バスジャックは刑事ドラマの設定において常套手段である。ただ、銀行襲撃や連続殺人なんかと比べてその機会は少ない。やはり、道路使用許可を広範囲に取る必要があるし、大掛かりな撮影となることから“ここぞ!”というときに持ってくる。

 

川谷拓三が演じた東映映画と「太陽にほえろ!」のバスジャック犯 | 茶屋町吾郎の趣味シュミtapestry (ameblo.jp)

 

『太陽にほえろ!』は前回取り上げた第304話「バスジャックの日」(1978年5月26日放送)のほかに、その“ここぞ!”というときであった、渡辺徹演じるラガー刑事殉職回の第658話「ラガーよ、俺たちはおまえがなぜ死んだか知っている」(1985年8月2日放送)でもバスジャックを題材にした。

 

 

七曲署管内のホテルから出発したばかりの、つくば科学万博行きの観光バスが若者三人組にバスジャックされ、二億円もの身代金を要求される事件が発生。バス会社から提出された乗客名簿のなかに、近々行われる政財界がらみの大きな裁判で検察側の証人として出廷する人物も乗っていて、その証人の命を狙っていた暴力団、竜神会の下部組織がバスを車で追尾していたりと、七曲署捜査一係は、同時進行している二つの事柄は偶然なのか、必然なのか、判断をあぐねる…という筋立て。

 

で、それは偶然に起こったという設定になっており、竜神会は予め招いていた殺し屋を使って、バスジャックに乗じてバスをライフルで狙撃して証人ともども事故に見せかけて葬ろうとしたところ、狙撃地点に駆け付けたラガー刑事が相撃ちで阻止。そのおかげでバスは、乗員乗客、そして若気の至りで稚拙な犯行をしていたバスジャック犯たちも全員無事助かるという、まさに英雄譚でラガーの物語は締めくくられた。

 

バスジャックのように部外者が巻き込まれる事件が起こっても、なるべく死傷者は出さない。生真面目な岡田晋吉プロデューサーが作る『太陽にほえろ!』ならではである。

 

その点、「西部警察」シリーズは残虐非道そのもの。

 

『西部警察』第88話、サブタイトルもズバリ「バスジャック」(1981年7月19日放送)。

 

西部署管内で路線バスがライフルを持った覆面男によってジャックされる。その路線バスの乗客には大門団長(渡哲也)の妹、明子(古手川祐子)が乗っていたことから捜査陣は動揺。彼女こそがバスジャック犯(深見博)の狙いであり、大門団長から過去の取り調べで受けた恥辱を晴らすための復讐であった。

 

人質の乗客たちに死者は出なかったものの、むやみやたらにライフルを撃ちまくって次々と負傷させていたバスジャック犯、最後は用意していた爆弾をセットして明子ともども自爆しようとしたところ、大門団長が間一髪救い出し、バスジャック犯だけが自爆して一件落着で、おなじみ裕次郎の歌が掛かるというエンディングで幕を締める。

 

大門団長の妹、明子を演じる古手川祐子は、掛け持ちを何本もしている人気女優ゆえに、普段の回は撮影所のセットで撮られる自宅マンションのシーンだけか、たまに刑事部屋へ顔を出す以外は、なかなかロケ撮影までは出てこない。今回はその彼女の珍しい主演エピソード回であり、しかも出演部分はすべてロケ撮影となっている。それにプラスして裕次郎も事件現場に顔を出すなど、やはり“ここぞ!”というときのバスジャック回である。

 

また、この回は撮影時に裕次郎が倒れたことでも知られており、以降は第124話「-小暮課長-不死鳥の如く・今」(1982年4月4日放送)で復帰するまで長期離脱することになる。

 

じつはその緊急事態以外でも、当時の『西部警察』は揺れていた。

 

1979年、石原プロはテレビ朝日で『西部警察』を制作する際、二年という長期契約を結んだのである。この撮影時のころはそれをさらに更新するか否かというときで、『西部警察』の前に「大都会」シリーズを制作させていた日本テレビがその契約終了を待って1981年秋改編期からの新番組をオファーしていた状況であった。そんななか、ドラマチックな裕次郎絶体絶命の緊急手術→奇跡の生還は社会現象となり、そのニュースバリューに目を付けたテレビ朝日は日本テレビに獲られまいと1979年時よりもさらに高条件で制作延長の契約を結んだと言われる。本来ならば、開始時に目玉の一つに置きながらも最近は名ばかりだった(?)レギュラー出演者をアピールしたエピソードで、この大掛かりな第88話「バスジャック」が、契約延長をするか否かのテレビ朝日に対してのプレゼンテーションとなっていたのだろう。

 

そして、シリーズ二作目の『西部警察PARTII』となると、すべてがエスカレート、いやグレードアップ。

 

第31話「1000万ドルの恋人」(1983年1月16日放送)は、前シリーズ第88話「バスジャック」を越え、つまりは刑事ドラマにおけるバスジャック回で最も凶悪な話となっている。

 

 

大門軍団の最若手刑事、ジョー(御木裕)は通勤に使う路線バスで一緒に乗り合わせる同年代の女子大生に惚れ込んでいて、今日も遅刻上等で彼女と一緒に過ごしたいため、その時間の路線バスに乗っていたところ、バスジャックに遭ってしまう。路線バスは経路を大きく外れ、人気(ひとけ)のない空き地に辿り着く。ジョーと彼女、そして乗客である一組の母子連れを降ろし、残りの乗客たちと運転手は車内に閉じ込められ、哀れにもバスは爆破。母子連れも後からバス爆破と同じく犯人たちに車へ閉じ込められて爆死させられそうになるのだが、バスジャック犯の煽りに勝った大門軍団によって間一髪助けられた。救出された母子連れの証言で、ジョーのほかに彼女の存在が判るのだけれども、事件発生から一昼夜経つのに彼女の家族から失踪の届けを警察にしてこないことが疑問に残った。そこで出した推論は「家族がバスジャック犯に脅されているのではないか?」と。

 

バスジャック犯の目的は、アメリカから羽田空港経由で大手銀行に運び込まれる1000万ドルの現金で、乗客のジョーが西部署の刑事、そして彼女の父親が現金輸送を受け持つ城西警備保障(笑)の担当者だったことから計画的に狙ったもの。ふたりは廃工場に拉致監禁されて拷問を受ける。ジョーからは機密とされるその輸送ルートを吐かせるために、そしてこの二件の爆破は彼女の父親を服従させるためにやった脅しのデモンストレーションで、少ない手掛かりの中から大門軍団はなんとか彼女の家族を探り当てて、ようやく事件の全容を掴む。

 

もちろん、ジョーと彼女は助かり、バスジャック犯たちの現金輸送車襲撃も駆け付けた大門軍団に阻止されて失敗に終わる。そして、主犯(山西道広!)は逮捕や自爆ではなく、こめかみに銃弾を撃ち込まれて射殺という凶悪犯に相応しい最期を遂げたのだった。

 

「西部警察」シリーズといえば、やはり爆破である。この翌週に放送された第32話「狙われたシンデレラ」(1983年1月23日放送)でもバスが運行中に乗客を乗せたまま爆破されるという凄惨な場面を作っている。とにかく爆破をしなきゃ、制作元の石原プロ専務で「西部警察」シリーズのプロデューサー、コマサの気が済まないし、だとしたら無人のバスを爆破しても何の面白みもないから、やはりそこは乗客もろとも…となる。

 

いとも簡単にバスが爆破されたり、乗客に死傷者が出てしまうのが、刑事ドラマに興味なんかない門外漢からしたら同じように括られている『太陽にほえろ!』と違う点である。このように、刑事ドラマは、バスジャックにその色が出る。

 

さて、刑事ドラマにおけるバスジャック回の良さは、撮れ高が優れている絵面と極限状態の緊張感を作れるドラマであろう。

 

撮れ高は優れているのに、ドラマの部分がまったく体をなしていないというアンバランスな刑事ドラマがあった。

 

それは『Gメン’75』第222話「大暴走!バスジャック」(1979年9月1日放送)と第223話「バスジャック対四人の狙撃者(スナイパー)」(1979年9月8日放送)の前後編。

 

 

自宅の安アパートへラジカセの騒音問題で注意しに来ただけの制服警官を思わずライフルで撃ち殺してしまったバカ兄弟(ジョニー大倉&沢田勝美)は逃走するも、その日予定していた銀行襲撃は止めずに敢行。バカすぎて襲撃の計画書を部屋のごみ箱に丸めて捨てたままだったから当然のごとく家宅捜索でそれが見つかってしまう。というわけで、銀行周辺には非常警戒が張り巡らされていて、バカ兄弟は襲撃する前に見つかって、そこでも警官を射殺。挙げ句の果ては逃走する際に飛び乗った路線バスをジャックしてしまう。

 

警察は全力を傾けて暴走するバスを空き地に追い込んで停車させたものの、頭に血が上ったまんまのバカ兄弟はライフルを乱射し続けて、人質の乗客と包囲した警察、そしてマスコミ陣を威嚇するなど緊張状態は続く。その路線バスは行き先が総合病院であったことから乗客らのほとんどが病人かケガ人であった。残暑厳しい折、Gメンのボス、黒木警視正(丹波哲郎)は乗客たちの体調を憂慮し、即時解決のため、警察庁が都市ゲリラ(テロリスト)対策用に秘密裏に発足させた特殊部隊の出動を要請する。

 

しかし、警視庁の幹部であり、特殊部隊の出動可否を決められる結城警視正(中丸忠雄)は、過去の事例から安易な犯人射殺による即時解決は国民感情を刺激するものであり、それに都市ゲリラとバスジャックは違うものだとして断る。その間、Gメンとバスジャック犯の間で撃ち合いが起こり、弟のほうのバスジャック犯が重傷を負ってしまい、兄の怒りはマックスとなる。Gメンの説得でその弟は病院での手術を受けるものの亡くなってしまい、約束した弟の帰りを待つ兄に対してGメンは何の交渉カードも持てなくなってしまった。酷くなるばかりの事態に対して、黒木警視正に押し切られた結城警視正は特殊部隊の出動を許可するのだが…。

 

 

前編にあたる「大暴走!バスジャック」はサブタイトル通り、バスは大暴走して惜しみなく車をブツけてツブすし、今回バスジャックと対峙するのはGメンばかりでなく特殊部隊の狙撃者というアクションドラマ好きからしたらたまらない設定であった。

 

しかしながら…、その脚本というか話の設定がまったくなってないのだ。

 

一言で言えば、支離滅裂。

 

今回の犯人はたんに頭が悪いバカ兄弟で、まあその無軌道ぶりからバスジャックはハラハラドキドキに進むのだけど、事件に対処するのはGメンばかりでなく、都市ゲリラ(テロリスト)対策に発足した警察庁特殊部隊というプロフェッショナルが迎え撃つという構図が、まったくもって成り立っていない。

 

犯人の連中も傭兵あがりだったりする冷徹なプロフェッショナルならば、特殊部隊との熾烈な闘いが釣り合うだろう。それから、特殊部隊の山岳訓練場面やヘリコプターを使った出動場面など撮れ高が優れている絵面は一通りあるんだけど、その特殊部隊側になんのストーリーもないわけ。Gメンのメンバーである小田切警視(夏木陽介)が現場指揮官で、中屋刑事(伊吹剛)がその隊員のひとりなのに。ただ、命令が下されたから訓練していた山岳地帯からヘリコプターで急行して、撃てと言われたから撃っただけの存在でしかない。

 

二年前のGメン着任以来、ドジばっかりやってきていて足手まといの中屋刑事がGメンに居場所を失っていると思い悩んだ末に、新天地の特殊部隊に刑事人生を賭けるとか、そんなしみったれた回想シーンは出てこないのである。

 

短い話|第29話 生涯独身|NOVEL DAYS (daysneo.com)

この前後編は夏木陽介が演じる小田切警視最後の出演回でもある

なのに、降板エピソードが作られなかったわけが綴られている

 

前後編二話分使って“これなの?”と薄味すぎるストーリーにがっかりする。だったら、バスジャック回と特殊部隊回を一話ずつ別個にやったほうが良かったくらいだ。


なぜ、こうなってしまったのか…?

 

だいたい『Gメン’75』はサブタイトルが大げさだったり、その回の舞台設定に大風呂敷を広げすぎるきらいがある。

 

この前後編もそれに陥ってしまったのか…?

 

いや、もっと深く考えてみると、1979年9月に放送されたこの前後編には“ある目的”を持たせたのかもしれない。

 

何度も示していることだけど、それまで土曜9時の王者だったTBS『Gメン'75』は1979年春改編期以降、裏番組の日本テレビ「グランド劇場」枠で始まった水谷豊主演『熱中時代・刑事編』に第1話からしてダブルスコアで逆転されて視聴率を奪われ、話題も何も獲られてしまっていた。

 

「Gメン’75」を喰った水谷豊主演「熱中時代・刑事編」 | 茶屋町吾郎の趣味シュミtapestry (ameblo.jp)

 

しかも、半年間放送していた『熱中時代・刑事編』の勢いは異常なまでの盛り上がりで落ちないから、なす術がない。もうこうなると、あちらが秋改編期へ入る時に番組が終わるまで待つしかなかった。だけど、指をくわえて待っていても仕方がない。だから、TBS『Gメン’75』側は視聴者の習慣に賭けることにした。

 

それは、ザッピング。

 

そう、テレビを観るのに一つのチャンネルだけを注視するのだけではなく他のチャンネルにもガチャガチャ変える行為である。

 

 

ホームビデオがまだまだ普及していなかった当時、元々『Gメン’75』を毎週見ていた視聴者なんかは、CMタイムに入ると「Gメン、いまどうなのかな?」とチャンネルをちょっとばかしの時間変えてきたことだろう。もし、そこにアクション&刑事ドラマ好きが求めている絵面で、角川映画『野生の証明』みたいな過酷な軍事訓練、カーアクション、銃撃戦、警官が派手に殺されていく描写など刺激的な場面があったら、チャンネルを戻さずにこのまま観てくれるんじゃないか、来週以降もまた観てくれるんじゃないかと希望を抱かせたに違いない。

 

冒頭から観ていかなきゃならないような、じっくり味わうための濃厚なストーリー展開を捨て、その分、瞬時に興味を掴む刺激的な場面を散りばめることで視聴者を取り戻しに来たのだと思う。

 

1979年、「Gメン’75」は起死回生をどう図ったか? | 茶屋町吾郎の趣味シュミtapestry (ameblo.jp)

 

ただ、それは上手く行かなかった。

 

前週8月25日、この日の日本テレビは、第2回の『24時間テレビ』で『熱中時代・刑事編』は4月の開始以来初めてかつ唯一の休止。辛酸を甞めていた『Gメン’75』にとってこの最大かつ唯一のチャンスに、山岳アクションと少女誘拐事件のサスペンススリラーを掛け合わせた「海抜3170米の空中ブランコ」を放送。最初から最後まで目を離せない展開で迫る。日本テレビ側は9時台は2時間のチャリティー歌謡ショーにしていて、その視聴率は14.1%と半減していたが、対する『Gメン’75』はいつもと変わらず14.3%に留まる。残念なことに、もはや視聴者は『Gメン’75』がどうなっているのか?なんて気にしなかったのである。これではザッピングで視聴者を引き入れるゲリラ戦法なんてまるで通じない。結局、翌週から再開した『熱中時代・刑事編』は相変わらず20%台後半の高い視聴率で最終回まで揺るがなかったし、『Gメン’75』は10%台前半の低い視聴率に甘んじたままで秋改編期を迎えた。