今朝も朝5時に起きた。
妻が亡くなってからというもの、ひどく早起きになった。
起きるとまず、枕元で喉を鳴らしている飼い猫のナミさんに朝ごはんをあげる。
缶詰などの湿った高級ごはんは午後にとっておいて、朝はカリカリの乾いたご飯と決めている。
ナミさんがごはんを食べているあいだに軽く体操をしてシャワーを浴びたら、次は私の番。
タイマーで予約しておいた炊き立てのご飯にインスタントの味噌汁をつけて、主菜はカリカリに焼いた焼き鮭で、副菜は旬の漬物だ。
主菜と副菜は、季節に合わせた器に盛っていただく。
食後には血圧をおさえるための薬を飲むことを忘れずに。
洗い物を手早く片づけたら、玄関に行ってポストから朝刊を取ってくる。
新聞を開く前に、まずはコーヒーを淹れる。
豆を手動のミルで挽くところからはじめるが、私は一月ごとに豆の種類を変えて味の違いを楽しんでいる。
フィルターに少し冷ました熱湯をゆっくりと注ぎ入れる。
部屋いっぱいに広がるかぐわしい香りに全身が溶けてゆくような心地を覚える。
そうして、カップ一杯のコーヒーを淹れたら、やっと折りたたまれている新聞を手に取って広げる。
その頃になるとナミさんがかまって欲しそうに膝の上に乗ってくるので、私は片手でその頭をなでながら紙面にざっと目を走らせる。
新聞をあらかた読み終えたら、今度は洗濯物をベランダに干す。
妻は亡くなる前に、「私は先に逝くけれど、毎日ちゃんと生きていくんですよ」と繰り返し語っていた。
正直、何が起こってもそれを共有することのできる相手がもういないというのは寂しい限りだが、それでも男ひとり、なんとかやっていけているのは妻のその言葉があったからだ。
妻よ、私はちゃんと生きているだろうか。
ときどきそう問いかけながら、今日も私は生きていく。
窓辺では、飼い猫のナミさんが今日もゆくりとくつろいでいる。
※この小説はyoutubeショート動画でもお楽しみいただけます。
以下のリンクをご利用ください。