今日も都会のコンクリートジャングルまっただ中を、ヒールの音を響かせながらミドリがゆく。
今日は午後から本社で全社会議が行われる。
総務部に所属するミドリは、朝からその準備に大忙しだった。
全社会議って言ったって、どうせ地方から出て来た田舎社員たちの報告会でしょ。
内心ではそんなふうに思っているが、30代中堅ともなるとその感情を表に出すことはない。
今日は後輩の田崎が生理休暇をとっており、先輩の大石も有休をとっていた。
なにもこんな日にやすまなくてもいいじゃないかと思うものの、こんな日だから休みたい社員もいることを、ミドリは承知していた。
ミドリは、コピー機に書類をさしこむ自分の手をしばし見つめる。
今日疲れるのは分かっていたから、昨夜は両手両足にネイルを施し、思い切り自分を甘やかしたのだ。
そのおかげもあって、こうして職場でネイルを眺め、いっときの安らぎを得ることができている。
でもそれだけでは今日の労働には見合わない気がしてきた。
よし、今日仕事を終えたら、帰りにマッサージに寄ろう。
奮発して60分コースを選んで、フットケアもしてもらおう。
そうなると、がぜんやる気の湧いてくるミドリである。
そこへ、上司の小森さんがやってきた。
「書類整理が終わったら、次はプロジェクターね、その次にマイクテストで、それが終わったらネームプレート」
矢継ぎ早に出される指示に新入社員の頃は混乱していたが、今ではすんなり頭に入る。
10年も同じ上司の元で仕事をしていれば、言動の癖というのも分かってくるもので、自然とあしらい方も身についてくるというものだ。
きめ細かな準備のかいもあって、会議はとどこおりなく終わった。
打ち上げに行かないかと誘われたものの、ミドリはそれを断り駅近くのサロンに直行した。
全身をもみほぐされ、まるで天にものぼる心地の中、案外、今の働き方は性に合っているなと思うミドリであった。
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