昨年末の大瀧詠一の訃報受けて、ブログでなにをどう追悼する文書くか、さんざん迷った。結局、当ブログのタイトルの由来を「趣味趣味音楽」から拝借した経緯で落ち着けてしまった。が、なんというか心にモヤモヤしたものが残ってしまった。不完全燃焼というか、その・・・

 

もっと書きたいことがあるはず!、もっと茶屋町吾郎ならではのことを!

 

それで、ふとあることを思い出した。

 

そうだ、これだよ、これ!

 

「宇佐木温泉音頭」

 

1982年10月から日本テレビで放送された水谷豊主演のドラマ『あんちゃん』の挿入歌である。作詞・松本隆、作曲・大瀧詠一、編曲・萩原哲晶、それを歌うは、角川博。

 

じつはこの曲、1982年の本放送当時は発売されなかった。五年後の1987年に『NIAGARA BLACK BOX』に「うさぎ温泉音頭」として改題されて初パッケージ化。現在入手可能なモノとしては、1995年に発売されたもので、大瀧詠一が手掛けた他アーティストへの提供曲のコンピレーション・アルバム『大瀧詠一ソングブック2』にも収録されてある。

 

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「うさぎ温泉音頭」と同時期に作られて発表された、かの「イエローサブマリン音頭」も収録。
『ロンバケ』以後の〝大瀧詠一といえば音頭、音頭といえば大瀧詠一〟を堪能出来る。

 

さて、『あんちゃん』とは、首都圏から少し離れたところにある架空の宇佐木温泉という温泉街を舞台にしたホームドラマで、「宇佐木温泉音頭」はその温泉街のテーマ曲。歓楽街・うさぎ銀座のシーンになると、街頭のモノラルスピーカーから流れる音でこの曲が定番のBGMとして使われていた。宇佐木温泉の設定は、1980年代に入ったというのに、時代に取り残されてさびれる一方の温泉街で、作品のテーマである、ふるさとを現代感覚での町おこしに奮起する若者たち(でも本音は都会に憧れをいつも抱いてたりする)と古くからの慣習に囚われている頭の固い大人たちの人間模様が具現化したような、古いものに新しいものを取り込んでみました的な、いまで喩えれば〝ゆるキャラ〟みたいな〝ゆる歌〟として、この「宇佐木温泉音頭」なのだ。でも、ぞんざいに扱われてはなく、宇佐木温泉の人たちはこの音頭をみな愛していて、出だしの「ぴょぴょんがぴょん!」を自然に口ずさんでる場面は幾らでも出てくる。だから、同じ大瀧詠一作曲の「夢で逢えたら」よりもカバーした人は多いんじゃないかってくらいの隠れたシロモノ(笑)かもしれない。

 

というわけで、今回のブログはもう少し『あんちゃん』について語っていきたいので、どうぞお付き合いのほどを。

 

『あんちゃん』は、1982年10月より日本テレビ土曜9時からの「土曜グランド劇場」というドラマ枠で放送された一話完結の連続ドラマ。刑事ドラマファンには土曜9時といえばTBSの『Gメン'75』が思い起こされるだろう。この激戦区で高視聴率を叩きだしていて、同時代の『太陽にほえろ!』と列ぶ刑事ドラマの金字塔ではあったが、1979年春改編期、そこに日本テレビは金曜9時からの放送だった水谷豊主演のヒットドラマ『熱中時代』のスピンオフで、同じ水谷豊主演の『熱中時代・刑事編』をぶつけて形勢逆転に成功。以後、西田敏行主演の『池中玄太80キロ』、水谷豊主演で学校編の『熱中時代(教師編PARTⅡ)』などヒットを連発するドル箱のドラマ枠となっていった(『Gメン'75』は挽回出来ず、視聴率が毎回10%台前半に落ち込んで1982年春に終了に追い込まれる)。

 

『あんちゃん』はその「土曜グランド劇場」枠、しかも1981年3月に終了した『熱中時代(教師編PARTⅡ)』以来の水谷豊出演ドラマともあって1982年秋の新ドラマの話題を一手に集めたのだ。




日本テレビの広報誌『うわさのテレビ』1982年秋号も、もちろん『あんちゃん』イチオシ!
 

相手役となる伊藤蘭は水谷豊の御指名。これがふたりの初共演で、翌年同じ土曜グランド劇場枠で作られる水谷豊主演『事件記者チャボ!』でも伊藤蘭が相手役となり再共演。そして、ごぞんじのように後にふたりは夫婦となるのだが、まだこの頃は水谷豊は『熱中時代・刑事編』で相手役となったミッキー・マッケンジーと結婚したばかり。ま、そんな芸能レポートネタはどうでもいいか。もっと面白い逸話があるんだ。

 

『あんちゃん』の収録は日本テレビが所有の神奈川県川崎市にある生田スタジオで撮られていたものの、リハーサルには東京都千代田区麹町にまだあったころの日本テレビの本局舎やその周辺の関連施設で行われていた。日本テレビ『お笑いスター誕生!』出身で、当時西城秀樹司会の『モーニングサラダ』にもレギュラー出演するなど、日本テレビお抱えとなっている頃の若きとんねるずがその麹町にある日本テレビの関連施設に居て、別の部屋で『あんちゃん』のリハが行われている情報を入手。それで、とんねるずの木梨憲武はキャンディーズ時代から大の伊藤蘭ファンだったことから、石橋貴明とふたりして『あんちゃん』のリハをそっと覗いていたという話。近年、あるテレビ番組で水谷豊に打ち明けたのだが、まったく知らなくて驚いたとのこと。

 

当ブログ記事 1983年秋のドラマ一番の期待作 『事件記者チャボ!』

http://ameblo.jp/goro-chayamachi/entry-11233606063.html

水谷と伊藤は翌年もやはり土曜グランド劇場枠で作られた『事件記者チャボ!』で再共演。


プロデューサーが日本テレビの名物男だった清水欣也だけに『あんちゃん』はゲストも毎回凝った感じな人が、凝った役で出てくる。『太陽にほえろ!』降板(1981年9月)から『スクールウォーズ』登板(1984年10月)まで、あまり良い仕事に恵まれず、この時期は『人工衛星クイズ』に出たことぐらいでしか語られない山下真司が珍しいワル役を好演している。あと、なんと言っても松田優作。唯一の前後編にゲスト主演で出てきている。水谷と松田はマブダチなんで、お互いの主演ドラマに応援で友情出演し合おうと約束していたとか。それでまずは松田優作主演の『探偵物語』(日本テレビ-セントラルアーツ、1979年9月~1980年3月)第5話「夜汽車で来たあいつ」(1979年10月16日)、そのお返しとして水谷の久しぶりの連ドラとなったこの『あんちゃん』第15話「なぜ彼らはジョーハツしたか?」(1983年2月5日)、第16話『緊急質問!君はさすらい派か、定住派か?』(1983年2月12日)に出演。松田優作がとてもむずかしい役を演じていて、だから逆に主演の水谷豊のほうがそれに対峙する具合で、妙な空気感が漂うこの前後編は傑作中の傑作に仕上がっている。

 

『あんちゃん』は2クールきっちり26話で放送。その最終回「ブルートレインは極楽行き!」(1983年4月23日)がこれまた味わい深い。最終回ってのは、だいたいイベント編にして大いに盛り上げるもんだし、それまでの伏線も回収するもんなんだけど、それを何一つしていないのだ。さびれる一方の宇佐木温泉にサプライズは起きないし、水谷豊演じる一徹は安楽寺の実子ではなく乳飲み子のときに拾われていて(でも、本人も廻りもそのことは承知済み)、結局その父親が出てきそうで出てこなかったし、血の繋がらない妹・徳子(伊藤蘭)との近親相姦にならない恋愛も進展させなかった。

 

〝最終回って、こういうのでいいんだっけ?、いや、たまにはいいかも・・・〟というくらいに最終回していない。だが、それが逆に後々にまで人々の印象に残り、傑作ドラマ『あんちゃん』となった。

 

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