2020年ピティナ・ピアノコンペティション特級 2次予選の感想追記 | 音と言葉と音楽家  ~クラシック音楽コンサート鑑賞記 in 関西~

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クラシック音楽の鑑賞日記や雑記です。
“たまにしか書かないけど日記”というタイトルでしたが、最近毎日のように書いているので変更しました。
敬愛する音楽評論家ロベルト・シューマン、ヴィルヘルム・フルトヴェングラー、吉田秀和の著作や翻訳に因んで名付けています。

東京で開催されている、2020年ピティナピアノコンペティション(公式サイトはこちら)。

8月3-4日は、特級の2次予選の第1-2日。

結果については昨日の記事に書いたが、今回は備忘録として各演奏のごく簡単な感想を追記したい。

ちなみに、2020年ピティナピアノコンペティション特級についてのこれまでの記事はこちら。

 

2次予選

 

 

 

 

 

第1日

 

1. 角野未来

 

スカルラッティ:ソナタ ニ短調 K.9/L.413、ト長調 K.455/L.209

ドビュッシー:エチュード「6度音程のために」「8度音程のために」「8本の指のために」

ショパン:エチュード ヘ長調 Op.10-8

ショパン:アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ Op.22

 

スカルラッティ、やや重めであり、同音連打も少しぎこちない。

ドビュッシー、特に8本指の曲などかなりスムーズに弾けている。

ショパンも弾けてはいるのだがやはり足取りは少し重めの印象。

 

 

2. 中村優似

 

J.S.バッハ:パルティータ 第1番 変ロ長調 BWV825

シマノフスキ:変奏曲 変ロ短調 Op.3

ショパン:ノクターン 第13番 ハ短調 Op.48-1

 

全体的にしっかり弾けており、完成度は高め。

ただ、音楽の表情付けがやや直線的であり、もう少し個性的な表現が聴かれると良いか。

 

 

3. 生熊茜

 

ショパン:エチュード 嬰ト短調 Op.25-6

リスト:ピアノ・ソナタ ロ短調 S.178

 

ショパン、弾けてはいるが、ややいっぱいいっぱいの感もあり。

リスト、まとまりは良いが、巨大なスケールや濃厚なロマン、卓越した技巧など、何かしらの特徴がないとこの大曲を聴かせるのは難しい。

 

 

4. 渡邊さくら

 

J.S.バッハ:トッカータ ニ長調 BWV912

ショパン:エチュード イ短調 Op.25-11 「木枯らし」

シューマン:交響的練習曲 Op.13

 

技巧的な安定性がもう少しあると良いか。

音楽的にもややおとなしい印象。

 

 

5. 佐久山修太

 

J.S.バッハ:イタリア協奏曲 BWV971

ショパン:エチュード イ短調 Op.25-11 「木枯らし」

ドビュッシー:映像 第1集

 

こちらも技巧的な安定性がもう少しほしい。

音楽的な印象も同様。

ただし、ここまでの5人はネット配信の音質が悪く、ネットで判断する分には不利である(審査自体は会場で行われているため問題ない)。

 

 

6. 藤澤亜里紗

 

スカルラッティ:ソナタ ロ短調 K.27/L.449、ト長調 K.427/L.286

ラヴェル:夜のガスパール

ショパン:エチュード イ短調 Op.10-2

 

スカルラッティ、もう少し表情があるといいが、2曲目は元気が良い。

ラヴェル、オンディーヌの右手の和音音型の音抜けが多く不安定。

スカルボは同音連打などやや危ういが全体的にはまずまず。

ショパン、危うい箇所もあれど、なかなか弾けているほう。

 

 

7. 山縣美季

 

ショパン:ノクターン第12番 ト長調 Op.37-2

ショパン:マズルカ ハ長調 Op.24-2

ショパン:エチュード イ短調 Op.10-2

フランク:プレリュード、コラールとフーガ ロ短調 M.21

 

表現がこなれており、ただ弾くだけでなくしっかり解釈して曲の雰囲気を出せている(特にショパンのノクターンとフランク)。

技巧的にずば抜けているというわけではなさそうだが、そこを音楽性でカバーすることができるタイプのピアニストであるよう。

 

 

8. 岸本隆之介

 

ショパン:エチュード ハ長調 Op.10-1

シューマン:ピアノ・ソナタ第3番 ヘ短調 Op.14

 

ショパン、力まず自然体で美しい。

シューマン、こちらも自然ではあるが、左手の扱いなどもう少し繊細さがほしく、終楽章は速いパッセージなどときにやや苦しそう。

 

 

9. 佐藤祐希

 

J.S.バッハ:フランス組曲 第5番 ト長調 BWV816

ショパン:エチュード ロ短調 Op.25-10

デュティユー:ピアノ・ソナタ 第3楽章 「コラールと変奏」

 

全体的にやや固めの直線的な解釈であり、バッハではもっと柔軟性がほしいが、それでもブーレやジーグなど鮮やかだし、ショパンもまずまず、デュティユーではストレートな解釈が曲に合っている。

 

 

10. 森本隼太

 

J.S.バッハ:平均律クラヴィーア曲集第1巻 第20番 イ短調 BWV865

ショパン:エチュード イ短調 Op.25-4

ショパン:ノクターン第3番 ロ長調 Op.9-3

プロコフィエフ:ピアノ・ソナタ第7番 変ロ長調 Op.83 「戦争ソナタ」

 

タッチに余裕があり、安心して聴ける。

抒情性も豊かに備え、技巧と音楽性とのバランスが良い。

完成度が高い分ややおとなしいというか、「攻め」の姿勢には乏しい面もあるかもしれないが、それでも有力な優勝候補の一人だろう。

 

 

11. 尾城杏奈

 

スカルラッティ:ソナタ ヘ短調 K.466/L.118

ショパン:エチュード 嬰ト短調 Op.25-6

シューマン:謝肉祭 ~4つの音符による面白い情景~ Op.9

 

スカルラッティ、音が美しく、曲の憂愁がよく出ている。

ショパンも、この難曲にしては弾けているほう。

シューマンもよくまとまっているが、この曲はもう少し華が欲しいか。

 

 

12. 辻本莉果子

 

ショパン:エチュード ハ短調 Op.25-12 「大洋」

スカルラッティ:ソナタ ホ長調 K.380/L.23

ショパン:ピアノ・ソナタ 第2番 変ロ短調 op.35 「葬送」

 

スカルラッティでは軽快さが、ショパンではダイナミズムやロマンティシズムがよく表されている。

ただ、テンポや音量が全体的におとなしめではあり、もう少し攻めてくれるとなお良かったか(特に第2楽章)。

 

 

13. 五条玲緒

 

J.S.バッハ:イタリア風アリアと変奏曲 イ短調 BWV989

ショパン:エチュード ロ短調 Op.25-10

プロコフィエフ:ピアノ・ソナタ第7番 変ロ長調 Op.83 「戦争ソナタ」

 

芯のある打鍵で、コンチェルトにも映えそうな良い音が出ている。

プロコフィエフの両端楽章などでの「攻め」の姿勢も良い。

その分、テンポ感や打鍵に少しムラはあるが、曲にうまくはまれば上位に行くかも。

 

 

 

 

 

第2日

 

14. 三原有紀

 

J.S.バッハ:トッカータ ハ短調 BWV911

ショパン:エチュード ホ短調 Op.25-5

スクリャービン:ピアノ・ソナタ 第10番 Op.70

 

独特のロマン的な雰囲気、音楽的センスを持つ。

繊細かつダイナミックな表現でスクリャービンの難解な後期ソナタも飽きさせず、少なくとも3次には行くだろうと思ったが、落選してしまった。

 

 

15. 藤平実来

 

J.S.バッハ:パルティータ 第3番 イ短調 BWV827

ショパン:エチュード 嬰ハ短調 Op.10-4

ラヴェル:「鏡」 より 「蛾」「道化師の朝の歌」

 

バッハやショパン、落ち着いてはいるがもう少し表情がほしい。

ラヴェルは良い雰囲気。

「道化師の朝の歌」の同音連打もごまかしは少ないほう。

 

 

16. 髙井玄樹

 

シュニトケ:前奏曲とフーガ

ショパン:エチュード ホ短調 Op.25-5

シューマン:交響的練習曲 Op.13

 

シュニトケは不気味が曲調がよく出せている。

ショパンやシューマンは、緩徐部分は表現力があるが、急速部分は少しもっさりしている。

 

 

17. 荒石果穂

 

ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ 第3番 ハ長調 Op.2-3 より 第1楽章

ショパン:エチュード イ短調 Op.25-11 「木枯らし」

シェーンベルク:ピアノ曲 Op.33a

ラヴェル:夜のガスパール より 「スカルボ」

 

ベートーヴェンにショパンにシェーンベルク、よく弾けているがもう少し際立った個性があると良いか。

ラヴェルは、同音連打のもつれなど技巧的な苦しさが出てしまった。

 

 

18. 三上結衣

 

ソレール:ソナタ第21番 嬰ハ短調、ソナタ第88番 変ニ長調

ファリャ:「恋は魔術師」 より 「恐怖の踊り」

ショパン:エチュード 嬰ト短調 Op.25-6

リスト:スペイン狂詩曲 S.254

 

タッチがくっきりしており、音楽が引き締まっている。

ショパンの難曲エチュードも比較的スムーズに弾けている。

リストも、オクターヴ左右交互連打など速めのテンポなのになかなかの安定感で、スケールは小ぶりだが力感にも欠けない(右手のトレモロなど一部苦しそうな箇所もあるが)。

 

 

19. 石川美羽

 

ショパン:エチュード ヘ長調 Op.10-8

シューマン:ピアノ・ソナタ 第2番 ト短調 Op.22

ラヴェル:ラ・ヴァルス

 

全体的によくまとまっているが、シューマンでの焦燥感やラヴェルでの退廃的な空気など、もう少し曲への切り込みがあると良いか。

 

 

20. 村上智則

 

J.S.バッハ:半音階的幻想曲とフーガ ニ短調 BWV903

ショパン:エチュード 嬰ト短調 Op.25-6

ベッリーニ=リスト:「ノルマ」の回想 S.394

 

バッハは落ち着いた味があって良い。

ショパンとリストはテクニック的に苦しそう(通常よりもだいぶ加速して煽った後の「戦争だ!」の部分も苦しく、加速が活きてこない)。

 

 

21. 谷昂登

 

J.S.バッハ:平均律クラヴィーア曲集第1巻 第22番 変ロ短調 BWV867

ショパン:エチュード ヘ長調 Op.10-8

ストラヴィンスキー:ペトルーシュカからの3楽章

 

ロシアを思わせる深い打鍵を持つ。

デュナーミクやアゴーギクが独特で、クセが強いが面白い。

異様なキレをみせる部分と、粗削りな部分とが混在している。

完成度に難はあるが、原石かもしれない。

曲との相性次第では上位もありうるか。

 

 

22. 間世田采伽

 

J.S.バッハ:トッカータ ホ短調 BWV914

ショパン:エチュード 嬰ハ短調 Op.10-4

シューマン:謝肉祭 ~4つの音符による面白い情景~ Op.9

 

よく弾けているのだが、何かもうワンポイント光る個性が欲しいか。

シューマンなど、第1日の尾城杏奈に引けを取らないくらいには弾けているのだが。

 

 

23. 和泉貴子

 

スカルラッティ:ソナタ ニ短調 K.9/L.413

ショパン:エチュード ヘ長調 Op.10-8

ラヴェル:「鏡」 より 「悲しい鳥たち」「道化師の朝の歌」

リスト:巡礼の年 第2年 イタリア S.161 より 「ダンテを読んで ~ソナタ風幻想曲~」

 

「悲しい鳥たち」やダンテソナタ緩徐部分での自然な表現力がある。

ただ、「道化師の朝の歌」の同音連打はあまり安定せず、ダンテソナタも少し瑕が目立つ印象で、技巧的な安定性がもう少しあると良いか。

 

 

24. 嘉屋翔太

 

ヘンデル:組曲 変ロ長調 HWV434

ベッリーニ=リスト:「ノルマ」の回想 S.394

ショパン:エチュード 変イ長調 Op.10-10

スクリャービン:ピアノ・ソナタ 第4番 嬰ヘ長調 op.30

 

クセがありごつごつしているが、パワフルで充実した音楽づくり。

テクニックもなかなかのもので、「ノルマの回想」やショパンエチュード、スクリャービンの第2楽章でも技巧的不足をあまり感じない。

もう少し聴きたかったが落選してしまった。

 

 

 

 

 

なお、結果については先日の記事(その記事はこちら)を参照されたい。

 

 


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