バレンタインの朝だった。前日から必死に本を見ながらお母さんと一緒に作ったチョコをかばんに大事に詰めて、私はいつもより30分も早く家を出た。
どうやって渡そう?道すがら大好きな幼馴染の啓君に、帰りに渡したほうがいいのか、それとも机に入れておこうかな?といろんな想像をめぐらして、どきどきと高鳴る気持ちだけが足を急がせた。
だけどその日に限って、前日の雨がところどころ氷になっていて、公園を横切るときに足を滑らした。
「あっ!」その言葉が言い終わるか終わらないかのとき。チョコをしまっていた鞄を思い切り地面にたたきつけた。しりもちをついた痛さが和らいだ時、はっとして鞄を覗いた。包装は何事も無く無事で、私はほっとして汚れたスカートのすそと鞄をはたき学校へ急いだ。
学校についた時にはクラスメイトが数人先に来ていて、机の中に入れるのは止めた。その日は一日中ずっとどきどきして、先生のお話も授業もほとんど上の空で聞き流した。
放課後、敬君は部活で遅くなりそうだった。太陽が西に静かに傾いて、風がきつくなり、マフラーがふわりと風になびいていた。会社帰りのOLが寒さ でコートの襟をぎゅうっと片手で閉じ、猫背になりながら早足で帰っていく。私は下を向いては木枯らしに流れる枯葉を目で追ったり、つぼみだけを固く閉じて 着けている桜の並木道を見上げたり、遠くの曲がり角を敬君が通らないかなと探したりした。
ずいぶんと日が傾き沈み始め風がさらに冷たくなり始めた頃、やっと敬君はゆっくりと桜並木の道にやってきた。だれも居ないことを私は確認して、敬君に声をかけた。
「あの、これ・・・食べて・・・く・・れ・たら・・・」最後はほとんど聞き取れないような声で言うと、箱を敬君に押し付けた。敬君は少しの間黙っていたが片手で受け取ると
「開けていいか」と聞いた。いいよという返事も聞かず彼はするするとリボンを解いて箱を開けた。
中には割れたチョコがあった。
一瞬の二人の絶句の後、私はぼろぼろと泣いた。そんなつもりはなかったのに。なんで割れたのか それよりこんなものを渡したことがひどく堪らなかった。
「食べやすくていいよ」と彼は言ったけれど私はそれを聞かずに蓋をしようとした。
とたんに箱が落ちてチョコは全て泥まみれになってしまった。
呆然とした。
しゃがんで拾い上げ泣きじゃ繰りながら箱に戻しきった時、彼は私の手に何かを包ませた。
それは一粒のキャラメルだった。彼の顔を見上げると少し笑って
「チョコは残念やったけどな。今日はたまたまキャラメルがあったから半分こや」と言って口の中にキャラメルを入れた。私も黙ったまま真似して口にキャラメルを入れた。
喉がきゅっとなるくらい甘く口の中に広がった。ぎゅっと目をつぶっていたら彼は優しく頭をなでてくれた。
あれから、冬の寒い日にあのときを思い出してキャラメルを口にします。底冷えする寒さとほろ苦い甘さに少し涙が出てきました。
どうやって渡そう?道すがら大好きな幼馴染の啓君に、帰りに渡したほうがいいのか、それとも机に入れておこうかな?といろんな想像をめぐらして、どきどきと高鳴る気持ちだけが足を急がせた。
だけどその日に限って、前日の雨がところどころ氷になっていて、公園を横切るときに足を滑らした。
「あっ!」その言葉が言い終わるか終わらないかのとき。チョコをしまっていた鞄を思い切り地面にたたきつけた。しりもちをついた痛さが和らいだ時、はっとして鞄を覗いた。包装は何事も無く無事で、私はほっとして汚れたスカートのすそと鞄をはたき学校へ急いだ。
学校についた時にはクラスメイトが数人先に来ていて、机の中に入れるのは止めた。その日は一日中ずっとどきどきして、先生のお話も授業もほとんど上の空で聞き流した。
放課後、敬君は部活で遅くなりそうだった。太陽が西に静かに傾いて、風がきつくなり、マフラーがふわりと風になびいていた。会社帰りのOLが寒さ でコートの襟をぎゅうっと片手で閉じ、猫背になりながら早足で帰っていく。私は下を向いては木枯らしに流れる枯葉を目で追ったり、つぼみだけを固く閉じて 着けている桜の並木道を見上げたり、遠くの曲がり角を敬君が通らないかなと探したりした。
ずいぶんと日が傾き沈み始め風がさらに冷たくなり始めた頃、やっと敬君はゆっくりと桜並木の道にやってきた。だれも居ないことを私は確認して、敬君に声をかけた。
「あの、これ・・・食べて・・・く・・れ・たら・・・」最後はほとんど聞き取れないような声で言うと、箱を敬君に押し付けた。敬君は少しの間黙っていたが片手で受け取ると
「開けていいか」と聞いた。いいよという返事も聞かず彼はするするとリボンを解いて箱を開けた。
中には割れたチョコがあった。
一瞬の二人の絶句の後、私はぼろぼろと泣いた。そんなつもりはなかったのに。なんで割れたのか それよりこんなものを渡したことがひどく堪らなかった。
「食べやすくていいよ」と彼は言ったけれど私はそれを聞かずに蓋をしようとした。
とたんに箱が落ちてチョコは全て泥まみれになってしまった。
呆然とした。
しゃがんで拾い上げ泣きじゃ繰りながら箱に戻しきった時、彼は私の手に何かを包ませた。
それは一粒のキャラメルだった。彼の顔を見上げると少し笑って
「チョコは残念やったけどな。今日はたまたまキャラメルがあったから半分こや」と言って口の中にキャラメルを入れた。私も黙ったまま真似して口にキャラメルを入れた。
喉がきゅっとなるくらい甘く口の中に広がった。ぎゅっと目をつぶっていたら彼は優しく頭をなでてくれた。
あれから、冬の寒い日にあのときを思い出してキャラメルを口にします。底冷えする寒さとほろ苦い甘さに少し涙が出てきました。
