朝になり侍は目を覚ました。
味噌汁の香と香ばしい魚の焼く匂いで。

昨晩のことを思い出そうとしても、ついと出ない。酒を飲んだまでは覚えていたのだが。

「お侍様 おはよう御座います」
志津はにこりと微笑んだ。侍は驚いたがなんとか隠し通した。

「おはよう」無骨に挨拶をかわす
「朝膳の用意が出来ております。どうぞ・・・粗末なもので口に合いますか・・・」
志津は少し下がって膳を運ぶ。

空腹に気付いた侍は黙って飯を口にした。

腹が落ち着いてから侍は志津に言った
「一緒に里に下りる」言い切る侍に 志津は少し悲しそうに微笑むとこう切り出した

「私はここで この茶屋を守らないといけません。けれど もしこの先にある私のいう山から 椿の枝を持ってきてくださればうれしゅう御座います。」

「椿だど?どれだけ縁起の悪い・・・」侍は眉を吊り上げて怒鳴った。

「存じております。ただその椿は花が落ちないそうなのです。それなら 縁起など関係ございません。無理にとは言いませんが。」

花の落ちない椿・・・それは本当だろうか?確かめて本当なら殿に良い土産になる・・・

「ここまでお持ちいただれば その真偽の程を確かめる事ができましょう。」
志津は静かにそう言うと静かに目を伏せた。侍はどうせこの先の使いの途中だからと 心の中で算段をすると わかったと返事をした。