ヴァーグナー聖地を巡るスイスの旅2 ルツェルン | 音と言葉と音楽家  ~クラシック音楽コンサート鑑賞記 in 関西~

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クラシック音楽の鑑賞日記や雑記です。
“たまにしか書かないけど日記”というタイトルでしたが、最近毎日のように書いているので変更しました。
敬愛する音楽評論家ロベルト・シューマン、ヴィルヘルム・フルトヴェングラー、吉田秀和の著作や翻訳に因んで名付けています。

今回、ルツェルン音楽祭(その記事はこちらこちら)に行ったついでに、観光もした。

見て回ったのは、作曲家リヒャルト・ヴァーグナーゆかりの街、チューリヒとルツェルン。

前回記事のチューリヒ観光(その記事はこちら)に引き続き、当記事ではルツェルン観光について書きたい。

 

 

 

 

 

【スイスのヴァーグナー聖地4:ホテル・シュヴァイツァーホフ】

 

 

 

ヴェーゼンドンク夫人との禁断の愛が発覚し、チューリヒにいられなくなってヴェネツィアへと移ったヴァーグナーは、その地で「トリスタンとイゾルデ」第2幕を書いた後、ルツェルンへとやってきた。

1859年3月29日(45歳)のことである。

そのときに滞在し、「トリスタンとイゾルデ」完成に精を出したのが、このホテル・シュヴァイツァーホフ。

フィアヴァルトシュテッター湖のほとりの美しいホテルである。

なお、上側の写真の右手に見える2本の塔は、735年頃に創建、1644年にルネサンス様式で再建されたホーフ教会。

 

 

 

フィアヴァルトシュテッター湖。

奥のほうに、ホテル・シュヴァイツァーホフが見える。

湖には、「ローエングリン」に出てきそうな白鳥も。

 

 

ヴァーグナーは、このホテルで1859年8月6日に「トリスタンとイゾルデ」第3幕を書き上げ、全曲を完成させた。

この音楽史上稀にみる記念碑的作品をついに完成させた彼は、思わず「リヒャルト、お前は悪魔の申し子だ!」と叫んだという。

 

 

その後、彼は1859年9月7日(46歳)にルツェルンを発ち、パリやウィーンに移転したが、1864年に突然バイエルン王ルートヴィヒ2世に見出され、ミュンヘンに入る。

最強のパトロンを得たヴァーグナーだったが、反対勢力も多く、また指揮者ハンス・フォン・ビューローの妻コジマとのスキャンダルもあってミュンヘンに居づらくなり、1866年(52歳)に再びルツェルンへ。

 

 

 

 

 

【スイスのヴァーグナー聖地5:トリープシェンの家】

 

 

 

再びルツェルンに来たヴァーグナーは、ルツェルン郊外のトリプシェンという岬の家が気に入り、ここを借りることにした(彼は「トリプシェン」を"Trieb"(追放)とかけて「トリープシェン」と呼んだ)。

彼は、1866年4月15日からバイロイトに移る1872年4月22日までの約6年間(52~58歳)を、この家で過ごした。

まもなくコジマ(当時28歳)や子供たちも合流(その後コジマはビューローと離婚しヴァーグナーと再婚)。

この家で、「ニュルンベルクのマイスタージンガー」、ジークフリート牧歌、「ジークフリート」第3幕、および「神々の黄昏」の草稿といった円熟期の傑作が次々と作曲された。

現在、この家はリヒャルト・ヴァーグナー博物館となり、ヴァーグナー関連のものが色々と展示されている。

 

 

 

1867年、ヴァーグナーが住んでいた頃の、トリープシェンの家の写真。

今も当時の風景とほとんど変わっていないことが分かる。

 

 

 

コジマとリヒャルト・ヴァーグナーの有名な写真(1872年)。

 

 

 

「ニュルンベルクのマイスタージンガー」第1幕のスケッチ(1866年)。

 

 

 

 

1858年にピエール・エラールの未亡人から贈られた、エラールのピアノ。

ヴァーグナーは、このピアノをヴェネツィア、ルツェルンのホテル・シュヴァイツァーホフ、パリ、ウィーン、ミュンヘン、トリプシェン、そしてバイロイトと長年にわたって愛用した。

 

 

 

リヒャルト・ヴァーグナーの胸像(1880年頃)。

 

 

 

コジマ・ヴァーグナーの胸像(1873年)。

 

 

 

マティルデ・ヴェーゼンドンクの胸像(1860年)もなぜかここにある。

 

 

 

名指揮者アルトゥーロ・トスカニーニの像。

かつてヴァーグナーは、1870年12月25日のコジマの誕生日に、この写真の鏡に映っている階段に室内オーケストラを用意し、サプライズで作曲したてのジークフリート牧歌の演奏を贈った。

これにちなんで、トスカニーニは1939年8月27日、第2回ルツェルン音楽祭の特別企画として、ヴァーグナーの娘たちなど何人かの客をこのトリープシェンの家に招待し、同じようにこの階段に室内オーケストラを配してジークフリート牧歌を演奏したのだった。

そのことを記念した像だろう。

 

 

 

トリープシェンの家の傍らに置かれたヴァーグナーの像。

 

 

 

トリープシェンの風景。

こんなところで暮らせたらどんなに良いだろう。

この景色を日々見ながら、ヴァーグナーは中世ドイツや神話世界の物語を空想し、曲を書いたのである。

 

 

 

 

 

【番外編】

 

 

 

 

ルツェルン・カルチャー・コングレスセンター(KKL)。

言わずと知れた、ルツェルン音楽祭のコンサート会場である。

ルツェルン音楽祭は、このホールの前身のクンストハウスで、1938年より始まった。

第1回音楽祭で指揮者トスカニーニは、スイス各地のオーケストラから精鋭を集めたのみならず、有名なブッシュ弦楽四重奏団のメンバーを各パートのトップに配した豪華な祝祭オーケストラを振って、ブラームスの交響曲第3番やメンデルスゾーンの「イタリア」、ヴァーグナーの「マイスタージンガー」第1幕前奏曲などを演奏した。

その2日後には、ワルターが同オーケストラを振ってヴァーグナーの「タンホイザー」序曲とバッカナール、「トリスタン」第1幕前奏曲と愛の死、シューベルトの「グレイト」などを演奏した。

すごい音楽祭である。

 

 

その後、当時人気を二分した指揮者であるトスカニーニ(1938、1939、1946年)とフルトヴェングラー(1944、1947~1951、1953、1954年)がこの音楽祭に出演して、各年の目玉指揮者として活躍した。

トスカニーニはいずれの年の録音も(全てではないが)残っており、またフルトヴェングラーは1947、1953、1954年の録音が残っている(1951年はリハーサル録音のみ現存)。

特に、フルトヴェングラーの1947年のブラームス交響曲第1番(ルツェルン祝祭管)と、1954年のベートーヴェン交響曲第9番(フィルハーモニア管、いわゆる「ルツェルンの第9」)は、ともに同曲のあらゆる録音の中でも最高峰の名演に数えられる。

 

 

この後も、カラヤンやアバドら各時代のトップに君臨する名指揮者たちが、ルツェルン音楽祭の目玉指揮者として活躍した。

カラヤンのこの音楽祭での録音としては、1955年のベートーヴェンの交響曲第7番ほか(ルツェルン祝祭管)や、1978年のストラヴィンスキーの「春の祭典」(ベルリン・フィル)が残っている。

1998年には現在のKKLの建物が完成し、アバドがベルリン・フィルを振ってこけら落とし公演を開催。

2003年にはアバドのもとルツェルン祝祭管弦楽団がリニューアルされ、マーラー室内管の団員を中心に、ベルリン・フィルの団員やザビーネ・マイヤー、カピュソン兄弟やグートマン、ハーゲン弦楽四重奏団のメンバーらが参加した、第1回音楽祭へのオマージュともいうべき大変豪華な祝祭オーケストラとなった。

このときにアバドの指揮で演奏されたマーラーの「復活」の録音や映像は発売されている(幸運なことに、この後もアバド指揮ルツェルン祝祭管の公演はいくつも録音・録画された)。

 

 

このアバドによる「復活」は、ルツェルン音楽祭の閉幕コンサートだったとのこと。

そして、今年の音楽祭の閉幕コンサートは、私の聴いたクルレンツィス指揮ムジカエテルナによるモーツァルトのオペラであった。

現在のルツェルン音楽祭の目玉指揮者はクルレンツィスである、と言ってもいいのかもしれない。

ザルツブルク音楽祭にもルツェルン音楽祭にも引っ張りだこの彼は、まるでかつてのフルトヴェングラーのよう。

クルレンツィスの「ドン・ジョヴァンニ」「コジ」を幸運にも聴くことができた私は、「ルツェルンの第9」を生で聴いたようなものだろうか。

 

 

 

ルツェルン旧市街の街並み

 

 

 

ルツェルンを流れるロイス川の風景

 

 

 

1333年に完成したヨーロッパ最古の木造の橋、カペル橋

 

 

 

1400年に完成したスイス最長の城壁、ムーゼック城壁

 

 

 

夜のルツェルン

 

 

 

朝のルツェルン

 

 

 

昼のルツェルン

 

 

 

夕暮れのルツェルン

 

 

ルツェルンはチューリヒと同様に歴史ある街だが、もう少しこじんまりしていてのどかである。

チューリヒを京都とすると、ルツェルンは奈良のようなものか。

本当に美しい街で、ぜひまた訪れたいものである。

 

 

なお、ルツェルンの近くには、ラフマニノフが1931~1942年(58~69歳頃)に過ごしたセナールと呼ばれる別荘もあるという。

いつか訪れてみたい。

 

 


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