前回の記事で1970年代オカルト映画ブームをけん引し、様々な社会現象まで引き起こした作品『エクソシスト』に触れたけど、今回はこの作品がマクロスΔと共通の神話にもどついている可能性が高いことを語ってみたい


(1)『エクソシスト』は実話に着想を得た作品
1973年の映画『エクソシスト』(英題:The Exorcist)はウィリアム・ピーター・ブラッティの1971年の小説を基に、ウィリアム・フリードキンが監督した映画

1949年メリーランド州レイニアで発生した悪魔憑依事件に着想を得たブラッティが、ポーランドの映画『尼僧ヨアンナ』(1961年)や、17世紀フランスで発生した悪魔憑き事件に関する作家オルダス・ハクスリーの著作品『ルーダンの悪魔』(1952年)などを参考に脚本を書き上げたらしい……

実はこの作品、日本とは無関係では無い説があるらしい……
レイニア悪魔憑依事件では実際には発生していなかったとされる、憑依された少女が悪魔祓い儀式中に空中浮揚するシーンは、なんと日本の江戸時代の浄土宗僧侶・祐天の怨霊祓いを伝えたとされる『死霊解脱物語聞書』(1690年)の一場面をモチーフにした可能性があるって言われてるんだって

 

 

 

(2)『エクソシスト』のあらすじは……
映画の内容は……
イラク北部での遺跡発掘現場でランカスター・メリン神父が、かつて過去の悪魔祓い事件で対峙したことがある悪魔パズズの像を発見するところから始まる
やがて女優クリス・マクニールの一人娘リーガン・マクニールの周囲で、様々な怪奇現象や奇怪な様相の殺人事件が発生し、事件を担当するキンダーマン警部補はデミアン・カラス神父に相談
超常的で奇怪な言動をする娘の様子に母クリスは悪魔憑依を確信、友人であるダイアー神父に相談し、紹介されたカラス神父に悪魔祓いを依頼……
リーガンと相対したカラス神父もまた悪魔憑依を確信し、大司教に悪魔祓い儀式の許可を求め、教会は悪魔祓い経験者であるメリン神父を儀式責任者に任命する
悪魔祓い儀式は開始され、二人の懸命な祈りが続く中、メリン神父は持病の心臓病発作で急死、追い詰められたカラス神父はリーガンを殴りつけて、悪魔を自身の肉体に憑依させたうえで窓から飛び降り転落死することで、結果的にはリーガンから悪霊を引きはがすことに成功する(続編で完全ではなかったことが明かされる)
ダイア―神父と再会した親子、回復したリーガンは憑依時の出来事を一切覚えていなかった…

 

 

(3)悪魔役の風の魔神に注目

今回の記事で注目したいのは映画の冒頭、メリル神父がイラク北部の遺跡で発見した頭部のみの悪魔像

 

 

『エクソシスト』で悪魔役を務めるのは、キリスト教における悪魔であるサタンやサタンと同一視される堕天使ルシフェルではなく、なんとメソポタミアーアッカド神話の魔神だったりする……それが……

 

メソポタミア神話

風の魔神パズズ

Pazuzu

パズズ像

ルーブル美術館収蔵

 

特徴的な造形で表現される“魔神パズズ”は『エクソシスト』では冒頭の遺跡場面以外にも悪魔祓い儀式の最中に、その特異なデザインの魔神がサブリミナルのように一瞬浮かび上がる場面が挿入されている……

また声だけが登場する場面が複数挿入されている……

 

映画内ではこの悪魔をパズズであると明示する場面は無いけれども、原作小説や続編にあたる『エクソシスト2』『エクソシスト3』では、登場する悪魔の名がパズズであることが明示されている……

冒頭の遺跡場面も、メリン神父が過去の悪魔祓い案件において悪魔パズズと対峙した経験を思い起こし、再戦の予感を感じ取ると言う設定らしい……

 

 

 

(4)なぜ異教の魔神パズズが選ばれたのか?

『エクソシスト』に関する制作陣への取材記事や、映画評論家・研究者などによれば、中東に接点があり、またメソポタミア神話に多大な興味を抱いていた原作者ブラッティは、その特異な造形「古く、異国的で、その役にふさわしい見た目であること」に魅了されたらしい……

 

異常に突き出た大きな目を持つ犬とライオンが混ざったような顔つき、鱗に覆われた身体、蛇の頭を持つペニス、猛禽の如き鉤爪、そして通常は二対の翼を持つ姿で描かれる……像によってはサソリの尾やガゼルの角も装備しているらしい……まさに悪役に相応しい姿でしかも強そう……少なくとも正義の味方には見え難い💦

 

さらにメソポタミア神話の魔神パズズが、キリスト教における“完全なる悪魔”の概念に取り込まれていく過程、さらには疫病の悪魔としてのパズズ神話の性格も『エクソシスト』の悪魔に相応しいとした上での採用だったらしい……

 

 

(5)パズズは病と蝗害をもたらす風の魔神

パズズは古代メソポタミアにおいて最も有名な悪魔・悪霊のひとつ

パズズは古代バビロニアの四大方位神「四つの風の精霊リル族」のうちの主に太陽が沈む方角から吹き付ける南西風の「風の魔神」とされている……

 

特に紀元前8世紀から紀元前5世紀頃にかけてバビロニア人やアッシリア人の間で広く知られる存在だったらしい……

 

シュメール語とアッカド語で書かれた百科全書compendiaでは、パズズはなんと自己紹介をしている

「私はパズズ、邪悪なリルデーモンの王、ハンブの息子である。私は(激しい動きで)強大な山々に激しく怒り、そしてその頂点に立った。」

 

「風の魔神」として主に災害をもたらす風(東風もしくは南西風の二説がある)を支配し、乾季は飢饉、雨季には暴風雨と蝗害(イナゴ害)を、さらには疫病をもたらす魔神であり「疫病と枯死の魔神の王」「全ての風の精霊リルの王」「人間の苦悩の根源」として恐れられていたらしい……

『エクソシスト』続編の『エクソシスト2』ではイナゴ害をもたらす魔王としてのパズズが強調されている

 

(6)パズズは守護悪魔!?だったりもする

ところがパズズはもうひとつヒーローとしてのの側面があったりする

パズズは疫病、特に子供や妊婦を襲う魔女ラマシュトゥを追い払い、冥界に返すことができると信じられており、“毒を以て毒を制する”的な厄除けの神・家庭の守護神としてむしろ大人気の信仰対象にさえなっていた……

つまり……

パズズ=守護悪魔

 

ウルクから出土した儀式文書によると、妊婦はパズズのネックレスやブローチを着用して魔女ラマシュトゥからお腹の子を守ってたんだって……

古代アッシリアの病人の快癒を願う白魔術・祈祷でもパズズが使われるらしい……

他にも石でできたお守りや大型の像は玄関や部屋において魔除けになったらしい……

日本だったら疫病の厄神や病死者の怨霊を祀る八坂神社の祭典である祇園祭、その祭神・牛頭天王に相当するのかも?

 

今まで発掘されたパズズを造形した置物やアクセサリーは古代の遺物としては非常に多く、それはパズズが大人気だったことを証明している……

 

妊婦を守る“守護悪魔”という性格や、ライオンに似た造形、翼と長大なペニスを持っているなどパズズとの類似点が多い、古代エジプトの悪魔ベスとも深い関係があると指摘する研究がある……

 

(7)“病をもたらす風”は日本語で「疾風」という

ここで気になったのがパズズの“病をもたらす風”という最も根源的な性質……実は日本語の“疾風”も元々は同じ意味だったりする……

 

“疾風”を構成する“疾”の文字の語源……

“疾”と言う文字の起源的な象形文字は会意兼形声文字で、「人が病気で伏せる」を意味する病ダレ部分と“矢”で構成され、「人が弓矢に当たって傷つき伏せる」という意味から、戦病死や病気を意味する言葉になった……

 

日本では“疾風”は腸チフスなどの多くの人に急速な死をもたらす病気……もしかするとインフルエンザウイルスや強毒性のコロナウイルスなどによる感冒……をもたらす強い風を意味する言葉として使われていた……

 

それが“多くの者に急速な死をもたらす”という意味が、やがては強風・暴風の荒ぶるイメージとも重なって「多くの敵をすぐに倒す英雄・武人」を表現する意味に転用されるようになる……

第二次世界大戦期の日本陸軍四式戦闘機・疾風もそのイメージから付けられた名前だよね

 

つまりマクロスΔの主人公のひとり ハヤテ・インメルマンのハヤテは「死をもたらす風」であり、それはパズズの性質と一致する……

つまりハヤテは元々は魔神……マクロスサーガでは例えばプロトデビルンやプロトデビルン上位のサブユニバースの知的存在……だった可能性があるんだよね……

 

 

(8)“蝗害の悪魔“は“バジュラの悪魔”かも?

そしてパズズの“イナゴ害をもたらす魔神”という性質も重要かもしれない……

過去記事で何度かハヤテ・インメルマンは古代インド神話の暴風神ルドラ(後の時代の宇宙の創造破壊を司る舞踏神シヴァ)に相当し、またルドラを記したインド神話原典『リグ・ヴェーダ』では、ルドラが“バジュラを持つ者”と記載されていることから、ルドラがインド神話の大水蛇神ヴリトラ一族を倒す為に創られた決戦兵器ヴァジュラを使い手だったことが分かる……

 

 

そしてインメルマンという名前……

このドイツ語インメルマン(Immelmann)の印欧祖語由来の語源は「養蜂家」であり、恐らくインメルマンと言う名前はフランク王国以降のドイツ騎士階級における森林官のひとつ養蜂管理官を示す言葉だった可能性が高い

さらにインドの暴風神ルドラの祭祀ではルドラを表現するリンガ(石造)にハチミツを塗りたくる儀式があるらしい……

 

 

ミツバチは集団生活を営む社会性昆虫として知られているけど……

広範な地域の農作物を喰い尽くす蝗害(イナゴ害)をもたらす群生相状態のトノサマバッタ・サバクトビバッタ・ワタリバッタもある種の社会性を持つ……

ちなみに日本ではイナゴ害と呼ばれてるけど、イナゴは群生相にならないから、本当はトノサマバッタなどのその他のバッタ類が蝗害を引き起こすらしい……

 

そして大きい群れだと本州全面積の三分の一にも達し、個体数は500億匹で、その総重量は11万5千トン~米国の最新鋭原子力空母ジェラルド・R・フォード級よりも重いことになる……考えただけで恐ろしい……しかも大量の卵を産むから数年連続で発生するらしい……

カメムシ大発生でもあれだけ迷惑なのに…(((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル

 

 

つまり「ハヤテ・インメルマン」という名前は次の意味に解釈できる

 

 

死の病をもたらし

決戦兵器ヴァジュラ

群生昆虫を使役する暴風神・悪魔

 

つまり私はこう思う……

 

「ハヤテ・インメルマン」の語源と

「病と蝗害の風魔神パズズ」って……

めっちゃ似てないびっくりマーク

 

 

 

(9)ハヤテが“バジュラの風の悪魔”なら魔女ラマシュトゥは?

 

そして……

ハヤテ=パズズだとすると……

そのライバルであり……

一部では配偶者とも言われる……

 

魔女ラマシュトゥってもしかして……

 

フレイアのこと!?

 

……って想像しちゃうよねびっくり

 

 

実はこの連想はマクロスサーガにおいては凄く重要なことかもしれない……

ラマシュトゥってリリスの起源と言われる魔女リリトゥにも、メソポタミア神話の女神イシュタルの姉である冥界女神エレシュキガルにも似てるんだよね……

メソポタミア神話の最高位支配神アヌの娘という最上位女神でありながら、悪の女神として神界から追放された最古の堕天女神ラマシュトゥ……

やっぱり原初フレイアは最上位女神だったのに堕天した悪魔女神!?……

あんなに無邪気で可愛いのに!!

 

 

 

そしてラマシュトゥとパズズは敵対関係で……もしかすると配偶者……

原初ハヤフレのエンカウンターってやっぱり戦場で敵同士だったのかも?

マックスとミリアみたいに……

 

いやぁ……マクロスサーガ面白くなりそうだね

ラマシュトゥはいつか特集記事を組みたいねラブラブ