追悼 ピーター・フォーク氏 | 脚本家/小説家・太田愛のブログ

先日、ピーター・フォーク氏の訃報が届いた。


なんといっても『刑事コロンボ』というかけがえのない存在を残してくれた。

ホームズやポアロは多くの人が演じ、この先も多くの人が演じるだろうが、コロンボは永遠にこの人以外の誰でもありえない。幼い頃にテレビの前に釘付けになった『刑事コロンボ』は自分にとってのミステリの原点となり、ヒーロー像の原点となった。

後年、何度も見直し、どれほど豪華な俳優陣に囲まれ、どれほど傑出したスタッフワークによって成り立っていたかを知っても、悪戯っぽい知性とイノセントで繊細な表情にあふれたピーター・フォーク氏がシリーズの何よりの魅力だった。『二枚のドガの絵』、『溶ける糸』、『ロンドンの傘』、『美食の報酬』、『黄金のバックル』、『秒読みの殺人』、『別れのワイン』、『殺しの序曲』、『黒のエチュード』、『権力の墓穴』など好きな作品ばかりであげればきりがない。


盟友・カサヴェテス監督の『こわれゆく女』、アルドリッチ監督の遺作『カリフォルニア・ドールズ』の中のピーター・フォーク氏も素晴らしかった。若い頃、『ポケット一杯の幸福』で演じたチンピラギャングも瑞々しかった。

ヴェンダース監督の『ベルリン天使の詩』では、「テレビで刑事コロンボを演じている俳優で、実は地上に降りてきた天使」という役柄を演じ、ヴェンダースはこのピーター・フォークを撮りたいがために映画を作ったのではと思わせるほどに天使そのものとしてフィルムの中に存在していた。


チャーミングという形容がこれほどふさわしい俳優もめったにいないだろうと思う。


心からご冥福をお祈りいたします。