侍は茶屋を出ると 志津が言う場所に向かった。山はうっそうと生い茂り、獣道しか見当たらない。草枝を掻き分けながら進むと
川べりに一本の大きな立派な椿の木があった。下を見たが花は一輪も落ちていない。
「これか・・・」そういうと一枝手折る。
やはり花は落ちない。
持ち帰るまで本当に落ちなければこれを殿に、それにあの娘も差し出すのもいい。侍はもと来た道を帰り始めた。
志津は侍が去った後、茶屋の回りの椿を見た。殆どは見事なぐらい、りっぱな花を咲かせている。
悲しそうな顔でその一輪、一輪を眺めていた。もう花を咲かせなくなった木 枯かけた木にはこれも慈しむようにして手をかける。
侍は10日程で志津の前に現れた。
いつものように微笑んで志津は言う「ありがとう御座います。」
「さぁ では約束だ。一緒に来てもらおう」侍は志津の手を引くが、志津はするりとその手から逃れた。
「お侍様、お願いがございます。・・・この柘植で櫛を作ってくださいませ。」そういうと志津は柘植から一本手折り侍に渡した。
「櫛をここまでお持ちいただきたいのです。ただし、櫛が出来たなら一度も女の髪をすくことなくお持ちくださいませ。」
頑なな志津に侍は一言
「・・・分かった 」と返事した。
少しして、道の傍に侍はこの枝を捨てようとしたが、気が変わり都に赴き 一人の職人に櫛の依頼をした。職人はたいそう立派な柘植に驚いた。そして職人は考えた。この侍、この柘植の価値を分かっていない。それなら・・・
職人は別の柘植で櫛を作り侍に渡した。志津の柘植からも一応櫛を作り上げた。
侍は懐に櫛をしまうと足早に都を離れようとした。
入れ違いに職人の店にお忍びで姫が入った。そこでとても美しい櫛を見つけた。
姫は試しにと 髪をすいた。
侍は足を止め、都に戻り始めた。懐の櫛を捨てて。
後にこの侍は姫と結ばれたのだという。
志津は侍が持ってきた椿を植えて手をかけた。すぐに立派になり花を咲かせた。そうしてやはり悲しそうにその花を愛でるのだった。志津はここにもうあの侍は来ない事を分かっていた。
「末永く お元気で」
ぽつりとつぶやくと朝の支度を始めたのだった。
そんな事が幾日も幾日も続いた。途中で椿の枝を無くした者は違う枝を用意したが、茶屋につく前に道に迷い別の村に行ってしまったりした。もう決して茶屋には行く事が叶わない。
それから 幾晩がすぎただろう。雪のしんしんと降る静かな夜。その日一人の男が茶屋の戸を叩いた。
川べりに一本の大きな立派な椿の木があった。下を見たが花は一輪も落ちていない。
「これか・・・」そういうと一枝手折る。
やはり花は落ちない。
持ち帰るまで本当に落ちなければこれを殿に、それにあの娘も差し出すのもいい。侍はもと来た道を帰り始めた。
志津は侍が去った後、茶屋の回りの椿を見た。殆どは見事なぐらい、りっぱな花を咲かせている。
悲しそうな顔でその一輪、一輪を眺めていた。もう花を咲かせなくなった木 枯かけた木にはこれも慈しむようにして手をかける。
侍は10日程で志津の前に現れた。
いつものように微笑んで志津は言う「ありがとう御座います。」
「さぁ では約束だ。一緒に来てもらおう」侍は志津の手を引くが、志津はするりとその手から逃れた。
「お侍様、お願いがございます。・・・この柘植で櫛を作ってくださいませ。」そういうと志津は柘植から一本手折り侍に渡した。
「櫛をここまでお持ちいただきたいのです。ただし、櫛が出来たなら一度も女の髪をすくことなくお持ちくださいませ。」
頑なな志津に侍は一言
「・・・分かった 」と返事した。
少しして、道の傍に侍はこの枝を捨てようとしたが、気が変わり都に赴き 一人の職人に櫛の依頼をした。職人はたいそう立派な柘植に驚いた。そして職人は考えた。この侍、この柘植の価値を分かっていない。それなら・・・
職人は別の柘植で櫛を作り侍に渡した。志津の柘植からも一応櫛を作り上げた。
侍は懐に櫛をしまうと足早に都を離れようとした。
入れ違いに職人の店にお忍びで姫が入った。そこでとても美しい櫛を見つけた。
姫は試しにと 髪をすいた。
侍は足を止め、都に戻り始めた。懐の櫛を捨てて。
後にこの侍は姫と結ばれたのだという。
志津は侍が持ってきた椿を植えて手をかけた。すぐに立派になり花を咲かせた。そうしてやはり悲しそうにその花を愛でるのだった。志津はここにもうあの侍は来ない事を分かっていた。
「末永く お元気で」
ぽつりとつぶやくと朝の支度を始めたのだった。
そんな事が幾日も幾日も続いた。途中で椿の枝を無くした者は違う枝を用意したが、茶屋につく前に道に迷い別の村に行ってしまったりした。もう決して茶屋には行く事が叶わない。
それから 幾晩がすぎただろう。雪のしんしんと降る静かな夜。その日一人の男が茶屋の戸を叩いた。