1日目 びわ湖ホールプロデュースオペラ 京都市交響楽団 沼尻竜典 ヴァーグナー 「神々の黄昏」 | 音と言葉と音楽家  ~クラシック音楽コンサート鑑賞記 in 関西~

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クラシック音楽の鑑賞日記や雑記です。
“たまにしか書かないけど日記”というタイトルでしたが、最近毎日のように書いているので変更しました。
敬愛する音楽評論家ロベルト・シューマン、ヴィルヘルム・フルトヴェングラー、吉田秀和の著作や翻訳に因んで名付けています。

びわ湖ホールプロデュースオペラ

ワーグナー作曲 《ニーベルングの指輪》 第3日 『神々の黄昏』(ドイツ語上演・日本語字幕付) <新制作>

1日目

※無観客公演、ライブストリーミング配信

 

【日時】

2020年3月7日(土) 開演 13:00

 

【会場】

びわ湖ホール 大ホール (滋賀)

 

【スタッフ&キャスト】

指揮:沼尻竜典 (びわ湖ホール芸術監督)

演出:ミヒャエル・ハンペ

美術・衣裳:ヘニング・フォン・ギールケ

照明:齋藤茂男

音響:小野隆浩 (びわ湖ホール)

演出補:伊香修吾

舞台監督:幸泉浩司

 

ジークフリート:クリスティアン・フランツ

ブリュンヒルデ:ステファニー・ミュター

アルベリヒ:志村文彦

グンター:石野繁生

ハーゲン:妻屋秀和

グートルーネ:安藤赴美子

ワルトラウテ:谷口睦美

ヴォークリンデ:吉川日奈子

ヴェルグンデ:杉山由紀

フロスヒルデ:小林紗季子

第一のノルン:竹本節子

第二のノルン:金子美香

第三のノルン:髙橋絵理

 

管弦楽:京都市交響楽団

合唱:びわ湖ホール声楽アンサンブル、新国立劇場合唱団

 

【プログラム】

ヴァーグナー:「神々の黄昏」

 

 

 

 

 

びわ湖ホールで3年前から毎年行われている、ヴァーグナー「ニーベルングの指環」シリーズ。

四部作を一年に一作ずつ、計4年かけて演奏される。

今年は「神々の黄昏」だった。

演出はミヒャエル・ハンペ、指揮は沼尻竜典、管弦楽は京都市交響楽団。

 

 

しかし、新型コロナウイルス感染拡大防止のために当公演は中止となってしまった。

代わりに、下記のリブログ元の記事に書いたように、関係者の尽力により無観客公演が行われ、公演の様子が無料ライブストリーミング配信されることとなった。

何とも画期的な対処である。

私は2日目公演(3月8日)のチケットを入手していたのだが、ストリーミング配信のおかげで1日目公演(3月7日)も視聴可能となった。

配役が異なるため、両方聴けるのは何ともありがたい。

ここでは、1日目公演(3月7日)の感想を書きたい。

 

 

ヴァーグナーの「神々の黄昏」で私の好きな録音は

 

●フルトヴェングラー指揮 ロンドン・フィル 1937年6月1日ロンドンライヴ盤(NMLApple Music) ※抜粋

●フルトヴェングラー指揮 フィルハーモニア管 1948年3月26日セッション盤(CD) ※自己犠牲のみ

●フルトヴェングラー指揮ローマRAI響 1953年11月20,24,27日ローマ放送ライヴ盤(CD

●ブーレーズ指揮バイロイト祝祭管 1980年6,7月バイロイトライヴ盤(DVD。音のみならNMLApple Music

●ヤング指揮ハンブルク州立歌劇場管 2010年10月12,14,17,21日ハンブルクライヴ盤(NMLApple MusicCD

 

あたりである。

途方もなく壮大で悲劇的な物語を、この上なくドラマティックに描いたフルトヴェングラー。

そうしたドラマ性や物々しさを極力排し、ヴァーグナーの円熟した和声進行をクリアに表現したブーレーズ。

ドイツ的重厚さと現代的洗練とを兼ね備えた、自然体でバランスの良いヤング。

三者三様だが、いずれもそれぞれの時代を代表する名盤である。

(余談だが、フルトヴェングラーはローマRAI響1953年盤だけで全曲完結しているものの、夜明けからラインの旅まではロンドン・フィル1937年盤が、自己犠牲はフィルハーモニア管1948年盤があまりにも素晴らしい伝説的名演であるため、抜粋ながらこれらも挙げておいた。)

 

 

今回の沼尻竜典&京響の演奏は、これまでの公演から予期した通り、上記の3盤の中ではブーレーズ盤に最も近いものだった(ブーレーズ盤よりは少し優しく控えめな感じだが)。

もちろん、ストリーミング配信の音質での鑑賞には限界もあるし、ポコポコといった雑音も聴こえたけれど、それでもなかなか悪くない音質だった(プロンプターの声が目立っていたのはご愛敬)。

沼尻竜典のヴァーグナー解釈は決して重々しくなく、むしろ透明感にあふれたものである。

重厚でないヴァーグナーなんて満足できないという向きもあるだろうが、むしろ私はやたらと重いヴァーグナー演奏には閉口してしまう(フルトヴェングラーくらいの壮絶さがあれば良いのだが)。

 

 

ヴァーグナーは、革新的な和声進行を使用した人である。

指環4部作の中で唯一「トリスタンとイゾルデ」以後に書かれたこの「神々の黄昏」には、それまでの第1~3部からさらに一歩も二歩も進んだ、不安に満ちた禍々しいとも言うべき斬新かつ効果的な和声進行がみられる。

プロローグでのノルンの歌しかり、第2幕での兵士の合唱しかり。

こうした禍々しくも美しいヴァーグナーの和声進行を、沼尻竜典はクリアに浮き立たせ味わわせてくれる。

弦や管の何ともいえない透明な響き(例えばプロローグでのヴァイオリンや、第1幕間奏でのクラリネットの扱いの美しさなど印象的)。

この曲の前衛性、未来指向性をしっかりと引き出すセンスが見事である。

3年前に東京・春・音楽祭で聴いたヤノフスキ&N響の力強いがややあっさりしすぎた演奏や(その記事はこちら)、ティーレマンのようなやたらと物々しく肥大しすぎた演奏よりも、私は好きである。

 

 

歌手について。

ジークフリート役のクリスティアン・フランツ、ブリュンヒルデ役のステファニー・ミュターともに、声量の大きさはなかなかのものだが叫びがちで、高音が荒れやすく聴き疲れする。

とはいえ、フランツは上記ヤング盤でも歌っている、現代を代表するヘルデンテノールの一人ではあるのだし、上記ブーレーズ盤でのマンフレート・ユングもどっこいどっこいといったところ。

ブリュンヒルデのほうも同様。

フルトヴェングラー盤におけるメルヒオールやズートハウス、フラグスタートやメードルといった名ヴァーグナー歌手たちは、もういない。

現代では一定の声量のあるヘルデンテノール、ヴァーグナー・ソプラノ自体なかなかいないので、贅沢は言うまい。

ギービヒ家の3人(石野繁生、妻屋秀和、安藤赴美子)は、比較的丁寧さがあり、なかなか良かったように思う。

2日目公演(3月8日)の配役も楽しみである。

 

 

演出については、2日目で初めて観る人もいるだろうから、今回は書かないでおく。

それにしても、このオペラが配信された約6時間のあいだ、ずっと11500人ほどの視聴があり、当公演の注目度の高さに驚かされる。

急遽決定した配信であるため字幕がないが、その分ツイッターで解説をつぶやく人がいるなどネット上でも盛り上がり、「#びわ湖リング」がトレンドにも上がったとのこと。

今回を機に、新しいオペラ公演の在り方が生まれるのかもしれない。

 

 

なお、2日目公演は3月8日の13時から。

 

動画はこちら

 

 

 

(画像はこちらのページよりお借りしました)

 


 

 


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