(イブラギモヴァの新譜 パガニーニ 24のカプリース) | 音と言葉と音楽家  ~クラシック音楽コンサート鑑賞記 in 関西~

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クラシック音楽の鑑賞日記や雑記です。
“たまにしか書かないけど日記”というタイトルでしたが、最近毎日のように書いているので変更しました。
敬愛する音楽評論家ロベルト・シューマン、ヴィルヘルム・フルトヴェングラー、吉田秀和の著作や翻訳に因んで名付けています。

今回は演奏会の感想ではなく、別の話題を。

好きなヴァイオリニスト、アリーナ・イブラギモヴァの新譜が発売された(CD)。

曲目は、パガニーニの「24のカプリース」である。

詳細は以下の通り。

 

 

 

 

 

 

 

アリーナ・イブラギモヴァ新録音! パガニーニの『24のカプリース』全曲!

ハルトマンの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ&組曲、J.S.バッハの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ&パルティータ、イザイの無伴奏ヴァイオリン・ソナタに続く新たな無伴奏プログラム。1挺のヴァイオリン、4本の弦によって可能な技術的限界を試し、何世代にもわたるヴァイオリニストたちに究極の試練を与えてきたパガニーニの『24のカプリース』のレコーディングが実現。
「Hyperion」はこのパガニーニの録音を以前からアリーナに提案してきたものの、スケジュールの都合上、作品に対峙する時間が無く先送りが続いていました。しかし今回、新型コロナ禍におけるロックダウンにより時間的余裕を得たアリーナが遂に提案を受け入れ、録音を決断しました。「これらの作品に隠れる場所はなく、練習の近道もない」と語ったアリーナ・イブラギモヴァが、この機会に真摯に取り組み磨き上げたパガニーニ。ピンと張り詰めたレコーディング・スタジオの空気に、深く鋭く響くアンセルモ・ベッロシオ1775年頃製ヴァイオリンの音色。技術と表現力のすべてを注いで完成させた素晴らしき『24のカプリース』にどうぞご期待ください!(輸入元情報)

【収録情報】
パガニーニ:24のカプリース Op.1

Disc1

● 第1番ホ長調 アンダンテ
● 第2番ロ短調 モデラート
● 第3番ホ短調 ソステヌート - プレスト
● 第4番ハ短調 マエストーソ
● 第5番イ短調 アジタート
● 第6番ト短調 (アダージョ)
● 第7番イ短調 ポサート
● 第8番変ホ長調 マエストーソ
● 第9番ホ長調 アレグレット
● 第10番ト短調 ヴィヴァーチェ
● 第11番ハ長調 アンダンテ - プレスト
● 第12番変イ長調 アレグロ

Disc2
● 第13番変ロ長調 アレグロ
● 第14番変ホ長調 モデラート
● 第15番ホ短調 ポサート
● 第16番ト短調 プレスト
● 第17番変ホ長調 ソステヌート - アンダンテ
● 第18番ハ長調 コレンテ:アレグロ
● 第19番変ホ長調 レント - アレグロ・アッサイ
● 第20番ニ長調 アレグレット
● 第21番イ長調 アモローゾ
● 第22番ヘ長調 マルカート
● 第23番変ホ長調 ポサート
● 第24番イ短調 主題と変奏:クアジ・プレスト

アリーナ・イブラギモヴァ(ヴァイオリン)

録音時期:2020年5月18,19,31日、6月1日
録音場所:ロンドン、ヘンリー・ウッド・ホール
録音方式:ステレオ(デジタル/セッション)

 

 

 

 

 

以上、HMVのサイトより引用した(引用元のページはこちら)。

 

 

パガニーニの「24のカプリース」で私の好きな録音は

 

●五嶋みどり(Vn) 1988年12月セッション盤(Apple MusicCD

 

あたりである。

ショパンの「24のエチュード」におけるポリーニ盤と同じく、このとんでもない難曲集を一音一音丁寧にくまなく鳴らし、余計な夾雑物を排してテクニックの本質をストレートに追求した決定盤。

この録音から30年以上経っているが、後にも先にもこれほどのカプリース全曲録音は現れていない(あのユリア・フィッシャーでさえ敵わなかった)。

 

 

そして今回のアリーナ・イブラギモヴァ盤はきわめて繊細で正確無比、五嶋みどり盤にほぼ匹敵するレベルに達していると思う。

また、ひたすらストレートな解釈の五嶋みどりに対し、イブラギモヴァは随所にテンポの伸び縮みやアーティキュレーションの工夫を配して、生き生きとした音楽表現をしている(例えば、第17曲の重音のテヌート指示をあえて無視して小気味よいスタッカートにしたり、誰もが朗々と弾く終曲のテーマをあえて軽めに弾いたり)。

音質も良く、この曲集の新たなベスト盤として推したいところだった。

 

 

しかし、第1曲のみは、五嶋みどりに軍配が上がる。

イブラギモヴァは五嶋みどり以上の高速テンポで鮮やかに曲を開始するが、その分アルペッジョの4連音がしばしばはっきりせず、3連音のように聴こえがち。

また、アルペッジョは速いのだが、アルペッジョに挟まれた三度和音下行音型は通常テンポへと落ちてしまうのも興をそがれる。

そもそも速度指示は「Andante」なのだから、もう少し慌てずじっくりとやってほしかった(好きな曲だけに残念)。

 

 

ついでに欲を言うと、終曲の第9変奏(左手ピッツィカートの変奏)も少しもたついており、五嶋みどりほどのキレはない。

ただ、続く第10変奏はハイフェッツのようにフラジョレット奏法に変えており、その繊細な美しさは聴き物である。

というわけで今回のイブラギモヴァ盤、総合的には五嶋みどり盤の完成度に及ばなかったが、それに次ぐものだと思うし、彼女の創意工夫はところどころでこの曲の隠れた魅力を明らかにしている。

この曲集があまり好きになれない、という人にこそお勧めしたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なお、アリーナ・イブラギモヴァのこれまでのCDについての記事はこちら。

 

イブラギモヴァの新譜 フランク&ヴィエルヌ ヴァイオリン・ソナタ

イブラギモヴァの新譜 ブラームス ヴァイオリン・ソナタ全集

イブラギモヴァの新譜 ショスタコーヴィチ ヴァイオリン協奏曲第1、2番

 

 


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