ごんざの辞書のかきかえ168「とかす」と「とかする」 | ゴンザのことば 江戸時代の少年がつくったロシア語・日本語辞書をよむ

ゴンザのことば 江戸時代の少年がつくったロシア語・日本語辞書をよむ

1728年、船が難破して半年後にカムチャツカに漂着した11歳の少年ゴンザは、ペテルブルグで21歳でしぬ前に露日辞書をつくりました。それを20世紀に発見した日本の言語学者が、訳注をつけて日本で出版した不思議な辞書の、ひとつずつの項目をよんだ感想をブログにしました。

「ロシア語」(ラテン文字転写)「村山七郎訳」    『ごんざ訳』

 

A「ОТтаиваю」(ottaivayu)  「融かす」       『とかす』

B「подталиваю」(podtalivayu)「(雪などを)とかす」  『とかする』

 

 鹿児島県立図書館の原稿コピーをみたら、ごんざはBにはじめに(токасъ)(tokas')(とかす)とかいてから(ъ)(')にかさねて(уръ)(ur')とかいていた。

 (とかす)から『とかする』にかきかえたのだ。

 

 AとBはおなじ語幹のことばで、Aには『とかす』という訳語をかいたのに、Bは(とかす)から『とかする』にかきかえた。どうしてだろう。

 

「изсехаю」(izsekhayu)  「融ける(雪などが)」  『とくる』

「прирастаю」(prirastayu) 「成長して一体となる」『とくる』

「исталиваю」(istalivayu) 「融ける」      『とくる』

「растаяваю」(rastayavayu)「溶ける」      『とくる』

「таю ОТтеп:」(tayu ottep:)「融解する、雪解け」『とくる』

 

 自動詞が『とくる』(とける)なら、他動詞は(とかす)でいいような気がするけど、ごんざは『とかする』にかきかえた。

 (とかす)と(とかする)の間でゆれがあったんだろうか。