日本サッカー進化論
最近、深夜のスポーツニュースを見ていると、海外移籍の日本人サッカー選手の活躍をしばし耳にする。ジュビロ磐田からドイツ・ブンデスリーグに移籍してフランクフルトで活躍する高原直泰。日産マリノスからスコットランドリーグの強豪セルティックに移籍した中村俊輔。日本を代表する選手に成長した二人だがこれほどまでに海外で活躍することを誰が予想していただろうか?
たしかに彼らは国内では、もちろん代表選手として2004年のドイツW杯を経験。ユース時代からその実力を認められてきた選手たちである。しかし海外移籍後はPSVでの高原にせよ、セリエAの中村にせよスターティングメンバーとして出場するというよりは、ベンチを温める機会が多かった。そんな時代を見てきた私は「所詮、日本人サッカー選手の実力はこの程度・・・中田英寿の実力がズバ抜けているのだろう」と思っていた。もちろん日本人選手が海外で活躍することは嬉しいことには違いない。しかし、海外リーグ(とくに欧州)の実力がそんなに低いものだともいまだに思えない。世界的に見てもアジアのレベルはその程度だという認識が現状である。
ところが、昨シーズンの終わりから今シーズンに入っての二人の活躍は目を見張るものがある。フランクフルト移籍後の高原は水を得た魚のようにゴールを量産。今までブンデスリーグで重ねたゴール数を今シーズンだけで超えてしまう勢いだ。中村にしてもセルティックでの中心的選手としての活躍はもちろん、欧州サッカーの最高峰であるチャンピオンズ・リーグでマンチェスターUからFKによる2得点。二人の実力をそれぞれリーグがある国のメディアが賛辞している。
果たして、彼らの活躍をどのように分析することができるのだろうか?考え方としては二通りがある。ひとつ目としては、日本人の選手レベルが、ここ数年で確実に伸びてきていること。日本人サッカー選手レベル急成長説である。もちろん大抵の日本人サッカーファンはこの説を熱望するはずである。Jリーグ開幕から、すでに十年以上の歳月が経ち、リーグ創世記の主人公だった選手たちが、チームの監督に就任するなどリーグに関わる人間が一巡してそれなりに選手のレベルは以前よりレベルが高くなっているだろう。しかしこの説を真に受けるならひとつの疑問が、W杯に3大会連続で出場も果たしたが、南米や欧州はもちろん、アフリカ勢のチームに全く勝てない。2002年の日韓共催にはベスト16という結果を残したものの、ホームゲーム・アドバンテージなどを考慮すれば当たり前の結果であり、レベルの向上とは一概にいえないのが現実である。
そこで、もうひとつの説として私が挙げたいのが、選手個人のレベルは世界的に見ても中堅クラス程度には上がったのは事実とする。しかし、彼らの活躍はそれとは違う基盤のうえに成立する活躍であるということ。その要因は?と問われるのなら「環境への適応力」だろう。
というのも、サッカーを取り囲む環境として、サッカー先進国(欧州、南米)と後進国(アジア等)ではまだまだ雲泥の差がある。それはリーグのレベルにはじまり、ユース世代の育成や文化としての土壌的な問題まで幅広い環境の差である。そして、違った土壌で育つ選手は、それぞれのプレースタイルやサッカーへの考え方までもが違うのだ。それは90分の試合の中での戦略さえ左右する考え方にまでつながってくるものだ。これが文化と言われればそれまでだが、実際、サッカー先進国はW杯でもそれなりの成績をおさめているのも事実だし、サッカーのスタンダードであると言わざるをえない。
そこで、アジアなどのサッカー後進国で特出した実力を持ち合わせた選手が海外へ移籍した場合、これらの環境への適応(試合中の戦略はもちろん、プレーへの考え方など)をまず求められるのである。しかし国内リーグでは敵なしの彼らにとってプレースタイルを変えるというのは、もはや「個性を押し殺せ!!」と言われているのと大差のない要求なのである。なぜなら、彼らが移籍する年齢はチームとの兼ね合いもあり、25~6歳くらいがJリーグでは最もポピュラーな移籍年齢なのだろう。これは個々のプレースタイルが固まった後での移籍なので、諸条件(戦略やプレーそのもの)を満たすまでに要する時間が4年間くらいであると推測できる。これは高原にも中村にも共通して言えることだろう。よって全体的に見ればわずかながらのレベルの上昇はある。そして特出した選手たちの個々の能力はたしかにトップレベルまで到達しないまでも近いものがあるのではないだろうか?
あくまでもこれらの説は個人の考えの域を脱しないのはもちろんだが、彼らの活躍を考慮するならば、フランス2部リーグへ移籍した伊藤翔や梅崎司、セリエAの森本など、まだまだ年齢的に20代前半もしくは10代後半である。この年齢にわたしの説である「4年」を考慮すると彼らが22~3歳程度でトップレベルに近づいていることを考えるともの凄く楽しみであり、期待もてるのではないだろうか。
今さらながら中田英寿のプレー(W杯初出場のアジア大会、ワールドユース)を見ていると彼の能力が代表の中でもズバ抜けていたことを実感する。あの世代ではカズやゴンの名前に隠れてはいたものの、あれだけのプレーが出来る選手はアジアにも数人程度だろう。欧州のスカウトが中田を見逃すはずはなかったし、世界のNAKATAになるのは確実であったことを実感する。今後、彼のような選手がまた登場するだろう。きっとそれは4年後なんだろうなぁ。
日本サッカーに進化あれ。