「ゴンザのロシア資料に現れる複数を表す接辞」1 | ゴンザのことば 江戸時代の少年がつくったロシア語・日本語辞書をよむ

ゴンザのことば 江戸時代の少年がつくったロシア語・日本語辞書をよむ

1728年、船が難破して半年後にカムチャツカに漂着した11歳の少年ゴンザは、ペテルブルグで21歳でしぬ前に露日辞書をつくりました。それを20世紀に発見した日本の言語学者が、訳注をつけて日本で出版した不思議な辞書の、ひとつずつの項目をよんだ感想をブログにしました。

「ゴンザのロシア資料に現れる複数を表す接辞 -異なる言語間における過剰翻訳-」久保薗愛

という論文をみつけた。2022年4月に発表されたらしい。

 

 ごんざはロシア語の人間の複数形には「たち」、動物や無生物の複数形には– なんど」(など)という訳語をかいていて、「– なんど」は実際の日本語ではつかわない「過剰翻訳」だ、という結論だ。

 

 たしかに目はふたつあるからロシア語では複数形になっているけど、それを『めなんど』(目など)と訳すのは「過剰翻訳」であって、日本でそんなことをいってもなんのことかわからない。

 もし、ごんざの辞書が日本人がロシア語を理解するためにつかうことを想定しているのなら、ロシア語の単数複数のちがいをしめすために「– なんど」も役にたつけれど、ロシア人がロシア語を日本語に訳して日本人につたえるためにつかうことを想定しているのだから、「過剰翻訳」はありがたくない。

 

 ただ、ごんざの名誉のためにいうと、『めなんど』(目など)のような「過剰翻訳」の「– なんど」はごくわずかで、ロシア語の複数に上手に対応している例もたくさんある。