東京で開催されている、2020年ピティナピアノコンペティション(公式サイトはこちら)。
8月6日は、特級の3次予選。
結果については先日の記事に書いたが、本日8月8日にその演奏動画がネット配信された(こちら)ため、各演奏のごく簡単な感想を追記したい。
ちなみに、2020年ピティナピアノコンペティション特級についてのこれまでの記事はこちら。
(2020年ピティナ・ピアノコンペティション特級 3次予選通過者発表)
1. 生熊茜
ラフマニノフ:ピアノ協奏曲 第2番 ハ短調 第1楽章
ドラマ性と技術的安定性とのバランスの良い演奏。
展開部から再現部にかけてのクライマックスもしっかり盛り上げる。
2次よりも印象が良くなった。
2. 藤澤亜里紗
ラヴェル:ピアノ協奏曲 ト長調 第1、3楽章
ラヴェルらしい洒落た雰囲気が出ている。
第1楽章展開部の左右交互同音連打や終楽章冒頭の左右交互トレモロなどがもっとスムーズだとなお良かったが。
3. 山縣美季
ショパン:ピアノ協奏曲 第2番 ヘ短調 第1楽章
彼女ならではの音楽性がよく表れている。
超絶技巧で攻めるのではなく、まず先に音楽があるイメージ。
協奏曲らしい派手さはないが、そのぶん清潔なロマン性がある。
4. 岸本隆之介
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲 第5番 変ホ長調 「皇帝」 第1楽章
ベートーヴェンらしい自然な力感が出ている。
ただ、細かなミスやタッチのぐらつきがちょこちょこあるのが難点。
また、テンポの揺れが多いが、この曲の様式には合わない気がする。
5. 森本隼太
ラフマニノフ:ピアノ協奏曲 第3番 ニ短調 第1楽章
安定したタッチを持ち、情感も豊か。
大きなスケール感というよりは繊細な演奏だが、カデンツァなど思った以上に情熱的で、その対比がなかなか効果的。
カデンツァの後に暗譜飛びがありどきっとしたが、どうにか切り抜けた。
6. 尾城杏奈
ラフマニノフ:ピアノ協奏曲 第3番 ニ短調 第1楽章
一つ前の演奏と同じくしっかり弾けているが、迫力という点では一歩譲る。
男性が出すような大きな音量が欲しいというよりも、この曲らしい暗く情熱的なロマン性があると良いのだが(例えばこちらのように)。
7. 五条玲緒
ラフマニノフ:ピアノ協奏曲 第2番 ハ短調 第1楽章
力強く充実した音が出ており、この曲らしい情熱も感じられる。
ただ、急速なパッセージでのタッチのムラがところどころある。
また、終盤で痛い暗譜飛びがあり、その焦りを最後まで引っ張ってしまった感がある(終演後に悔しそうに顔を覆っており可哀想)。
8. 三上結衣
プロコフィエフ:ピアノ協奏曲 第3番 ハ長調 第1楽章
2次同様タッチの明瞭さが印象的で、プロコフィエフに合っている。
よく弾き込まれており、完成度も高い。
ただ、例えば再現部直前やコーダの無窮動風パッセージではさらなるキレが欲しいところ。
9. 村上智則
チャイコフスキー:ピアノ協奏曲 第1番 変ロ短調 第1楽章
協奏曲にふさわしい力強い音が聴かれる。
ただ、左右交互トレモロにムラがあるなど、技術的には苦しさがある。
10. 谷昂登
ラフマニノフ:ピアノ協奏曲 第3番 ニ短調 第1楽章
迫力あるロシア風の打鍵、個性的なフレージング。
フレーズの初めを大きな音から入り、徐々にディミヌエンド(小さく)していく手法が何ともロシア風、それもホロヴィッツ風(その記事はこちら)。
粗削りなところもあるが、2次ほどは気にならなかった。
クセは強めだが、特に協奏曲ではこれくらいのほうが映えるかも。
なお、結果については先日の記事(その記事はこちら)を参照されたい。
今回は協奏曲だからか皆あまり差が付かず一長一短の印象であり、結果はまずまず妥当か。
そんな中、森本隼太と谷昂登は頭一つ抜けていた気がする。
ファイナルでは3次と同じ曲を弾くため(ただし第1楽章だけでなく全曲だが)、今回良かったこの2人は優勝に近そう。
緻密さの森本隼太、大胆さの谷昂登、といったところか。
ただし、その前にセミファイナルを通過する必要がある。
セミファイナルは8月18日(火)に予定されている。
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