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くさかはるの日記

くさかはる@五十音のブログです。

漫画と小説を書いて暮らしております。

現在、漫画と小説が別ストーリーで展開してリンクする『常世の君の物語』という物語を連載中。

検索していただくと無料で読むことが出来るので、どなた様もぜひお立ち寄りください。

今朝、私は夫と大喧嘩した。

きっかけは最近夫がさぼりがちなゴミ出しについて、私がしつこく問いただしたことだった。

「お前の叱り方さ、嫌味や過去の事を持ち出して、なんかうっとうしいんだわ」

夫はそう言って仕事に出かけた。

家に一人残された私は怒りが収まらず、家事をしながらずっとむかついていた。

なぜ叱っている私の方が偉そうに言われなければならないのか。

何度考えても夫の言い分に腹が立った。

 

洗濯物を干し、家じゅうに掃除機をかけ終わり一息つくころになっても、私の怒りはおさまらなかった。

こんな時は、何か自分を甘やかすイベントが必要だ。

そう思った私は、ちょっと電車で遠出をして、高めのランチを楽しむことにした。

スマホでレビューを見て選んだ、はじめて入る店だった。

本日のおすすめを選んでみたところ、それはなんということはない、シンプルな唐揚げ定食だった。

多少がっかりしたものの、雰囲気だけは良い店だったので、私は勢い食後のコーヒーも注文した。

するとそのコーヒーが思いのほかおいしく、私はウェイターに感想を述べるまで上機嫌になっていた。

 

お腹のふくれた私は、来た道にこじんまりした映画館があったことを思い出した。

店を出て寄ってみると、果たしてブームが三周ほど過ぎた映画が上映されていた。

尖った映画を見る気分でもなく、泣きたいわけでもなかった。

恋愛に酔いしれたいわけでも、冒険したいわけでもなかった。

消去法から、私は動物の出てくる感動ものの映画をチョイスした。

映画自体は予想していた通り、動物と人間の交流を描いた心温まるものであった。

感情がささくれなかっただけで、今は十分。

私は帰りに本屋に寄り、積み上げられていた中から文庫本をいくつか選んで買って帰った。

それをSNSにあげたりしているうちに夕方になり、洗濯物を取り入れる。

夫が帰ってくるまでゆっくりと夕食の支度をして待つ。

夫の機嫌は直っているだろうか。

沈みゆく夕日をベランダから眺めながら、私はその写真をSNSにあげるのだった。

 

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スマホの通知が鳴る。

なんだ、ニュースか。

このところの俺はいつもこんなふうである。

 

というのも、先日、弟の勧めで、人生ではじめてマッチングアプリに登録したのだ。

弟によると、最近の若者はみんな使っているとのことだった。

アプリの使い方は簡単で、写真を設定したら、あとはプロフィールを埋めるだけ。

準備ができたら女性の中から適当に相手を選び、いいねを押す。

運が良ければ相手にいいねをしてもらえ、そうしたらマッチング成立、晴れてメッセージのやりとりが可能になる、というわけだ。

ちなみに男性に限り、メッセージのやりとりは有料である。

マッチングアプリというのはそうやって儲けているそうで、他人の恋愛を盛り上げるだけ盛り上げて金をとるなんて、いい商売してるよな、と思う。

 

俺は毎日マメにいいねを押し続けた。

しかしまったく反応が見られなかった。

どうやら、いわゆる美男美女にいいねが集まるようになっているようであり、イケメンでない俺などは写真を見ただけでスルーされてしまうようだった。

なんという不公平だ。

人間、外見より中身だろう。

とスマホのこっち側でひとりむなしく自論を展開しても誰にも届かない。

とにかく第一印象が大事だと気づいた俺は、ヘアサロンに行って髪と眉を整えてもらい、ちゃんとした写真を撮ってもらい、そのうえでプロフィールを充実させて相手の出方をうかがった。

しかし、いっこうに反応は得られなかった。

結局、俺は馬鹿馬鹿しくなって、いいねを押すのをやめた。

よかったことと言えば、身ぎれいになった分、会社の部下から「彼女でも出来たんですか」とはやし立てられたことくらいだ。

ああ、どこかに疲れた俺を癒してくれるかわいい女の子はいないものか。

すれ違うカップルをうらやましく思いながら、今日も俺はスマホの通知を待っているのであった。

 

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今日も都会のコンクリートジャングルまっただ中を、ヒールの音を響かせながらミドリがゆく。

今日は午後から本社で全社会議が行われる。

総務部に所属するミドリは、朝からその準備に大忙しだった。

全社会議って言ったって、どうせ地方から出て来た田舎社員たちの報告会でしょ。

内心ではそんなふうに思っているが、30代中堅ともなるとその感情を表に出すことはない。

今日は後輩の田崎が生理休暇をとっており、先輩の大石も有休をとっていた。

なにもこんな日にやすまなくてもいいじゃないかと思うものの、こんな日だから休みたい社員もいることを、ミドリは承知していた。

ミドリは、コピー機に書類をさしこむ自分の手をしばし見つめる。

今日疲れるのは分かっていたから、昨夜は両手両足にネイルを施し、思い切り自分を甘やかしたのだ。

そのおかげもあって、こうして職場でネイルを眺め、いっときの安らぎを得ることができている。

 

でもそれだけでは今日の労働には見合わない気がしてきた。

よし、今日仕事を終えたら、帰りにマッサージに寄ろう。

奮発して60分コースを選んで、フットケアもしてもらおう。

そうなると、がぜんやる気の湧いてくるミドリである。

そこへ、上司の小森さんがやってきた。

「書類整理が終わったら、次はプロジェクターね、その次にマイクテストで、それが終わったらネームプレート」

矢継ぎ早に出される指示に新入社員の頃は混乱していたが、今ではすんなり頭に入る。

10年も同じ上司の元で仕事をしていれば、言動の癖というのも分かってくるもので、自然とあしらい方も身についてくるというものだ。

 

きめ細かな準備のかいもあって、会議はとどこおりなく終わった。

打ち上げに行かないかと誘われたものの、ミドリはそれを断り駅近くのサロンに直行した。

全身をもみほぐされ、まるで天にものぼる心地の中、案外、今の働き方は性に合っているなと思うミドリであった。

 

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玄関で見送る母に挨拶をして、今日も僕は仕事に向かう。

家から10分ほど車を飛ばして、最寄りの駅に到着。

ここは県庁所在地から離れたかなりの田舎だから、駅は勿論、無人駅だ。

人のいる駅で購入した定期券を鞄の中に入れたまま、僕は形ばかりの改札をくぐる。

朝のホームには、僕と同じような勤め人や、学生たちがちらほら見える。

今頃はみな各々のスマホに夢中で、自分のそばに誰かが近づいたって顔もあげやしない。

 

時間より少々遅れて汽車が到着。

勿論、一両編成、多くても二両編成だ。

汽車の額のプレートには「ワンマン」と書いてあったりする。

僕にとっては幼い頃から変わらない、馴染みのある車体だ。

都会では電車がいくらでも走っているものだから、子供のころから電車好きな子が育つらしいと誰かが言っていた。

僕が知っているのは電車ではなくて汽車だし、知っているのもこの路線だけだから、特別好きということもない。

ただ毎朝、毎晩、いつも同じ時間にやってきては、律儀に人を運んでいく鉄の箱。

僕にとってこの汽車はそんなイメージだ。

 

仕事を終えて、夕方18時の汽車に乗る。

ここでもやはり、いつもの汽車だ。

一日働いてくたびれた僕を、学生たちを、がたんごとんと運んでゆく。

ときどき都会に出張に行って都会の電車に乗る機会があるけれど、がたんごとんという衝撃の大きさが違うことに驚いた。

田舎は衝撃が大きく、都会は衝撃が小さいのだ。

汽車と電車の差なのだろうかと思うが、僕は特別電車に詳しいわけでもないのでよくは知らない。

ただ、がたんごとんと大きな衝撃とともに、山々や海辺を渡ってゆくこの路線を、僕はなんだか心地よく感じている。

特別好きというわけではない。

単に愛着を感じているのだろう。

今日も僕はおなかをすかせて無人駅に降りる。

また明日もよろしくな、と暗闇の中こうこうと光るいつもの車両に向かい内心つぶやきながら。

 

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高校2年の秋、私たちの学年は体育館に集められた。

何の話だろうと思えば、これから始まる受験についての話だった。

私たちの学校は県下随一の進学校で、毎年東大に数人入る程度の学力を誇っていた。

毎年学年があがる際にクラス替えの試験が実施され、上位何位かに入ることが出来れば、晴れて文系理系それぞれ学年に一クラスある進学クラスに入ることが出来る、というシステムだった。

前回のクラス替えのテストで、私はぎりぎりで進学クラスに入ることが出来なかった。

一方で、進学クラスから落ちてきた生徒もいた。

彼らは、さすが進学クラスにいただけのことはあり、日頃から勉強をする姿勢が身についていた。

隙が無い、というべきか。

常に勉強のことを考えているし、家に帰っても勉強しかしていない。

私はこういう人たちと大学受験を戦うのか、と思うと気が遠くなったことを覚えている。

 

ある日、土手を歩いていると、父娘とおぼしき二人とすれ違った。

若い女の人が「ごめんね」と年配の男性に謝っていた。

姿勢の悪い、いかにも卑屈そうなその女の人を見て、大人になってもああはなりたくないなと思った。

そう、私はこんな地方の田舎で埋もれて人生を終えたくはない。

都会に出て、ひとかどの人間になるのだ。

お金もたくさん稼いで、いい部屋に住んで、いい暮らしをして、素敵な人と巡り合って、素敵な恋をして、素敵な人生を送るのだ。

私は断じて、こんな片田舎で終わる人間ではない。

 

それが、学生の頃の私の信条だった。

しかし、結局私は大学受験に失敗した。

今、私は一浪して県内の国公立大学を目指している。

両親と話し合いをした結果、資金面でもそれしか進路がないと言われたのだ。

人生、ままならない。

私は今、はじめて挫折を味わっている。

私はこんな片田舎で大学生活を送り、卒業し、就職し、結婚し、一生を終えていくのか。

世の中、なんて不公平なんだ。

私の脳裏に、あの日、土手ですれちがった女性の姿が浮かんでいた。

 

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