刑事ドラマにおける“華”は、なんと言ってもレギュラー刑事降板回の殉職シーンである。

『太陽にほえろ!』で発案されたこれは通常回以上に視聴率を稼ぐことから、当時多くの刑事ドラマも見倣うことになった。

しかし、やりすぎることもこれいかに。なかでも視聴率が上がらず打ち切りになってやぶれかぶれで最終回に刑事全員殉職させた『警視庁殺人課』は、主人公・菅原文太が歌うヘンなエンディング曲で危ういところだったのをとうとう堕ちてしまって迷作の烙印が押されてしまった。

当然、模倣するフォロワーもあれば、あえて避けるアンチもある。『太陽にほえろ!』と列ぶ刑事ドラマの金字塔『Gメン'75』は、刑事にあだ名を付けることはさせずに名字と階級で呼び合った他、定番の聞き込みシーンも無闇に走ったり、情報屋に千円札挟んだタバコをこそこそ手渡したりするシーンは皆無。徹底的に『太陽にほえろ!』が作って、後追いの刑事ドラマがそれに倣った手法を避けた。そして降板回にもそれが出ていて、番組初期こそ二人の刑事をセンセーショナルに殉職降板させたのだが、以降は他の部署に“転属”というカタチで降板させている。

殉職シーンがない降板回でもそれはそれで“華”であるからして、たいていは降板する刑事が普段以上に活躍した上で栄転させるという設定が用意される。たとえば、『西部警察』で加納竜演じる桐生一馬刑事(通称・リュウ)の降板回「出発 -たびだち-」。冒頭からインターポール栄転決定に浮かれたリュウは、そのせいで自分の些細な捜査ミスで事件を大きくしてしまった。刑事であることに自信をなくしてしまったが、最後は団長のハッパも効いて、己自身の踏ん張りで事件を見事解決。そうしてラストシーンは大門軍団に見送られて颯爽と日本を旅立っていくというもの。

おっと、『Gメン'75』のことを語りたいのに脱線してしまった。イカンイカン。

で、ハードボイルドを謳う『Gメン'75』、殉職降板ではなく転属という設定で降板する刑事たちはインターポールやらFBIやらに栄転していくのもあるのだけど、降板回における捜査ミスの責任を取らされて事実上左遷させられて去っていくというトンデモないものがあるのだ。

その降板回「サヨナラGメンの若き獅子たち!」は、タイトルこそ格好良いが・・・。

狂犬・片桐竜次演じるノックアウト強盗を追うGメンたちは、狂犬・片桐竜次に娘共々DV受けて嫌気がさしている田坂都の協力の下で一度は手錠掛けて逮捕するものの、その直後に仲間の襲撃にあって逃亡されてしまう。さらに狂犬・片桐竜次は制服警官襲って手錠の鍵を奪って外したばかりか、当然のように拳銃も強奪。怒り狂った狂犬・片桐竜次は、自分を警察に売った田坂都に復讐しに舞い戻る。Gメンは田坂都母子の警護に赴いたところ、スキを突かれて娘が狂犬・片桐竜次が運転するダンプに轢かれて重傷に陥るという、さらなるミスを繰り返す。

一応、最後は狂犬・片桐竜次を射殺して事件を解決させるのだが、Gメンのボス・丹波哲郎演じる黒木警視正は、ムシの居所が悪かったのか、中屋警部補と島谷刑事に「もう一度初心に戻って刑事とはなんなのかということを学んでこい!」とGメンに加入する前に居た警視庁の部署に戻す辞令を下す。そして、この回の捜査指揮にあたっていて、ことごとく犯人に裏を掻かれたにもかかわらず、若林豪演じる立花警部は自分の責任は棚上げ。保身を早々決めただけに、いつもの余裕の豪口調で「俺はサヨナラはいわない」とキザにエールを送った。しかし、左遷される二人は楯突くことなく直立浮動してじっと聞き入る。そこに警察縦社会の厳しさを垣間見た・・・。

ハッピーエンドではなくバッドエンドという後味の悪さを残すのが『Gメン'75』の真骨頂ではあるが、逆説的にハッピーエンドとなる降板回にまでそれが及ぶ。エリート部署のGメンにまで選ばれたのに仕事が出来なくて左遷されたところが元の部署。出戻ったところで同僚たちに後ろ指さされて嘲笑われるのが待っているだけ。針のむしろ以外なにものでもないであろう。まさにある意味ハードボイルドなのである。