。また次の方法を考えよう、とコオは決めていた。
「父が、老人ホームに入りたがっているんですが、私、年金の額を知らないので予算を設定できないんです。月々のいくら払えるのかわからないと、条件すら決められない。でも、父も覚えてないし、妹にも何回も父から頼んでもらってるんですけど、情報が未だに手に入らないんです。」
ああ、と長田さんはうなずいた。いつもコオがグチっているから、莉子とのトラブルはすでに他の同僚たちよりもよく知っているのだ。
「そうですか、いまお父様、老健でしたよね?移るんですか。」
「ええ。それで永住型をさがしてるんです。・・・失礼なのはわかってるんですけど、長田さんの叔母様って、退職まで勤めてらして、今75歳以上ですよね?・・・それで、参考までに、ざっくりとどれくらいの額なのか、教えていただきたくて。駄目なら駄目で言ってください。失礼なのは承知なので。でも、今他に知る方法がなくて。色々ネットでも調べたりしたんですけど、本人の年金番号とか書類を揃えたとしても、本人以外の人間がたとえ家族でも年金の額を知るのは
とてつもなく難しいようなんです…」
コオは思いつめたような顔をしていたのだろうか。
「父のホームを探すにあたっての、ざっくりの参考にしたいだけなんです。すみません、失礼なこと訪ねて。」
コオは頭を下げた。

