ボストリッジ ドレイク 大阪公演 シューベルト さすらい人 緑のなかの歌 夕映えのなかで ほか | 音と言葉と音楽家  ~クラシック音楽コンサート鑑賞記 in 関西~

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クラシック音楽の鑑賞日記や雑記です。
“たまにしか書かないけど日記”というタイトルでしたが、最近毎日のように書いているので変更しました。
敬愛する音楽評論家ロベルト・シューマン、ヴィルヘルム・フルトヴェングラー、吉田秀和の著作や翻訳に因んで名付けています。

シューベルト――約束の地へ

Vol.5 いつまでも伝わるもの――自然、神話、そして心

 

【日時】

2024年1月17日(水) 開演 19:00 (開場 18:30)

 

【会場】

住友生命いずみホール (大阪)

 

【演奏】

テノール:イアン・ボストリッジ

ピアノ:ジュリアス・ドレイク

 

【プログラム】

シューベルト:郷愁 D456

シューベルト:あこがれ D879

シューベルト:戸外にて D880

シューベルト:あなたと二人きりでいると D866-2

シューベルト:さすらい人が月によせて D870

シューベルト:臨終を告げる鐘 D871

シューベルト:真珠D466

シューベルト:みずからの意志で沈む D700

シューベルト:怒れるディアナに D707

シューベルト:とらわれた狩人の歌 D843

シューベルト:ノーマンの歌 D846

 

シューベルト:さすらい人 D493

シューベルト:ヒッポリートの歌 D890

シューベルト:リュートによせて D905

シューベルト:わがピアノに D342

シューベルト:小川のほとりの若者 D300

シューベルト:オオカミくんが釣りをする D525

シューベルト:眠りの歌 D527

シューベルト:友たちへ D654

シューベルト:緑のなかの歌 D917

シューベルト:孤独な男 D800

シューベルト:夕映えのなかで D799

 

※アンコール

シューベルト:春に D882

シューベルト:ます D550

シューベルト:音楽に寄せて D547

シューベルト:月に寄せて D193

 

 

 

 

 

私の思う史上最高のリート歌手、イアン・ボストリッジ(1964年イギリス生まれ)と、史上最高のリート伴奏ピアニスト、ジュリアス・ドレイク(1959年イギリス生まれ)。

このコンビによるリート演奏を、録音では幾度となく聴いてきたけれど、今回初めて生で聴くことができた。

彼らはシューベルトの歌曲をいくつか集めて、疑似連作歌曲集のようなものを何パターンか作っているのだが、今回はCDにもなっている2014年のウィグモア・ホールでのライヴと全く同じものである(その記事はこちら)。

 

 

もちろん、ディースカウやヴンダーリヒ、シュライアー、ブロッホヴィッツ、プレガルディエン、ゲルネと、偉大なリート歌手は数多くいる。

ただ、彼らはやや威厳がありすぎる。

シューベルト、シューマン、ヴォルフといったリート作曲家たちの若き情熱、不安定で幻想的な、儚い炎の一瞬の閃きを表現するには、ボストリッジの混じり気のない純な声質ほど相応しいものはない(ゲルト・テュルクやクリストフ・ゲンツがリートを録音してくれたらこれに匹敵する可能性があるが)。

ドイツ語のネイティブでないことは、私にはあまり気にならない。

 

 

それでも、ボストリッジもドレイクももうそれなりに歳を取ってきており、往年の輝きは期待できないかもしれない、と覚悟して聴きに行ったのだが、なんのなんの。

パドモアよりも(その記事はこちら)、プレガルディエンよりも(その記事はこちら)、ゲルネよりも(その記事はこちら)、今までに聴いたどのリート演奏会よりも素晴らしかった。

ボストリッジの美声未だ健在で、これぞシューベルト、と言いたい透明感である。

 

 

それに加え、やはり実演では、劇的な表現が録音とは段違いに生々しく伝わってくる。

前半の11曲では、最後の4曲(マイヤーホーファー詞の2曲とスコット詞の2曲)がとりわけ印象的で、「みずからの意志で沈む」の静かな緊張から「ノーマンの歌」の雄渾な激情まで、息もつかせない。

特に「ノーマンの歌」の迫力たるや、上記ライヴ録音で聴かれる穏やかな演奏とは全くの別物だった。

 

 

後半の11曲は、「さすらい人」「緑のなかの歌」「夕映えのなかで」といった有名曲が含まれ、これらも素晴らしかった。

そして「小川のほとりの若者」、この曲ではボストリッジの美声もさることながら、ドレイクのピアノが見事。

甘美すぎずすっきりと(ショパンではなくあくまでシューベルトらしく)、それでいて実に詩的で、傷心の若者を優しく癒やす清らかな小川のせせらぎそのものだった。

 

 

客席はあまり埋まっていなかったが、終演後はまさに万雷の拍手で、満席かと見紛う盛り上がりよう。

そんな聴衆の熱狂に応えて、ボストリッジとドレイクはアンコールを4曲もやってくれた。

有名な4曲で、いずれも彼らの最初のシューベルト歌曲集のCDに収録されていたもの(NMLApple MusicCDYouTube)。

このアルバムこそ、世のあらゆるリート録音集から一つだけ選べと言われたら、私ならこれを選ぶであろう最高傑作である。

録音されたのは1996年、ボストリッジもドレイクも全盛期だった。

これほどまでにみずみずしい、青春の結晶のような歌唱は、今回はさすがに聴くことができなかったけれど、そのぶん枯れた味わい、長年苦楽を共にしてきた年輪のようなものが感じられた。

ともあれ世界一のリート演奏、それ以外にもう何も言うことはない。

 

 

 

(画像はこちらのページよりお借りしました)

 

 

 

 


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