私にとって猛禽類のなまえはむずかしい。
「ワシ」と「タカ」と「ハヤブサ」がどうちがうのか、わからない。
ごんざは私がしらない猛禽類のなまえをしっていた。
「ロシア語」(ラテン文字転写) 「村山七郎訳」『ごんざ訳』 村山七郎注
「ястребъ птиц:」(yastreb' ptits:) 「おお鷹」 『ふぃだか』 ひ鷹
ごんざの訳語の『ふぃだか』は、村山七郎注には「ひ鷹」とかいてあるけど、現代日本語の(はいたか)にあたるとおもう。
日本国語大辞典 「はいたか(鷂)①ワシタカ科の小形の鷹。」
「ニコライ・レザノフ『露日辞書』にある語義不明の箇所について」浅川哲也 2017という論文の中で、おなじロシア語についた日本語訳について記述されているけど、それはちがうんじゃないかとおもう。
3455<Ястребъ><大鷹>Мисангу.(Misangu.)「御先(神が使者として遣わす動物)」
日本国語大辞典 「みさき(御先)②神が使者として遣わす動物。特に、烏・狐・猿などをいう。御先物。」
たしかにそういうことばはあるようだし、現代日本語の「みさき」が善六のことばで「みさんぐ」になるという音韻面の説明もつくだろう。
でも、日本語側に猛禽類とつながる記述ははいっていないし、ロシア語側に「神が使者として遣わす」という意味はないとおもう。
猛禽類で「みさんぐ」なら素直に(みさご)でいいんじゃないの?とおもう。
日本国語大辞典 「みさご(鶚・雎鳩)ワシタカ科の鳥。全長60センチメートル内外の大形の猛禽。背面は暗褐色で頭と体の下面は白く、胸に褐色の斑点がある。海や川の近くにすみ、水中の魚を見つけると急降下してあしで捕える。あしの外指が前後に反転し、指の裏にとげがあるのが特徴。世界に広く分布し、日本では留鳥として周年生息し、岩壁の上や樹上に巣をつくって繁殖する。」
「海や川の近くにすみ」というところも船のりの善六にぴったりだ。
善六にとっても猛禽類の区別はむずかしかっただろう。
みさごは猛禽類の仲間だから簡易露日辞典の訳語としては合格だけど、動物学的にはロシア語のястреб(yastreb)とおなじではない。
みさごはロシア語ではскопа(skopa)というらしい。
ブルガリア語ではорел рибар(orel ribar)(直訳:漁師のワシ)、
トルコ語ではbalik kartali(直訳:魚のワシ)、
英語ではospreyとよぶ。これは特殊な輸送機の名前になった。