来月5月、ホームドラマチャンネルで水谷豊主演の『熱中時代・刑事編』が放送開始される。同チャンネルではすでに『熱中時代・先生編』のほうの第1シリーズと第2シリーズをやっていて、ようやくチャンネル初でのお目見えとなる。

 

ホームドラマチャンネル公式 『熱中時代・刑事編』番組紹介

http://www.homedrama-ch.com/series?action=index&id=16406&category_id=4

 

『熱中時代・刑事編』は1979年4月7日(土)午後9時からの日本テレビ「グランド劇場」枠で本放送が開始された。あの驚異の視聴率40.0%を獲った『熱中時代・先生編』第1シリーズ最終回からわずか8日後のスタートである。

 

8日後?、一週間後の7日後じゃなくて8日後?

 

じつは『熱中時代・先生編』第1シリーズと『熱中時代・刑事編』とでは放送枠が違い、よく勘違いされることで、最初の「熱中時代」となった『熱中時代・先生編』第1シリーズは金曜9時からの「金曜劇場」枠だったのだ。

 

あの頃の土曜9時と云えば、TBSでは刑事ドラマの決定版たる『Gメン'75』。前時間帯の7時『まんが日本昔ばなし』→7時半『クイズダービー』→8時『8時だョ!全員集合』と続いて土曜夜のテレビ番組を圧倒的にリードしていたところに、突如として強敵襲来と相成った。前年4月、金曜8時の日本テレビ『太陽にほえろ!』にTBSが潤沢な制作費と豪華ゲストの物量作戦でぶつけてきた『七人の刑事』への意趣返しと云わんばかりに、今度は日本テレビが同じ刑事ドラマを番組・主演俳優ともども人気絶頂となったもので、TBSが誇る看板番組の裏にぶつけてきたのである。

 

当ブログ記事 1978年4月「七人の刑事」が「太陽にほえろ!」に挑戦状を叩き付けた時代

https://ameblo.jp/goro-chayamachi/entry-11246161695.html

 

当然、『Gメン'75』のほうも黙っているわけはなく、改編期真っただ中ともあって、この週と次週は鉄板ネタとなっていた香港カラテシリーズの前後編、そしてそのシリーズの主演・倉田保昭演じる草野刑事の降板エピソードを持ってきた。DVDソフトであらためてその回を見直してみると、冒頭から香港ロケでアクションシーンをこれでもか!と入れてきて画面に釘付けにさせようとしている。でも、その結果は…、当時の言葉で喩えると、まさに"フィーバー"となっていた「熱中時代」ブームのなかに呑み込まれてしまい、視聴率的には『熱中時代・刑事編』が26.5%で、『Gメン'75』のほうは13.5%とダブルスコアを付けられて惨敗してしまった。結局そのまま『熱中時代・刑事編』放送期間中はリードされたままとなり、後塵を拝してしまい挽回できなかった。翌年には「グランド劇場」枠最高傑作となる西田敏行主演『池中玄太80キロ』、そして水谷豊主演『熱中時代・先生編』第2シリーズを繰り出され、レギュラーメンバーが入れ替わるたびに番組のパワーダウンが激しかった『Gメン'75』は完全に土曜9時の王座から陥落してしまう。

 

当ブログ記事 ある意味ハードボイルド「Gメン'75」

https://ameblo.jp/goro-chayamachi/entry-10845532366.html

刑事ドラマ定番の殉職を禁じ手にしたばかりに…

 

さて、『熱中時代・刑事編』とはどんな刑事ドラマなのか。それを語っていきたい。下記の表を見てもらえば判るとおり、刑事ドラマやそれに類似するアクションドラマが百花繚乱となっていた時代の中で放送されていた。

 

1979年4月期のテレビにおけるアクション&刑事ドラマ一覧
月曜日 テレ朝●『鉄道公安官』、フジ『大空港』、東京12●『ザ・スーパーガール』
火曜日 日テレ『大都会 PARTⅢ』、東京12●『おやこ刑事』
水曜日 TBS『明日の刑事』、テレ朝『特捜最前線』
木曜日 なし
金曜日 日テレ『太陽にほえろ!』、TBS『七人の刑事』
土曜日 TBS『Gメン'75』、日テレ●『熱中時代・刑事編』
日曜日 日テレ●『俺たちは天使だ!』、フジ●『刑事鉄平』
●印は1979年4月からの新番組
 
東映チャンネル公式 『鉄道公安官』番組紹介

http://www.toeich.jp/program/1T0000010638/201805

こちらも5月から放送開始

 
水谷豊が演じるのは『熱中時代・先生編』で演じた新米先生の北野広大とほぼ同じキャラクターで、新米刑事の早野武。「凄腕のカッコいい刑事になりたい!」と理想を膨らませて、白バイ隊員から所轄署である大門署捜査一係に配属されるも、とても刑事には向きそうもない元来のお人好し、そしてドジっぷりで、七転八倒の失敗続き。しかしながら、持ち前のガッツと周りの人たちの優しさに手伝われて事件解決にあたっていき、だんだんと一人前の刑事へと成長していくもの。どうデス?、北野広大と見事にまんまでしょ(笑)。北野広大からのグレードアップは、教師らしいジャージか地味な色目のスーツかといった素朴なものから、ハードボイルド小説の世界に憧れた(この当時の流行には時代遅れな)ピンストライプのスーツにソフト帽、それから右から見ても左から見ても七・三分けに見える独特なヘアスタイルでバッチリと決めている。でも、毎回一生懸命になりすぎて泥だらけになったりして散々な目に遭うのが、いかにも『熱中時代』といったところ。
 
そして、忘れてならないのが、相手役となるミッキー・マッケンジー。無名の米国人女優で、ほとんど日本語が出来ないまま来日したので、日本語のセリフは只々たどたどしいばかり。しかし、熱演もあってこれが好感を呼び、彼女が早野武のことを巻き舌気味に呼ぶ「タァケーシィ」は後年までモノマネのネタとして親しまれた。彼女が演じるミッキー(まんまだな)は第1話で事件の被害者として早野武と出逢って以来、恋愛関係となり、さまざまな誤解や障害を乗り越えて、とうとう結婚。それも最終回に結ばれるなんて、そこらへんの恋愛ドラマみたいに引っ張るに引っ張ったような野暮ったいことはしない。全26話中なんと8話目(放送開始から翌月の5月26日放送)でしてしまうのである。この早業には裏の『Gメン'75』で早撃ちの名人・若林豪演じる立花警部補もお手上げというものである。
 
他の刑事ドラマと同様に一話完結ものなんだけど、それらにはなかなかない日常のシーンと連ドラの習性を上手く取り込めたのが『熱中時代・刑事編』の個性として光った。
 

1980年代初頭を舞台にしたこの作品には原作でも描かれた

主人公が『熱中時代・刑事編』の水谷豊をモノマネする場面が挿入されている

 

『熱中時代・先生編』第1シリーズと『熱中時代・刑事編』の連投、さらにその前には『オレの愛妻物語』まで含めて一年二か月に渡って三作連続主演ドラマをこなした水谷豊は、しばし長い休養期間に入る。が、その前に親友の松田優作が1979年10月から始めた連続ドラマ『探偵物語』にゲスト主演。そこでは「熱中時代」両作で見せた聖人君子をセルフパロディーにしたようなキャラが演じられている。なお、松田優作とは互いの連続主演ドラマにゲスト出演し合おうという趣旨だったのだが、なぜか水谷豊の次の連続主演ドラマである『熱中時代・先生編』第2シリーズ(1980年7月~1981年3月)ではなく、その次の『あんちゃん』(1982年10月~1983年4月)まで持ち越しとなってしまった。裏番組のCMに出ていたことかそういうことだったのかな。
 
tvk(テレビ神奈川)公式 『探偵物語』番組紹介

http://www.tvk-yokohama.com/annai/

4月25日から放送開始

ちょうどホムドラで『熱中時代・刑事編』が開始するころにゲスト主演した第5話「夜汽車で来たあいつ」も放送か

 
まあ、それはさておき、『熱中時代・刑事編』と『熱中時代・先生編』第2シリーズのヒットにより、水谷豊は日テレ土曜9時、「グランド劇場」枠の顔となり、以降は上述した『あんちゃん』の他に『事件記者チャボ!』、『気分は名探偵』など年一作のペースで2クールの主演ドラマが作られていくようになる。それらは『熱中時代』とはタイトルに付かなかったものの、いずれも「熱中時代」シリーズと同じようなキャラであり、観ている者が感情移入しながら応援し、そして慕いたくなるようなものであった。
 
当ブログ記事 大瀧詠一作曲「うさぎ温泉音頭」×水谷豊主演「あんちゃん」

https://ameblo.jp/goro-chayamachi/entry-11745495664.html

望んでいなかったのにやむにやまれぬ事情で実家のお寺を継ぐことになった新米僧侶の物語

水谷豊主演ものでは一番思い入れのある作品

 

当ブログ記事 1983年秋のドラマ一番の期待作「事件記者チャボ!」

https://ameblo.jp/goro-chayamachi/entry-11233606063.html

本作では警視庁記者クラブ詰めの新聞記者となって事件を追う

上司役にカミナリを落として叱るキャラの藤岡琢也が配されるなど、『熱中時代・刑事編』のリメイク色が強い