辻彩奈ヴァイオリンリサイタル
【日時】
2021年3月14日(日) 開演 14:00 (開場 13:30)
【会場】
あいおいニッセイ同和損保 ザ・フェニックスホール (大阪)
【演奏】
ヴァイオリン:辻彩奈
ピアノ:阪田知樹 *
【プログラム】
モーツァルト:ヴァイオリン・ソナタ 第36番 変ホ長調 K.380 *
ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ 第7番 ハ短調 op.30-2 *
権代敦彦:Post Festum ソロヴァイオリンのための op.172
フランク:ヴァイオリン・ソナタ イ長調 FWV8 *
※アンコール
M.T.パラディス:シチリアーノ *
辻彩奈のヴァイオリン、阪田知樹のピアノによるデュオコンサートを聴きに行った。
ともに若くしてすでに著名なアーティストだが、生で聴くのは私には今回が初めて。
今回特に良かったのが、ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ第7番。
この曲で私の好きな録音は
●シゲティ(Vn) アラウ(Pf) 1944年ワシントンライヴ盤(NML/Apple Music/CD)
●P.フランク(Vn) C.フランク(Pf) 1992-95年セッション盤(NML/Apple Music/CD)
●I.ファウスト(Vn) アレクサンドル・メルニコフ(Pf) 2008年7月セッション盤(NML/Apple Music/CD)
●イブラギモヴァ(Vn) ティベルギアン(Pf) 2009年10月27日ロンドンライヴ盤(Apple Music/CD)
●ガット(Vn) リベール(Pf) 2019年4,5月セッション盤(NML/Apple Music/CD)
●ペトロヴァ(Vn) クズネツォフ(Pf) 2019年9月19-22日セッション盤(NML/Apple Music/CD)
あたりである。
今回の辻彩奈&阪田知樹の演奏は、これらに並ぶか、あるいはそこまでいかないにしてもかなり迫るものだった。
彼らは2人とも、この曲によく合っているように思う。
といっても、彼らが「ベートーヴェン弾き」だと言いたいわけではない。
先日の辻彩奈のメンデルスゾーンの演奏動画もそうだったが(その記事はこちら)、ロマン派風の熱情的な曲への親和性が高いのである。
ベートーヴェン弾きというと、先日オンライン配信を聴いた上里はな子などが思い浮かぶが(その記事はこちら)、彼女の重厚かつ端正なドイツ風の演奏と比べると、辻彩奈はよりヴィルトゥオーゾ風である。
音程などやや無頓着な分、音の迫力や表現への集中力に独自の個性を持つ、室内楽的というよりはソリスティックな演奏。
とはいえそうした表現がゆきすぎることなく、適度に引き締まっているさまは、チョン・キョンファあたりに近いものを感じさせる。
ピアノの阪田知樹についても同様で、ベートーヴェン弾きとして私が思い浮かべる松本和将などと比べると、やはりヴィルトゥオーゾ風。
阪田知樹は、彼のコンクール歴から言うわけではないが、リスト弾きといった印象を受ける、硬質で強靭な打鍵を持つ。
やはり室内楽的というよりはソリスティックであり、辻彩奈との相性は良いように感じた。
今回は日本の作曲家、権代敦彦への辻彩奈からの委嘱作品である無伴奏ヴァイオリン曲「Post Festum」も演奏された。
3曲構成で、本来は何か協奏曲を弾いた後のアンコール曲として1曲ずつ独立に弾くそうなのだが、今回は3曲まとめて演奏された。
3曲まとめてコンサートで(無観客でなく)演奏されるのは、大阪では今回が初めて、つまり大阪初演だったとのこと。
低音部から超高音部まで幅広い音域を用い、またトレモロ、アルペッジョ、ピッツィカートなど色々な技法を駆使した、という点ではアンコール曲らしい。
それでもあまり派手さはなく、どちらかというと内省的な曲と感じた。
辻彩奈の演奏は、現代曲だからと冷静に淡々と弾くのでなく、あくまで情熱的に、表現たっぷりに弾いたもの。
こうした委嘱新作の演奏は、今後もぜひ続けてほしいものである。
最後の曲、フランクのヴァイオリン・ソナタは、上のベートーヴェンでたくさんの盤を選んだのと対照的に、
●イブラギモヴァ(Vn) ティベルギアン(Pf) 2018年1月11-13日セッション盤(CD)
が私はとりわけ好きである。
この録音については、以前にも書いた(その記事はこちら)。
一すじの風のような優しさや清々しさ、あるいはガラス細工のような繊細さや儚さの表現は、昔から数多ある名盤のいずれにも勝るもの。
今回の辻彩奈&阪田知樹の演奏は、イブラギモヴァ&ティベルギアンの繊細さはなく、もっと分厚くて情熱的な、たくましいものだった。
その点では、第2楽章が比較的良かったか。
全体的に、私の中でのこの曲のイメージとは異なるが、彼ららしいといえばそうであり、面白く聴いた。
(画像はこちらのページよりお借りしました)
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