東京で開催されている、2020年ピティナピアノコンペティション(公式サイトはこちら)。
8月18日は、特級のセミファイナル。
ネット配信を聴いた(こちら)。
ちなみに、2020年ピティナピアノコンペティション特級についてのこれまでの記事はこちら。
(2020年ピティナ・ピアノコンペティション特級 3次予選通過者発表)
1. 三上結衣 (動画はこちら)
神山奈々:沙羅の樹の 花ひらく夜に うぐいすは
W.A.モーツァルト:ピアノソナタ第3番 変ロ長調 K.281
メシアン:4つのリズムエチュード より 「火の島 第1」
ラフマニノフ:コレルリの主題による変奏曲 Op.42
ゴドフスキー:「こうもり」の主題による交響的変容
相変わらず明瞭で歯切れのよいタッチ。
モーツァルトは曲のイメージよりやや地味めの音色かもしれないが、左手も含め安定しており完成度が高い。
メシアンや邦人曲も引き締まっているし、ラフマニノフもよくまとまっており、なおかつこの曲の渋い味を引き出せている。
2. 村上智則 (動画はこちら)
ベートーヴェン:ピアノソナタ第27番 ホ短調 Op.90
神山奈々:沙羅の樹の 花ひらく夜に うぐいすは
ブラームス:8つのピアノ小品 Op.76
スクリャービン:詩曲「焔に向かって」 Op.72
彼らしい自然な音楽が聴かれる。
特にブラームスが味わい深く、彼の長所をしっかり出せている印象。
邦人曲も、一つ前の人の硬質な味とは違った伸びやかな良さがある。
ベートーヴェンでは少しミスもあったものの、全体的には技巧上無理のない選曲でじっくり仕上げており、2次や3次よりも印象が良くなった。
3. 尾城杏奈 (動画はこちら)
バルトーク:エチュード Op.18-2、Op.18-3
神山奈々:沙羅の樹の 花ひらく夜に うぐいすは
ベートーヴェン:ピアノソナタ第27番 ホ短調 Op.90
プロコフィエフ:ピアノソナタ第8番 変ロ長調 Op.84 「戦争ソナタ」
どの曲もしっかりまとめられている。
邦人曲やベートーヴェンはもうあと一歩個性が欲しい気もするが、プロコフィエフはなかなか抒情的、神秘的な雰囲気が出ている。
第1楽章の急速部はさらなるキレが欲しいものの、終楽章コーダの右手単音+オクターヴ連打は(音抜けも少々あるが)よく耐えた方か。
4. 谷昂登 (動画はこちら)
プロコフィエフ:サルカズム Op.17
W.A.モーツァルト:ピアノソナタ第3番 変ロ長調 K.281
神山奈々:沙羅の樹の 花ひらく夜に うぐいすは
ラフマニノフ:楽興の時 Op.16
やはりロシア風の深い打鍵が魅力。
プロコフィエフはもう少しキレが欲しいが、それでも力強い音が聴かれるし、ラフマニノフではロシア的なロマンとキレとが両立している。
ただ、モーツァルトの両端楽章で指が転びがちだったのが残念。
中間楽章は深々とした歌の聴かれる良い演奏だったのだが。
5. 岸本隆之介 (動画はこちら)
J.S.バッハ:パルティータ第2番 ハ短調 BWV826
神山奈々:沙羅の樹の 花ひらく夜に うぐいすは
ベートーヴェン:ピアノソナタ第26番 変ホ長調 Op.81 「告別」
ショパン:ノクターン第17番 ロ長調 Op.62-1
ラヴェル:「夜のガスパール」 より 「スカルボ」
バッハやベートーヴェン、ミスはちょこちょこあったが自然な歌があり、左手の動きも概ねスムーズ、連続和音やアルペッジョもなかなか。
ショパンも、再現部の右手トリルが丁寧に扱われ好印象。
ただしラヴェルは、同じく自然さがあるものの、同音連打の音抜けが多いのはこの曲では痛いところで、別の選曲のほうが良かったかも。
6. 山縣美季 (動画はこちら)
J.S.バッハ:半音階的幻想曲とフーガ ニ短調 BWV903
ベートーヴェン:ピアノソナタ第31番 変イ長調 Op.110
神山奈々:沙羅の樹の 花ひらく夜に うぐいすは
ショパン:アンダンテ・スピアナートと華麗な大ポロネーズ 変ホ長調 Op.22
バッハとベートーヴェンは、音楽的な演奏ではあるが、ロマン派の曲に比べると彼女の持ち味をやや出しにくそう。
邦人曲あたりから、彼女の抒情性が存分に発揮されだした感あり。
そしてショパンは、デリケートな情感を湛えたアンダンテといい、軽快かつ優美な佇まいのポロネーズといい、当曲きっての名演。
7. 森本隼太 (動画はこちら)
神山奈々:沙羅の樹の 花ひらく夜に うぐいすは
リスト:巡礼の年第2年「イタリア」S.161 より 「ダンテを読んで ~ソナタ風幻想曲~」
デュポン:「砂丘の家」 より 第6番「陽の光は波間に戯れる」
ハイドン:ソナタ ニ長調 Hob.XVI:24
ラフマニノフ:ピアノソナタ第2番 変ロ短調 Op.36 (1931年版)
リスト、力強く充実した音や豊かな情感は健在だが、彼としてはミスタッチがやや多かったか。
デュポンやハイドンは軽やかで繊細、常に歌があり、トリルもきれい。
ラフマニノフも曲の情熱を十分に表現できており、終楽章コーダでの加速も元気があって良い(こちらもミスはあるが概ね許容範囲内か)。
そんなわけで、以上の7人からファイナルに進める人数である4人を選ぶとすると
1. 三上結衣
2. 村上智則
6. 山縣美季
7. 森本隼太
あたりになる。
ただ、出来はみな近接している印象であり、誰が通ってもおかしくなさそう。
本当は3次の協奏曲で存在感を見せた谷昂登にも残ってほしいところだが、モーツァルトがネックになるか。
さて、セミファイナルの実際の結果は以下のようになった。
【ファイナル進出者】
3. 尾城杏奈
4. 谷昂登
6. 山縣美季 ○
7. 森本隼太 ○
なお、○をつけたのは私がファイナルに残ってほしかった4人の中の人である。
4人中2人。
半分しか当たらなかったが、谷昂登が通ったのは嬉しい誤算。
尾城杏奈も(私は迷った末に外してしまったが)通っておかしくない一人だと思う。
三上結衣が落ちたのはやや意外だが、協奏曲向きかどうかが争点となったのかもしれない。
ファイナルは8月21日(金)に予定されている。
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