今回は演奏会の感想ではなく、別の話題を。
好きなピアニスト、クレア・フアンチ(Claire Huangci)がラフマニノフの前奏曲全集を新たに録音した旨を、以前の記事に書いた(その記事はこちら)。
彼女のこれまでのピアノ・ソロの録音としては、
1stアルバム:チャイコフスキーの「眠れる森の美女」
2ndアルバム:スカルラッティのソナタ集
3rdアルバム:ショパンのノクターン全集
がリリースされており、今回のラフマニノフは4thアルバムということになる(Apple Music/CD)。
HMVのサイトによる新譜の発売日は2018年10月20日であり、まだ発売前だが、Apple Musicではもうすでに聴けるようになっている。
新譜についての詳細は以下の通り。
クレア・フアンチ/ラフマニノフ:前奏曲集
【収録情報】
ラフマニノフ:
● 前奏曲 嬰ハ短調 Op.3-2
● 10の前奏曲 Op.23
● 13の前奏曲 Op.32
クレア・フアンチ(ピアノ)
録音時期:2017年
録音方式:ステレオ(デジタル)
以上、HMVのサイトより引用した(引用元のページはこちら)。
ラフマニノフの前奏曲全集というと、私はルガンスキー盤が好きである。
力強いけれども力むことのない深々とした音が、ラフマニノフにふさわしい。
それに比べると、フアンチの音はやや硬質であり、いかにもラフマニノフらしい音というわけではない。
しかし、ここでのフアンチの演奏の、なんと素晴らしいことだろう!
ペダルを響かせすぎない、カラッと陽気な味わいがあり、かつ随所に音楽的センスが光っている。
と同時に、技巧的にきわめて優れており、ごまかしが一切ない。
これを聴くと、技巧性と音楽性は互いに切っても切れない関係にある、ということがよく分かる。
例えばop.23-1やop.23-4、op.23-6、op.32-5といった曲で、右手の主要主題の美しさはもちろんのこと、左手の細かな伴奏音型の高度の安定感と豊かな歌!
技巧性と音楽性とが共に最高度でないと、こうは弾けまい。
左手がよく歌う、というとアンドラーシュ・シフが代表格だけれど、フアンチの場合はシフよりもロマン的な歌わせ方である。
それでいて、その明晰性や繊細さは決してシフにも劣らない。
ただ、特に急速な曲では、彼女のライヴでの演奏に比べるとわずかにおとなしい。
例えば、op.32-6。
この曲は、彼女自身の演奏による、2013年クライバーンコンクール予選時のライヴ録音が残されている(NML)。
このライヴでの演奏時間が1分11秒、そして今回の全集中の録音が1分21秒。
たった10秒の差だけれど、ここでの表現の違いは大きい。
このライヴ盤で聴かれる独特のキレ、ジャズで言うところの「スウィング」のようなものは、今回のセッション盤にはない。
ライヴ盤のようなスリリングな演奏は、聴衆を前にアドレナリン全開で弾いて初めて可能となる、ということか。
こうなると、来年3月の彼女の来日リサイタル、ますます行きたくなってしまう(それについての記事はこちら)。
ともあれ、十分すぎるほど素晴らしいアルバムである。
ぜひお勧めしたく思う。
(画像はこちらのページからお借りしました)
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