日々を生きる。~大切なものを失って得たもの。 -147ページ目

恐怖~わたしの娘の母親、乱入

早朝五時。


扉が開け放たれた。


俺の娘の母親だということはわかりきっていたが、視線は決してそちらへは向けなかった。


まっすぐに天井の板の木目を見つめていた。


「ほんと、どうするのよ。お金ないわよ」


俺は視線の端のほうに、ぼんやりと浮かぶ人影に戦慄した。



「あんた、バイトはどうなったのよ。するって言ったじゃない!」



同じような侮蔑の言葉が次々と浴びせられて、ある言葉が延々と繰り返され始めた。



バイトはどうなった、バイトはどうなった、バイトはどうなった……。



恐怖で身動きが取れなかった。



言葉すらも出てこない。



視界の端にぼんやりと浮かぶ人影は腕を組み、神棚の横に仁王立ちしているようだった。


すぐにコップを取り上げ、投げつけることなど造作もないように思えた。


恐怖が、冷たい戦慄が、背筋を駆け上がった。



答えるしかなかった。



答えることで、痛めつけられずに済むかもしれない。



俺は慎重に言葉を選ぼうとした。


言葉が出てこない。


声を搾り出すように言っていた。



「今日の、午後、バイトの…。面接に行く……」



「それでまた一週間も待つなんて、どうしようもないじゃない!」



それ以降、もう、言葉は出なかった。



「朝遅くまで寝ているんだったら、朝のうちに面接受けられるんじゃないの!」


「……」


話はあらぬ方向に進んでいった。


「金がないということは、娘の可能性すら潰してしまっているのよ!あなたはそのことがわかっているの!」



「……」


話が戻った。



「普通の男は、朝から夜遅くまで、働いているんだから!」


「……」


「30代、40代や、もっと年をとった人でも、一生懸命しのぎを削って受験勉強しているのよ!あんたはパソコンばかりじゃない!」


「……」


もう、俺の娘の母親の話など聞いてはいられなかった。



物さえ投げつけられなければいい。


それだけを願った。



何の反応も示さない俺に、明らかに苛立っているようだった。


戦慄。


顔だけは守らなければならなかった。



こんなやつのために、コップが目に当たり、視力を失うなんてごめんだった。




物を投げつける代わりに、最高の言葉を投げつけられる事となった。


捨て台詞。


これが言いたかったのだ。




「わたしの人生の中での最大の失敗は、あなたと結婚したことよ!」



「……」





俺は心の中で笑っていた。



なぜならば、



俺も、同じ事を考えていからだ。




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とんでもない夢を観て~

夢は地獄と繋がっている。



筒井康隆が、自身の著作の中で言っていた?ような気がする。






精神が壊れてきたのか?


近頃、変な夢ばかり観るようになってしまった。


狂ってきている。


たぶん……。




俺はアストンマーチン・DBS を駆り、曲がりくねったはハイウェイを走り抜けていた。


180㎞。


200㎞。


とんでもないスピードで走り、カーブで急減速し、4車線ある道幅を一杯に使い、ドリフトで抜けた。


俺は俺ではなく、ダニエル・クレイグ だった。


ブリティッシュスタイルのスーツに身を固め、神業的なドライビングテクニックで、追っ手の追撃を躱していた。



ベンツやら、BMWやらが、俺に迫り、車体を体当たりさせてくる。


衝撃であらぬ方向に車体が振られるが、何とか立て直していた。


ベンツに立て続けに二回、体当たりされた。


アストンマーチンは、たまらずスピンし、同時に、フロントガラスが割れた。


銃撃だった。


リアガラスも、粉々になった。


今度はこっちのターンだった。


BMWに車体をぶっつけ大破させ、ベンツはワルサーでタイヤを打ち抜いた。


そのままベンツは中央分離帯に突っ込み、反対車線まで四散しながら飛んでいった。



まだ一台残っていた。


正面は行き止まりだった。


ブレーキ。


もう一台は、後ろから突っ込む形だった。


俺は飛んでいた。


多分、ボンドカーなので、脱出装置か何かが付いていたに違いない。


全てがスローモーションだった。



まるで、映画マトリクスのバレットタイム のように。



眼下にアストンマーチンが見えた。


ゆっくりと敵の車が突っ込んでくる。


俺は飛びながら、ワルサーで敵の運転席と助手席を、車のルーフ越しに打ち抜いた。


ゆっくりスローモーションのまま、俺はルーフの上に着地した。


ルーフから飛び降り、肩の辺りの汚れを払いながら、俺は歩き出した。


刹那、背後で車が爆発し、爆風が背中をたたいた。




スーツはぼろぼろだった。


そのままハイウェイを転がるように下りて、真っ先に目にとまったバーへと入った。


周りの客が唖然として、俺を観ていた。


まあ、俺ではなく、ダニエル・クレイグなのだが……。


バーテンは長い金髪をカールさせた、ブルーの瞳のいい女だった。


スツールに腰を下ろし、俺は女を見つめながらこう言った。



「ウオッカマティーニ。シェイクしておくれ」



結局は、マティーニを飲む前に目が覚めた。








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小説 猫と女 第二話

 前回までのあらすじ

 ある日突然、「僕」の前に現れた野良猫。
 僕の飼い猫となったが、ある日突然いなくなってしまった。
 そして。
 猫のような女を連れて、戻ってきた。
 ひどく傲慢で、ちょっと***な女。

 「僕」と女と猫の物語。
 


 猫と女第一話はここから



小説ミラーサイト 微かな戦慄~愛憎、死、そして…




 女が猫を連れ去った後、しばらくは寂しくもあったが、二週間もすると、猫のいない生活が普通となった。

 
 しかし、あのときの、猫のような女が時々脳裏によみがえり、下半身が疼いた。



 細く涼しげな目元。


 人を見下したような視線。

 
 口元に浮かび上がる冷笑。


 やせた長身に似合わないほど大きく張り出した胸元。
 


 あの女はどこに住んでいるのだろうか?

 
猫が歩いて戻ってくるくらいの距離にいるのは確かだった。


僕の家の周りには、アパートやマンション、それに一戸建ての分譲地が延々と続いている。そんな地域だった。




 僕は暇を見つけては、近所を散策した。


 あの女が、不意に目の前に現れることを、期待しながら。
 



 僕はあるとき、あの女の夢を見た。


 女は全裸で僕の前に立っている。真っ赤な舌が出てきて、一度上唇を舐めた。


 顔が近づいてきて、吐息が頬にかかり、僕は身震いした。


 口元が笑っている。



 ついには唇が重なった。


 頭の先に、鋭い快感が突き抜けたところで目覚めた。
 


 夢から覚めた後、僕はあの女に一度会ってるのかもしれないと思えてならなかった。



 僕の妙な妄想は、その後まもなく明らかになった。
 


 レンタルビデオ屋へ行き、アダルトビデオを物色しているとき、あの女がいた。
 



 いや、別人なのか?
  

 旧作コーナーの棚。
 
 アブノーマル作品と書かれた札が棚にかかっている。


 その棚の中で女は冷笑していた。


 ひとつ手にとって見てみると、あのときの女より少し若いようだった。


 この女の作品だけで、棚のひとつが占領されていた。
 

 そして、手に取ったその作品は、すでに鑑賞済みだった。





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