音のない世界〜汝、罪を知れ
朝、目を醒ますと、俺は倦怠と痛みで立ち上がる事が出来なかった。
布団の上に座り込んで、暫くじっとしていた。
人の気配は無かった。
金魚のポンプの唸る音。
遠く、微かに聞こえる鳥の鳴き声。
それ以外、何も聞こえない。
とても静かだった。
何も考えられなかった。
布団と枕に広がった血の後を、見つめてながら。
肘の痛みは治まらず、腕全体が痺れていた。
起き上がって、誰もいない居間に入る。
テーブルには、様々な請求書が幾つも積み重ねられていた。
俺の娘の母親の、心憎いまでの演出だった。
なにをすれば、俺を痛めつけられるのか、熟知していた。
昨晩の事が思い出された。
娘と一緒に、夜の10時過ぎに帰宅すると、第一声が、お母さんは疲れた、だった。
それから、何度も何度も、娘にご飯は食べなくても大丈夫かと念を押した。
夜の10時過ぎだった。
そんな時間まで、飯を食ってない訳が無かったし、娘に飯を食わせないのは、母親の責任と思えた。
しかし、帰って来ても、釜に飯がないと、俺を非難したいのだけなのだ。
俺は、飯を中断し、空腹のまま、布団へ潜り込んだ。
外は晴れていた。
俺はいつものように、職場へ向かった。
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詩 「カップラーメン」
昼休み。
薄暗いバックヤードで、一杯のカップヌードルを啜る。
食べ終わると残りの休み時間はゆっくりと本を読んだ。
泣きながら。
壁にはゴキブリの糞が、黒い点となってへばり付いていた。
それでも、唯一、心の安まる瞬間だった。
帰宅すると居間には、俺の娘の母親がいた。
そっとキッチンへ行って、夕飯を探す。
何もなかった。
ひどく落ち込みながら冷蔵庫を漁ると、冷凍された飯があった。
解凍し、マヨネーズと七味をふりかけて喰った。
立ち食いだった。
居間からの、無言の圧力。
すぐに飯をかき込んで、部屋へ逃げ込んだ。
痛めつけられないうちに……。
昼のカップラーメン。
それは夕飯より、ましな食い物だった。
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肘が痛い。
ちょっと触れただけで、飛び上がるほどだ。
大丈夫だろうか?
ちゃんと、曲がるから、大丈夫だよね?
くそったれ!バイト探し 2.0
バイトの面接へ向かった。
大手、レストランチェーンの飯作りだった。(飯作りといえるのかな?ただ暖めるだけなのに)
正面から店に入り、入り口で待たされた。
すぐに、やたらと背が高く、あごのしゃくれた店長が現れた。
俺は何故か、そのフランケンに親近感を覚えた。
そんな俺の気持ちを察したのだろうか、フランケンも終始笑顔だった。
履歴書を見て、いろいろと質問してくる。
たかがバイトの面接なのに、何故そこまで事細かく追求するのだ、と思ったが俺はやたらとテンションが高かった。
事実を、おもしろおかしく話していった。
深夜のバイトである。
ダブルワークについての懸念は、必ず質問された。
「へっちゃらですよ」
俺は言っていた。
深夜帯は学生のバイトのみだけれど、年下と仕事をするのは平気かと聞かれた。
「ぜ~んぜん、平気ですよ」
するとフランケンは、年が離れていても、あんたならば学生とすぐに仲良くなるだろうと言った。
俺は大いに手応えを感じていた。
やっとバイトにありつけることになるだろう。
髪型に話題が移った。
俺の髪型が、店の規定に抵触するかもしれないと、フランケンが言い出したが、すぐにそれはないだろうと訂正した。
俺は微かな不安を感じたが、満面の笑みと、はきはきとした挨拶をしてその場を去った。
合否判定は、数日後の電話連絡だった。
指定された時間に電話がなければ、不採用だった。
俺は指定された時間に飯を食いながら、待っていた。
電話が鳴った。
携帯を握りしめる前に着信音が止んだ。
すぐに、かけ直す。
「先ほど、お電話いただいたのですが。山南と申します」
「あ、ごめんなさい。間違えました」
「……」
間違い電話だった。
指定された時間が過ぎた。
結局は、電話は鳴らなかった。
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