今日は安倍元総理大臣の告別式が、東京は芝の増上寺で営まれました。

金曜日に暗殺されて、この火曜日に葬式。

まだ5日というか、もう5日というか…。

 

この5日間に起きた安倍元首相(以下、先日のブログと同じく「安倍ちゃん」と称します)についての動向で、歴史オタク的に気になることがありました。

 

安倍元首相に大勲位菊花章頸飾と大勲位菊花大綬章を授与へ…戦後4人目の最高位
https://www.yomiuri.co.jp/politics/20220711-OYT1T50275/

 

政府は11日の持ち回り閣議で、8日に死亡した安倍晋三・元首相を従一位に叙するとともに、大勲位菊花章頸飾と大勲位菊花大綬章を授与することを決めた。

戦後、最高位の勲章にあたる大勲位菊花章頸飾を日本人が受章するのは、首相経験者の吉田茂、佐藤栄作、中曽根康弘各氏に続いて4人目となる。

 

ほほう、従一位ですか。

 

従一位は「正一位」の下、上から二番目。歴史を紐解けば、もちろん大物のオンパレード。

 

大河ドラマ『平清盛』でいえば清盛や宗盛、悪左府頼長ら摂関家の人々の位階ですねー(ちなみに、重盛は正二位・内大臣)

 

なんとなく歴史オタク的には、没後に追贈されると「贈従一位」って思ってしまうのですが、平等主義の現代において生前に与えられるのは希少で、没後がスタンダード。

ゆえに没後に与えられても「従一位」になるみたいです。

 

そして叙勲は大勲位菊花章頸飾(だいくんい きっかしょう けいしょく)」大勲位菊花大綬章(だいくんい きっか だいじゅしょう)」

 

引用したニュース記事にもありますが、「大勲位菊花章頸飾」は日本の勲章の最高位。

 

これが授与される時、「大勲位菊花大綬章」も(まだ授与されていなければ)一緒に授与されることになっているそうです。

 

そうですか、「安倍大勲位」になってしまわれるのですね。大変、名誉なことでございます。

 

 

勲章は、かつては1+12=13段階の「勲位」がついていました。

 

一番上には「大勲位」があり、次から「勲○等」が12段、続いていきます。

「勲一等」は「正三位」相当、ずっと続いて「勲十二等」は「従八位」相当。

 

ところが、2003年の栄典制度改革によって「大勲位」以外の勲等が廃止。

かつては数字で表されて分かりやすかったのですが、今では名前を覚えないと、どんなレベルの勲章なのか?分からなくなってしまいました…。

 

現在の勲章は【菊花章】【桐花章】【旭日章】【瑞宝章】【宝冠章】【文化勲章】の6種類があり、さらに各1~6のランクに細分され、21種類が存在しています。

 

【菊花章】

皇族か首相経験者しかもらえない最高位の勲章。

以下の2ランクがあります。

 

「大勲位菊花章頸飾」(大勲位)

『大勲位菊花大綬章』(大勲位)

 

「菊花章頸飾」がナンバー1で、「菊花大綬章」が全勲章ナンバー2。

「菊花章頸飾」は、唯一ペンダント型をしているので「頸飾=首飾り」と呼ばれています。

 

「菊花章頸飾」は、戦後では吉田茂と佐藤栄作、2020年の中曽根康弘、そして今回の安倍ちゃんの4人だけ。一方の「菊花大綬章」は、首相経験者のほとんどがもらっています(後述)

 

 

【桐花章】

かつては「勲一等旭日桐花大綬章」として旭日章の最高ランクだったのですが、2003年の制度改正で、これだけが独立しました。

なので、『桐花大綬章』(勲一等)の1つだけ。これが日本の勲章のナンバー3。

 

一説には、「金鵄勲章(戦後に廃止された軍人の勲章)」の制定を画策した山縣有朋に対抗して、伊藤博文が制定させた…なんて言われています。

 

 

【旭日章】【瑞宝章】

それぞれ全6ランク。

民間人も貰っているので、結構ポピュラー。な割りには、2003年の制度改正に伴って同格の勲章とされたおかげで、選考基準の違いがよく分かりません…。

 

【旭日章】は「国家または公共に対し勲績ある者に授与される」

【瑞宝章】は「国家または公共に対し積年の功労ある者に授与される」

 

つまり、旭日の方は一目瞭然の功労者、瑞宝は長年に渡る功労者、ってことですかね…?

 

 

【宝冠章】

かつては【旭日章】【瑞宝章】が男性専用だったので、女性専用の勲章として制定されたのですが、男女平等の現在では【旭日章】【瑞宝章】は女性にも授与されるようになりました。

 

そこで現在は「女性皇族」か「外国人女性」に授与される勲章として存在しています。全6ランク。

 

 

以上の5種類をまとめると、以下の通り。

 

勲位相当 授与 勲章
大勲位 天皇自らが受章者に直接授与 大勲位菊花章頸飾
大勲位菊花大綬章
勲一等 桐花大綬章
旭日大綬章/瑞宝大綬章/宝冠大綬章
勲二等 天皇臨席のもと内閣総理大臣が受章者に手交 旭日重光章/瑞宝重光章/宝冠牡丹章
勲三等 所管大臣が受章者に伝達 旭日中綬章/瑞宝中綬章/宝冠白蝶章
勲四等 旭日小綬章/瑞宝小綬章/宝冠藤花章
勲五等 旭日双光章/瑞宝双光章/宝冠杏葉章
勲六等 旭日単光章/瑞宝単光章/宝冠波光章

 

 

【文化勲章】

最もポピュラーではなかろうか。文化的な功労者に与えられる勲章。

 

特に勲等もなく、名前も凝ってなくて、文化的功労という"ふわっ"とした功績に対応しているせいか、「他の勲章の下にある勲章」みたいに軽く見られるフシもあるのですが、この勲章が頂けるセレモニーは「宮中親授式」…なんと、天皇陛下から直接授与してもらえます!

一般人に一番手が届きやすい所にあるのに、「勲一等」相当。これは栄誉中の栄誉ですね。

 

 

と、勲章について把握した所で(というかほとんど蛇足でした…すみませぬ)、戦後の首相が、どのような叙位・叙勲となったのか、まとめてみるとこんな感じ。

 

東久邇宮稔彦 従二位 大勲位菊花大綬章
幣原喜重郎 従一位 勲一等旭日桐花大綬章
片山哲 従二位 勲一等旭日桐花大綬章
芦田均 従二位 勲一等旭日桐花大綬章
吉田茂 従一位 大勲位菊花章頸飾
鳩山一郎 正二位 大勲位菊花大綬章
石橋湛山 従二位 勲一等旭日桐花大綬章
岸信介 正二位 大勲位菊花大綬章
池田勇人 正二位 大勲位菊花大綬章
佐藤栄作 従一位 大勲位菊花章頸飾
田中角栄
三木武夫 正二位 大勲位菊花大綬章
福田赳夫 正二位 大勲位菊花大綬章
大平正芳 正二位 大勲位菊花大綬章
鈴木善幸 正二位 大勲位菊花大綬章
中曽根康弘 従一位 大勲位菊花章頸飾
竹下登 正二位 大勲位菊花大綬章
宇野宗佑 従二位 勲一等旭日桐花大綬章
海部俊樹 正二位 大勲位菊花大綬章
宮澤喜一 辞退 辞退
細川護熙
羽田孜 従二位 桐花大綬章
村山富市 桐花大綬章
橋本龍太郎 正二位 大勲位菊花大綬章
小渕恵三 正二位 大勲位菊花大綬章
森喜朗 桐花大綬章
小泉純一郎

 

こうやって見ると、首相経験者は没後に「正二位 大勲位菊花大綬章」が与えられる…というルールが見えてきます。

(上の表では、それよりもランクが上なら赤い色、ランクが下なら青い色にしてみました)

 

ちなみに「正二位」というのは、律令制にあっては「左大臣・右大臣」相当の位階。

歴史上、左大臣・右大臣になった人を思い浮かべてみて…それと同格ってことになるんです。まぁ、首相ですから当然といえば当然ですね。

 

 

しかし、よく見てみると、「正二位」「大勲位菊花大綬章」に届かなかった人物も、何人か散見されます。

 

東久邇宮稔彦は、敗戦処理のために総理大臣になったような人。在任期間54日は最短記録。

だから「正二位」には届かなかったのでしょうけれども、大変な敗戦処理をこなした功績は「大勲位菊花大綬章」として報われています。

 

片山哲芦田均は、戦後の混乱期。

GHQの圧力、財閥解体の失敗、インフレ…政治と財政は混迷を極め、こんな社会不安で政権の長期維持は無理ゲー。これが、一手届かず「従二位」に終わった理由でしょうか。

 

石橋湛山は、首相となった後、各地へ遊説行脚を敢行。しかしこの強行が祟ったのか、脳梗塞を起こしてしまい、わずか2ヶ月で辞職

ちなみに石橋湛山はジャーナリスト時代、暴漢に狙撃されて議会に出れなくなった濱口雄幸首相のことを「議会運営に支障が出るから潔く退陣せよ」と書いていて、これがブーメランになって自分が続投できなくなった…と言われています。

 

ともあれ、東久邇宮稔彦王・羽田孜に次ぐ歴代3位の短命政権。国会で一度も演説や答弁をしないまま退任した唯一の首相ということで、首相としての功績がほとんどありません。

これでは、1ランク下がってしまうのも仕方がないですかね。

 

田中角栄は、やっぱり「ロッキード事件」が尾を引いています。

有罪判決を喰らってしまい、いわば罪人のまま亡くなってしまったので、叙位・叙勲するわけにもいかなかったのでしょう。

首相経験者で無位無官というのも中々の寂しさがあります。汚名返上が必要ですが、今後も難しいのかもしれないですね…。

 

宇野宗佑といえば、何と言っても「三本指事件」(指3本出して「30万円で愛人にならないか」と誘惑された神楽坂の芸者が、それを世間に暴露した事件)

元々、竹下内閣の「リクルート事件」「消費税」による国民の自民党離れという逆境での船出だった上に、このスキャンダルで混乱を収拾できないまま参議院選挙に突入。

自民党は惨敗して参議院における与野党の勢力分布は逆転。この責任を取って辞任し、歴代4位の短命政権(69日)で終わりました。

スキャンダルは確かにカッコ悪いですが、これ自体は犯罪でもなんでもありませんから、やはり短命政権だったことが評価材料なんでしょう。

 

それよりも短い64日の短命政権に終わったのが、羽田孜

非自民党の連立政権として発足するも、スタート直前に政局闘争が起きて社会党が連立から離脱。羽田内閣はいきなり少数与党になってしまいます。

野党の自民党から出された内閣不信任案が衆議院で可決される見込みとなり、解散総選挙か、内閣総辞職かで揺れる中、小沢一郎の説得で総辞職に。

社会党が怒って出て行っちゃったのが運の尽き。少数与党の辛さよ…。平成29年に亡くなった時、従二位叙位は決定されましたが、新たな叙勲はされませんでした(桐花大綬章を受章は平成25年)

 

こうやって見ると、正二位・大勲位に届かなかった例は、短命政権だったことが大きいようなかんじですね。

 

総理大臣在任期間ワースト5(戦後)
東久邇宮稔彦(第43代) 54日 GHQの民主化方針に反発して退陣
羽田孜(第80代) 64日 内閣不信任案提出により内閣総辞職
石橋湛山(第55代) 65日 脳梗塞で執務不能となり退陣
宇野宗佑(第75代) 69日 参院選(第15回)惨敗を引責して退陣
芦田均(第47代) 220日 昭和電工疑獄事件により退陣

 

 

これらとは逆に、ルールよりも上の叙位・叙勲を受けている人もいます。

 

幣原喜重郎は「正二位」を、吉田茂佐藤栄作は「大勲位菊花大綬章」を、存命中に受けていました。

亡くなった後、それぞれ追贈され1ランクずつアップした…というわけですね。

 

(幣原喜重郎が「大勲位菊花大綬章」ではなく「旭日桐花大綬章」止まりになっているのが何故なのかは、よく分かりませんでした…)

 

中曽根康弘も、生前に「従六位」と「大勲位菊花大綬章」を持っていて、没後に追贈されたのはニュースにもなっていましたね。

 

 

一方で今回の安倍ちゃんは、無位からのいきなりの「従一位」

 

歴代最長の総理大臣任期と、数々の功績が認められ、最期が悲劇的で無念で国民の同情を買った…というあたりが、その理由なんでしょうかねー。

 

 

それにしても、「安倍大勲位」は、もっと明るい気分で呼びたかったですわ…本当に。