『ニダーホテル 捏造と賠償の歴史』
チョンバンガン・ニダー『ニダーホテル 捏造と賠償の歴史』大地書房
この度、ニダーホテルの支配人の書いた書物が翻訳された。著者は生粋のニダー族で、いつもライバルの旅館ギコ屋をいかに出し抜くかに余念のない、まことに尊敬かつ敬愛すべきニダーである。売り上げが伸び悩んでいる時は、ギコ屋のコンピュータにハッキングし、売上を移動させ、また会計報告を粉飾し、利益を捏造する手腕は、他に並ぶ者のない出来である。多くの人が、ニダーホテルの成功に幻惑されている。
また、売上が低下しているのは、旅館ギコ屋のせいであると難癖をつけ、「謝罪と賠償」を要求する果敢さは、是非多くのニダー族が見習ってほしい点である。
本書は、歴史の浅いニダーホテルの、粉飾決算と賠償活動をつづったものである。それが、このホテルの歴史にえもいわれる奥行きを与えている。
また、ニダーホテルのエレベーターは欠陥構造で、運が悪いとロケットのように上空高く飛んでしまう優れものである。最近話題の構造計算がどれほど十分なものかも、非常に香ばしい数値を出しているに違いない。
本書が、本国で異常な売れ行きを見せているのは、ニダー族の特徴があますところなく描かれているからであり、その非常識さに多くの人が思考停止に陥り、理解不能の素晴らしい書物と錯覚させられるからである。これぞ、捏造と賠償のニダーマジックである。
一ホテルの支配人の書いたものがこれほど売れること、これは時代の要請ではなかろうか。
『ギコクラテスの弁論』
モナトン『ギコクラテスの弁論』トベル社
3万年前の哲学的書物である。これが日本語で読めることは、実にありがたいことである。偉大な哲学者モナトンが、その師ギコクラテスを登場人物にして書いた対話である。モナトン自身も登場しているが、モナトンは師の半ば飛躍した常識外れな問いかけに、しばしば苦笑しているようである。
ギコ族のギコクラテス先生は、モナトンに向かって問う、「のう、モナトンよ、なぜモナーはモナーとしておるのだろうか」と。モナトンは、「ああ、また先生のワケ・ワカ・ラン問答が始まったモナ」と思いつつ、「それは、あの垂れ目とオマエモナーという鳴き声に関係しているのではないでしょうか」と神妙に返答する。すると、ギコクラテスは、「おお、まさにそれをこそ括目すべきことだ」と指摘する。そして、問答はモナー族の起源や習俗へと移り、モナーのモナーたる存在理由へと思いは馳せる。
ここには、今日の懐疑主義的存在論の萌芽がある。ギコクラテスは、それに先鞭をつけたのである。この対話は、素朴な語り口をしつつ、実に深遠な事実性を語っている、そのことをこそ特筆すべきである。そこに、この書物が今でも読まれる理由があるのやもしれぬ。
現在、この書は、モナーの存在論の最重要の基本文献である。それは、初めて、真摯にモナーの存在を問うたからであり、極めて精確に論理を展開しているからである。そして、非常に優れた文学作品である。