大阪フィルハーモニー交響楽団
第569回定期演奏会
【日時】
2023年6月16日(金) 開演 19:00
【会場】
フェスティバルホール (大阪)
【演奏】
指揮:シャルル・デュトワ
チェロ:上野通明 *
管弦楽:大阪フィルハーモニー交響楽団
(コンサートマスター:崔文洙)
【プログラム】
フォーレ:組曲「ペレアスとメリザンド」作品80
ショスタコーヴィチ:チェロ協奏曲 第1番 変ホ長調 作品107 *
ストラヴィンスキー:交響詩「ナイチンゲールの歌」
ラヴェル:ラ・ヴァルス
※アンコール(ソリスト) *
バッハ:無伴奏チェロ組曲 第1番 ト長調 BWV1007 より 前奏曲
大フィルの定期演奏会を聴きに行った。
指揮は、1936年スイス生まれの大御所指揮者、シャルル・デュトワ。
彼の大フィル定期への出演はこれで3回目(1回目はこちら、2回目はこちら)。
大御所だけあって、座席はかなり埋まっていた。
86歳とは思えない、ぴんと伸びた背筋に、俊敏な動作。
ソリストは、1995年パラグアイ生まれ、2021年ジュネーブ国際音楽コンクール優勝の日本のチェリスト、上野通明。
最初のプログラムは、フォーレの「ペレアスとメリザンド」。
この曲で私の好きな録音は
●ジョージアディス指揮 RTEシンフォニエッタ 1995年3月23,24日セッション盤(NML/Apple Music/CD/YouTube1/2/3/4)
●サラベルジェ指揮 ルーアン・オート・ノルマンディ歌劇場管 2011年7月18-22日セッション盤(NML/Apple Music/CD/YouTube1/2/3/4/5)
あたりである。
しっとりした前者、さらりとした後者といった解釈の違いはあるが、フォーレの静かな感動を伝えるといった点では甲乙つけがたい。
今回のデュトワ&大フィルもこの名曲を品よくまとめてはいたが、思ったほどにはパッとしなかった。
“色彩の魔術師”たるデュトワにとって、“灰色の真珠”ともいうべきフォーレの音楽は、少し持て余すところがあるのかもしれない。
それでも、第3曲「シシリエンヌ」は彼らしく華やかに仕上げていて良かった。
そしてこの曲では、田中玲奈の繊細で滑らかなフルートが何より印象的で、その点では上記名盤をも大きく上回る。
あまり朗々と吹き上げず弱音で慎ましいのも、フォーレに全くふさわしい。
次のプログラムは、ショスタコーヴィチのチェロ協奏曲第1番。
この曲で私の好きな録音は
●ロストロポーヴィチ(Vc) ガウク指揮 モスクワ・フィル 1959年10月6日モスクワライヴ盤(NML/CD/YouTube1/2/3/4)
●ロストロポーヴィチ(Vc) オーマンディ指揮 フィラデルフィア管 1959年11月8日セッション盤(Apple Music/CD/YouTube1/2/3/4)
●ロストロポーヴィチ(Vc) コンドラシン指揮 チェコ・フィル 1960年5月29日プラハライヴ盤(NML/CD/YouTube1/2/3/4)
●ロストロポーヴィチ(Vc) ロジェストヴェンスキー指揮 レニングラード・フィル 1960年9月9日エディンバラライヴ盤(NML/CD)
●ロストロポーヴィチ(Vc) ロジェストヴェンスキー指揮 モスクワ・フィル 1961年2月10日モスクワライヴ盤(NML/Apple Music/CD/YouTube1/2/3/4)
●ロストロポーヴィチ(Vc) 小澤征爾指揮 ロンドン響 1987年11月セッション盤(NML/Apple Music/CD/YouTube1/2/3/4)
あたりである。
この曲は、初演者ロストロポーヴィチの独壇場。
他にトルトゥリエやシフ、イヴァシュキン、コーゾフらの演奏も好きではあるが、ロストロポーヴィチの分厚い音と比べると、どうしてもひ弱に聴こえてしまう。
今回の上野通明も音が細く、残念ながらショスタコーヴィチらしい凄味は感じられなかった。
それでも、緩徐楽章の抒情的な表現などは良かったように思う。
全体に、爽やかでかわいらしい感じの演奏で、強音よりも弱音の素直な丁寧さが強みといった印象。
アンコールのバッハは、そんな彼の性質が曲に合っていた。
次のプログラムは、ストラヴィンスキーの「ナイチンゲールの歌」。
この曲で私の好きな録音は
●クラフト指揮 コロンビア響 1967年1月セッション盤(Apple Music/CD/YouTube1/2/3/4)
●ブーレーズ指揮 ニューヨーク・フィル 1975年セッション盤(Apple Music/CD/YouTube1/2/3/4)
あたりである。
いずれも、高い透明度に強烈な色彩感を併せ持った名盤。
ブーレーズは後年にも複数の同曲録音を残しているが、透明度は保たれているものの、色彩感は上記の盤を再現することができなかった。
今回のデュトワ&大フィルは、それとは逆に、色彩感はかなりあったものの、各パートを聴かせる透明度という点では物足りなさを感じた。
前回のペトルーシュカでもそうだったが(その記事はこちら)、やはりあらゆる音型がヴィヴィッドに聴こえる透明度の高い演奏でないと、ストラヴィンスキーを聴く醍醐味が半減してしまう。
それでも、実演であまり取り上げられることのないこの曲を、このクオリティで聴けるというのは、貴重な機会だった。
最後のプログラムは、ラヴェルのラ・ヴァルス(管弦楽版)。
この曲で私の好きな録音は
●ネゼ=セガン指揮 ロッテルダム・フィル 2008年セッション盤(NML/Apple Music/CD/YouTube)
あたりである。
ラヴェルにふさわしい、エスプリ溢れる洗練された名盤。
今回のデュトワ&大フィルは、上記ネゼ=セガン盤ほどの繊細さはなかったけれど、華やかさではむしろ優るほど。
終盤のクライマックスなど、ラヴェルの意図した“さんざめくシャンデリアの光”をこれほど眩く表現した演奏は、他に聴いたことがない。
今回の演奏会全体においてもクライマックスといえる、極上のひと時だった。
それにしても、デュトワ&大フィルの演奏会は今回が3回目だが、毎回そのプログラムの妙に唸らされる。
フランスものを中心に、古典やロシアものを織り交ぜながら、多彩で個性的なプログラムの中に、常に自身の持ち味をしっかりと魅せることのできる“核”がある点で、私にはピアニスト務川慧悟のコンクール選曲と同様のセンスが感じられる。
(画像はこちらのページよりお借りしました)
↑ ブログランキングに参加しています。もしよろしければ、クリックお願いいたします。