活気ある市町村、その比較研究 ~相次ぐ企業撤退 誘致頼みは限界に~ | 富士市議会議員 鈴木幸司オフィシャルブログ Powered by Ameba

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<2012年度末 研究成果中間発表報告書>

Why does that city area have vigor?

 

活気ある市町村、その比較研究

~相次ぐ企業撤退 誘致頼みは限界に~

法政大学大学院政策創造研究科(M1) 鈴木 幸司

 

■ 論文の目次構成

Ⅰ.序章―相次ぐ企業撤退、市町村は誘致合戦の様相―

        シャープ(三重県亀山市の失敗事例)、地元雇用を守る(千葉県香取市の決断)

Ⅱ.経済センサスから見る各都道府県別ならびに静岡県各市町の開業率と廃業率

Ⅲ.開業率が廃業率を上回る市町はどこか

Ⅳ.全国で34だけ存在する「活力ある市町村」~その傾向分析

Ⅴ.産業分類別に見た開業率と廃業率

Ⅵ.終章―では富士市はどうすべきなのか―

 

■ キーワード

経済センサス、開業率・廃業率、雇用統計調査、企業誘致、企業留置

 

■ 論文要旨

Ⅰ.序章―相次ぐ企業撤退、市町村は誘致合戦の様相―

        「シャープ(三重県亀山市の失敗事例)、地元雇用を守る(千葉県香取市の決断)」

  2002年、三重県亀山市がシャープの液晶パネル工場の誘致に成功。06年は第2工場も稼動を始めたが、それからわずか3年後、第1工場の設備を中国の企業に売却することになった。税収も06年度には65億円あったものが09年度には2.4億円にまで激減している。問題はこの誘致活動に総額90億円の補助金がつぎ込まれたことだ。三重県のあとを追い、全国の自治体が競い合うように数億~数十億円単位の補助金を制度化。特筆すべきは福島県。復興予算でなんと200億円もの補助金が用意された。いま現在も多くの自治体で同じようなメニューが並び、もはや消耗戦の様相を呈している。

 シャープの事例紹介を続けると、三重県は製造品出荷額では全国9位だが、付加価値率(付加価値額÷製品出荷額)では、むしろ最下位に近い全国42位。つまり誘致した工場の多くが付加価値の低い汎用品の生産拠点だということを意味しており、当初言われたような、先端技術を持つ企業を県内に呼び込んで、地元企業への技術移転を進めていくという産業政策としての目的は達成されなかったばかりか、いつ人員削減が始まるのか、地元亀山市では戦々恐々とする日々が続いている。

 次にあげたいのは、成田空港から高速道路で30分という千葉県香取市の事例。都心へも60分という恵まれた立地条件に見えるこの香取市に2009年、激震が走った。市内で工学部品を製作しているソニーEMCSの撤退が告げられたのだ。700名が人員整理され、市内の工業出荷額の半分が消滅した。香取市はここで思い切った企業誘致策に出る。ソニーから買い取った実勢価格9億円というその土地を、今後進出してくれる企業に無償で提供することにしたのだ。しかし、市当局がこの公募を通じて思い知らされたのは、製造工場に進出してもらいそこで多くの雇用を作ってもらうという「ワンパターンの発想」には限界があるということだった。

 私が市議会議員を務める静岡県富士市も13億円の補助金を用意し、官民で力を合わせ新設された工業団地に数多くの県外企業の誘致に成功した。

 その中には、日本一といわれる住宅用木材のプレカット工場もある。しかしこのメーカーは、もっぱら東南アジアや北米で製材された「外材」の加工が中心で、富士山麓のスギやヒノキといった森林資源には興味を示さない。また、その外材の陸揚げも大型船の泊地をもつ清水港を利用することを明言しており、地元田子の浦港の活性化にも寄与する見込みも無い。茨城工場からの熟練工の移入という人口増加要因はあるものの、富士市での新規雇用はわずか数名を予定しているということで、地元の経済界をがっかりさせている。私たちはどこを間違えたのだろうか。今回の研究の目的は、そこを解き明かす所にある。

 

Ⅱ.経済センサスから見る各都道府県別ならびに静岡県各市町の開業率と廃業率

 静岡SC後期科目「新産業創出論」において各種統計資料を利用し新産業創出の三つの効果的方法を学んだ。毎回、企業誘致、・既存企業の第2創業・そして新規創業の活性化(インキュベーション)といった角度からテーマを掘り下げていったのだが、その際利用した「2012年地域経済総覧の事業所企業統計調査」分析の結果、2007年の日本全国47都道府県と静岡県内の各市町における廃業率と開業率を比較したものを「図表-1」「図表-2」によって示してみた。

 これによって、47都道府県そして静岡県内の44の市町すべてにおいて廃業率が開業率を上回っているということが判る。

 

Ⅲ.開業率が廃業率を上回る市町はどこか

 この資料には1742箇所の市町村すべてのデータがあり、北海道北広島市・余市郡赤井川村・空知郡南富良野町、青森県下北郡大間町・下北郡東通村、宮城県名取市、秋田県南秋田郡大潟村、福島県石川郡玉川村、茨城県守谷市・稲敷郡阿見町、埼玉県児玉郡上里町・埼玉県久喜郡菖蒲町、千葉県印西市、東京都世田谷区・青ヶ島村、神奈川県横浜市青葉区・横浜市都築区・川崎市麻生区、長野県南佐久郡南相木村、長野県下伊那郡泰阜村・木曽郡玉滝村・東筑摩郡生坂村、岐阜県可児郡御嵩町、愛知県西春日井郡豊山町、滋賀県草津市、京都府綴喜郡宇治田原町、兵庫県川辺郡猪名川町、鳥取県西伯郡日吉津村、香川県香川郡直島町・綾歌郡綾川町、愛媛県伊予郡松前町、熊本県阿蘇郡産山村、沖縄県豊見城市・八重山郡竹富町の34市町村(区を含む)だけが開業率が廃業率を上回っていることが判る。(これを示したのが「図表-3」である)

 

Ⅳ.全国で34だけ存在する「活力ある市町村」の傾向分析

 仮にこれら34の市町村を「活力ある市町村」を名付けたとする。

 「新産業創出論」では、これら34市町村の地理的な分析を試みた。その結果、いくつかの市町は大都市圏の衛星都市としての地理的条件を持っており、「活力ある市町村の後背には巨大な消費地がある」のではないかという推論を立てて終わった。

 そこで、さらに一歩進めて、この活力ある市町村たちを比較し傾向分析を行うことで、そこにある種の法則性が見つかれば、市町村活性化の為の政策提言をすることが可能なのではないかと考えた。

 その調査内容は以下のような「産業・企業が求める立地の条件」にわけて、ヒアリング調査・アンケート調査を行うこととしたい。

 

①     その市町村のおける人財の有無

②     関連産業集積の有無

③     首長・担当者の熱意と能力

④     安価で利便性の高い土地の有無

⑤     交通インフラの整備状況

⑥     原材料の産地・調達の利便性

⑦     自治体の助成策の魅力

⑧     高等教育機関や公的試験機関の有無

⑨     産業支援体制の有無

⑩     市場の近接性

⑪     魅力的な地域ビジョンの有無

⑫     魅力的生活空間・買い物空間の有無

⑬     魅力的なコミュニティの有無

⑭     安全・安心な環境

⑮     人的ネットワークの有無

⑯     子弟の魅力的な教育環境

⑰     水・気候等魅力的な生活環境

⑱     労働需給の状況

⑲     他人を受け入れる市民性

⑳     その他

 

Ⅴ.産業分類別に見た開業率と廃業率

 もう一つは、開業率が廃業率を上回っている業種は何かというリサーチクエスチョンである。

 開業が多い・・・つまり新たなゲームへの参加者が増えている・・・そんな産業こそこれからの有望な分野ではないかという推論が成り立つ。それを示したのが「図表-4」。これによって、「農業・林業」「医療福祉業」といった分野へと支援を傾注していく事が合理的であることが判る。

 

Ⅵ.終章―では富士市はどうすべきなのか―

 静岡県内では、ここ数年でソニーの電子機器工場(浜松市、従業員650人)、東芝の半導体工場(御前崎市、従業員100人)が閉鎖された。序章で例に上げた亀山市や香取市と同じように、どの工業都市も苦しい経営を余儀なくされている。

 私の住む富士市でも昨年、日本製紙富士工場・鈴川事業所の閉鎖と吉永工場の大規模な生産縮小が発表された。そしてそれを受け、本年「若い世代が永く暮らし働ける都市に向けて」と題する「都市活力再生ビジョン(案)」が策定され、平成24年12月14日から平成25年1月15日にかけての一ヶ月間、パブリックコメントを募集する予定となっている。

 これは50項目にわたる意欲的な提言だが、経営資源が限られている中、その全ての項目に均等に取り組むことは合理的ではない。都市間競争が激しくなる時代に向けて、この限られた資源をどのような分野に、そしてどのような方法で投下すべきなのか、この調査研究から政策提言を導き出したい。


参考文献

『2012年地域経済総覧(事業所企業統計調査)』、『WEDGE 10月号-2012』、『2010年家計統計調査』、『富士市都市活力再生ビジョン(2012.12発表)』、『日本でいちばん幸せな県民(ケンミン)』PHP 坂本光司研究室 著、『日本でいちばん大切にしたい会社』あさ出版 坂本光司 著、『地域産業発達史』同友館 坂本光司 編著、『社会生活統計指標』日本統計協会 総務省