時は20世紀初頭、1910年2月10日のこと。

 

イギリス王国艦隊旗艦の「戦艦ドレッドノート」は、演習のためにドーバー海峡ウェイマス沖におりました。

 

そこに、一通の電報が届きます。

 

「本日午後4時20分に、アビシニアの王子御一行がウェイマスに到着する」

「至急迎えに行って、ドレッドノートの見学を応対するべし」

「くれぐれも国賓待遇でよろしく!」

「外務省からの代表者は、ハーバード・チョオモンドレイ氏である」

from 外務次官 サー・チャールズ・ハーディング

 

「アビシニアの王子?…って、アビシニアって何処?」

「エチオピアでございます」

「エチオピア…その地の言葉に精通している者は、わが軍におるか?」

「現在出張中であります」

「こんな時に…あちらの通訳に頼るしかないな」

「提督…お考えのところ恐縮ですが、少し急がれた方がよろしいかと」

 

将校に言われて時計を見てみると、なんと現在10時半。

 

「あと5時間ちょっとしかないではないか!外務省は何をやっとるんだ!」

 

何せ相手は国賓…遅刻だけは厳禁なのです。怒っても罵っても始まらないので、慌てて準備に取り掛かります。

 

 

午後4時20分。特別列車は定刻どおりパディントン駅に到着。

 

プラットフォームに広げられた真紅のカーペットに、アビシニア王子一行が降り立ちました。

 

王子一行は、アビシニア王子、アビシニア王女、侍従が2人、通訳、そしてイギリス外務省代表ハーバード・チョオモンドレイの6人。

 

礼服、式典準備、警備指示などを何とか間に合わせた提督は、来訪を心より歓迎し、一行を栄誉礼で出迎えます。

 

駅は祝典ムードに包まれました。

 


↑当時の写真…らしい…ってか、どれが王女??

 

「それでは、軍艦の方で宴席を用意しておりますので…」

「提督。アビシニアでは異教徒の食事は食べてはならない決まりになっておりますので」

「おお、そうでしたか。これは失礼いたしました…」

 

晩餐会はキャンセルされ、先方から希望があったという戦艦ドレッドノートの見学へとご案内。

 

提督が戦艦についての解説をすると、王子は時々、奇妙な叫び声を上げます。

 

「ブンガ!ブンガ!」

 

「…おい、王子は一体なんとおっしゃったのだ?」

おそるおそる通訳に聞いてみると、

「あれは、アビシニアの言葉で『すばらしい』という意味です」

「おお、なんだそうだったのか」

 

ほっと胸を撫で下ろして、さらに力を入れて案内をすると、今度は王女が叫び声をあげます。

 

「アチョイ!」

 

「…おい、王女は一体なんとおっしゃったのだ?」

「あれは、アビシニアの言葉で『すばらしい』という意味です」

「む?『すばらしい』は、『ブンガ!ブンガ!』ではないのか?」

「それは…ですね……そう、女性が言う時は『アチョイ!』になるのです」

「む、そうなのか…」

 

ヘンな言語もあるもんだな、と思いながら、戦艦見学は無事に終了。

 

下船して賓客室に向かうタイミングで、軍楽隊がアビシニア国歌を演奏する…というスケジュールでしたが、ここで大問題が発生。

 

なんと、軍楽隊の誰一人として、アビシニアの国歌を知らなかったのでした。

 

「え、知らない!?そんなこと言われても困るぞ、なんとかしろ!」

「しかし、知らないものはどうにもしようがございません…」

「むむ…ならば仕方がない。アビシニアに一番近い国の国歌を演奏しろ」

 

こうして、アフリカの国・ザンジバルの国歌を苦し紛れに演奏。

 

国際問題に発展してもおかしくない暴挙ですが、王子一行は厳粛にそれを聞いています。

 

演奏が終わると、王子は提督にこう切り出しました。

 

「提督。先ほど見た戦艦を1隻、わが国で購入したいのだが」

 

王子は国歌を間違えて演奏したことを責めなかったばかりか、戦艦の購入を約束してくれたのでした。

 

(なんと、度量の広い王子だ!)

 

喜びのあまり、提督は思わず言ってしまったそうです。

 

「ブンガ!ブンガ!(すばらしい)」

 

王子御一行は、この日のうちにパディントン駅から帰国の途に着きます。

 

国賓を無事に送り迎えできたことで、提督ら海軍は安堵の溜め息をついたのでした。

 

 

ところが、このアビシニア王子の御一行は、実は真っ赤なニセモノ。

 

ケンブリッジ大学の学生と、将来名を残す作家ヴァージニア・ウルフの若き日の姿でした。

 

首班は、ホーレス・ド・ヴィア・コール。名門出身の悪戯魔。

 

wikipediaへのリンク
William Horace de Vere Cole
1881/5/5 - 1936/2/25

 

この手の仕掛け人としてはすでに有名で、母校に「ザンジバル君主」を騙って晩餐会に招かれたという「前科」持ち。

 

それをスケールアップして、今度はイギリス海軍をドッキリにかけたのです。

 

成功の秘訣は、「アビシニアに精通していた唯一の将校が留守の日」と「外務省が電報を打つ方法と打ち出す局」を調べ尽くしておき、さらに「衣裳や列車、勲章などを、巨額を投じて徹底的に凝る」ことで、初期段階でバレる要素を未然に防いだこと。

 

この周到なペテンに、海軍は完全にひっかかってしまいました。

 

エセモノだったことに気がつかなかったばかりか、ご丁寧にも国賓レベルで歓待し、海軍自慢の戦艦であるドレッドノートに、あっさり侵入を許したのです。

 

そのネタバレが写真つきで新聞に掲載され、イギリス海軍は面子まるつぶれの大恥をかいてしまったのでした。

 

 

…以上が、「ドレッドノート・ホークス」と呼ばれる事件のあらまし。

 

 

今日は4月1日。エイプリール・フール。

 

ウソをついてもいい日…だからウソのネタを…ってのは、なんだかヤボくさいので、「ウソみたいな本当の話」を振ってみようかなと。そういうネタブログでした。

 

というわけで、この話は実話です。wikipediaにも載っているので、詳細なところはこちらを参照にドウゾ。

 

偽エチオピア皇帝事件(外部リンク)

 

まぁ、ワタクシにとってエイプリールフールは「ウソをついてもいい日」ではなく「ウソを見抜く日」なんですけどね。

 

ウソをつくだなんて、まぁやりませんよ……ワタクシ行いのいい人間なので(あ、ウソつきました)

 

 

以下、余談。

 

 

 

余談、その1。

 

イギリス海軍の赤っ恥になった戦艦ドレッドノート。

 

日本語にもなっている「弩級(ド級)」の「ド」は、これが元ネタ。

 

「Dread」は「恐怖」、「nought」は「無い」。つまり「恐れを知らぬ者」という意味になります。「ノート」は文房具ではないんですな(当たり前)

 

1906年の進水だったので、今年は120周年という記念すべき年でした…なので、このネタでやらかしてみましたw

 

「第一次世界大戦」が開戦した1914年には、もっと強力な「超弩級戦艦(スーパー・ドレッドノート)」が開発されていたので、英国艦隊の主力になることはなく、第一線からは外されていました。

 

そんな大戦中の、1915年3月18日。ドレッドノートはドイツ潜水艦U-29を発見。

 

すると、なんと「体当たり」を喰らわせて撃沈!

 

「戦艦が潜水艦を体当たりで沈める」という、ウソみたいな本当のことをしでかしています(史上初にして唯一の事例)

 

イギリス海軍は大歓喜。祝電はもちろん、「BUNGA BUNGA」(笑)

 

英国ジョーク全開…そういうのキライじゃないよw

 

 

 

余談、その2。

 

2010年、こんなニュースもありました。

 

伊首相のハーレム・パーティー「ブンガブンガ」、渦中の女性が様子語る 伊紙(外部リンク)

 

イタリアの元首相ベルルスコーニの買春スキャンダル。この“乱交パーティー”の名称が「ブンガブンガ」。

 

今は、「ブンガブンガ」というと、このイケナイ狂宴のことを表すようになっているようですねー。

 

wikipediaへのリンク
Silvio Berlusconi
1936/9/29 - 2023/6/12

 

 

 

余談、その3。

 

2022年、南太平洋で、こんな事件…というか、自然現象が起きています。

 

トンガの火山島、陸地の大部分が消失か 噴火前は東京ドーム61個分(外部リンク)

 

オセアニアのトンガ王国で、海底火山の大規模噴火があった…というニュース。

 

日本にも津波が来るなどして、当時は大々的に報道されていたのですが、その噴火した火山の名前が「フンガ・トンガ・フンガ・ハァパイ」。

 

「ブンガ!ブンガ!」に似ているので、ついでにご紹介…というネタw

 

「トンガ」はトンガ語で「南」、「ハァパイ」は諸島の地名を意味し、2015年の噴火の影響で2つの島がくっついて「トンガ=ハァパイ」になったのだそうな。

 

で、肝心の「フンガ」は、トンガ語で「火山」の意味。

 

濁点が付く「ブンガ」は、「すばらしい」だったり「イケナイ狂宴」だったりして、濁点が付かないと「火山」。お間違えなきよう(誰が間違えるんだ)

 

なお、トンガ・ハァパイは、2022年の噴火で島が再び2つに分裂してしまったそうな.

 


↑ハァパイ島が吹き飛んじゃったってことなのかな