読書な日々、日々。 -9ページ目

スカイブルーの空に(短編小説)

雲が一筋、軌跡を残した。



もう三年になる。私の足が動かなくなってから。かつては将来を有望された教授職にあったにも関わらず、私の足は動かなくなった。
原因は過度のショックと、ストレス。
監禁され、あらゆる拷問を受けて…命があるだけでもマシだとは思うが。
とにかく、私は自室の窓から三年間空を見ていた。


動かないと言っても、足だけなのだ。日常生活をするには、慣れと車椅子が必要だった。だが再び、教授職に戻る事は出来なかった。…研究が出来ない。
私の専門分野は、フィールドワークが必要だ。この動かない足では到底無理な話。




「空が、遠いな…」

高い空を飛ぶ飛行機には、友人が乗っている。彼はパイロットで、自分が空を操っているのだと豪語する馬鹿だ。
だが、彼が羨ましかった。
私は立つことも敵わない。一番したかった研究すら出来ない。
無意味に消えてゆく飛行機雲のように、私の日々も無意味に過ぎていく。




いつの間にか夏の空になっていた。空が更に遠くなるようだ。迫ってくるのは入道雲だけ。


「また空、見てんのか。リハビリしろよな~」

脳天気な声がする。…空馬鹿だ。
「リハビリか…しても無駄だろうな。」
「馬ァ鹿。医者は動くって言ってたろうが。」

そう、医者は動くようになると言ったのだ。役立たずな私の足も、本当は動くのだと。


「……フィールドワークがしたい、な。」
「だからリハビリしろ。本当に動かなくなる前に。そしたら、飛行機にだって乗れるぜ?」


またか、この空馬鹿め。

「………確かに今のままじゃ、空が遠いな。」
「次に帰ってくる時までに、立てるようになれよ。そしたら、すぐにチケット取ってやるよ」


スカイブルーの瞳がニヤっと笑う。空と同じ色の瞳を持った空馬鹿は、また空へ帰るのだ。











数ヶ月後、私は空馬鹿と並んで空港に居た。
スカイブルーの空を目指して、飛行機が飛ぶ。



END

水滴の行方(短編小説)

梅雨明けするかと期待したのに…また今日も雨が降った。
四季があるのは素敵な事。
だったら四季だけでいいじゃないか。
梅雨、いらないだろ。



なんて馬鹿な事を言っていたら罰が当たった。今日に限って、傘を持っていない。

「マジかよ…」

空を見上げて、呆然としているのは俺だけ。何時も持っている折り畳み傘も忘れている。

「…ドシャ降りだしなぁ…濡れて帰るしかないか。」

雨は止む気配すら見せない。更に強くなった気がする。梅雨がいらないなんて言わないから、神様雨を止めてー!!なんてな。

「おい、入るか?」

唐突に言われたのに驚いて、肩が跳ねる。あ、隣のお兄さん。
「いや、でも…」
「傘無いんだろ?濡れるよりはマシだと思うが。」

俺とそんなに歳は変わらない。同じ大学じゃなかったかな。俺の住むアパートは学生向けだし…こっち方向にあるのは、俺が通ってる大学だけ。

「え~と…片瀬サン?」
「ん。で、入るのか?」
「お願いしてもいいですか?」

無言で頷くお隣りさん。
片瀬侑斗サンっていうらしい。帰り道で、思ったより意気投合してしまった…


梅雨が嫌いだって言ってる俺に侑斗サン(名前で良いって言われたんだ!)は、不思議そうな顔をした。
侑斗サンの地元は、梅雨が無いと水不足になるんだって。
俺なんて、生まれたのも育ったのも都会だったから全くそんな事知らなかった。


「侑斗サン、梅雨だけで水不足って解消されるの?」
「ん。オレの地元はかなり雨が降るからな。空梅雨だと、水が足りなくて断水とかあるんだ。涼は経験無いか?」
「…無いカモ。台風もくる?」
「台風も水不足解消の一つの手だな。」



勉強になった。帰り道だけじゃ話し足りなくて、俺の部屋で一緒に飯を喰うことになった。
変な会い方したけど、まぁ梅雨の奇跡ってか、梅雨のお陰かもな。


梅雨の水滴も、恵みの雨ってコトなのかな~


END

震える背中(短編小説)

大きかった。
本当に偉大で、追い付けはしないのだろうと思っていた。

そんな父の背中が、小さく見えた。母の葬式が終わった時だった。本当に小さく弱く…捻り潰せるのではないかと思うぐらいにか細かった。


「父様、体が冷えます。中にお戻り下され。」
「…アレの事を思い出しているのだ。しばし、二人にしておくれ。」
「……はい。」

寒空の中、ただじっと地面を見つめたり、空を見上げたり。きっと母との想い出があるのだと思う。
見合い結婚だった割に、両親は仲睦まじかった。母は父に尽くし、父は母に優しかった。


震える背に上着をかけ、私は室内へと戻る。
これからは、父は母の面影だけを追う日々になるかもしれない。



震える背中を見つめながら、私は私自身の母との想い出を思い始めていた。



END