大阪クラシック ~街にあふれる音楽~ 第38公演
【日時】
2018年9月12日(水) 開演 12:30
【会場】
大阪市中央公会堂 中集会室
【演奏】
リコーダー:秋山滋
チェンバロ:秋山麻子
フルート:田中玲奈
ヴァイオリン:神﨑悠実、藤木愛
ヴィオラ:佐藤まり子
チェロ:庄司拓
コントラバス:山田俊介
【プログラム】
J.S.バッハ:チェンバロ協奏曲 第6番 ヘ長調 BWV1057
テレマン:リコーダーとフルート、弦楽と通奏低音のための協奏曲 ホ短調 TWV52:e1
※アンコール
テレマン:2つのリコーダー、弦楽と通奏低音のための協奏曲 イ短調 TWV52:a2 より 第4楽章
ヴィヴァルディ:ヴァイオリン協奏曲 ト短調 RV315 「夏」 より 第3楽章 (リコーダーとフルート用編曲版)
「大阪クラシック」という音楽祭については、以前の記事にも書いた(その記事はこちら)。
現在絶賛開催中なのだが、今週は少しばたばたして、今年も聴きに行くのは無理かな、と思っていた。
しかし、好きなフルート奏者、田中玲奈(大フィルのフルート奏者)の演奏をどうしても聴きに行きたくて、どうにか一つだけ行ったのがこのコンサートである。
大阪市中央公会堂という、レトロな雰囲気の会場。
前半の曲は、バッハのチェンバロ協奏曲第6番。
ブランデンブルク協奏曲第4番のヴァイオリン・パートをチェンバロに書き換えたもので、個人的にバッハのチェンバロ協奏曲の中でも1、2を争うほど好きな曲である。
この曲(のチェンバロ版)で私の好きな録音は、
●ブリュッヘン/ウィンゲルデン(Bf) レオンハルト(Cemb) レオンハルト・コンソート 1967年セッション盤(CD)
あたりである。
伝説のチェンバロ奏者レオンハルトと、伝説のブロックフレーテ奏者ブリュッヘンによる、2人ともまだ若々しかった頃の歴史的名盤。
この録音のように、通常は2つのブロックフレーテ(リコーダー)と1台のチェンバロがソロ楽器なのだが、今回の演奏会では1つのリコーダー、1つのフルート、1台のチェンバロとなっている。
田中玲奈、実にうまい。
洗練の極みである。
おそらく第2パートを吹いていたと思うが、つい耳をそばだてて聴いてしまった。
ときおり即興的に織り交ぜられる装飾風の音型の、なんと繊細なことか。
リコーダーの秋山滋は、それに比べると素朴な感じの演奏だが、そちらも悪くなかったし、他の奏者たちも皆よかった。
何といっても、曲が最高に良い。
涙が出るほど心の浮き立つ曲である。
後半の曲は、テレマンの「リコーダーとフルートのための協奏曲」。
この曲で私の好きな録音は、
●ブリュッヘン(Bf) フェスター(Fl) リュウ指揮アムステルダム室内管 1970年頃セッション盤(NML/Apple Music/CD)
あたりである。
またブリュッヘンか、と言われそうだが、彼の吹くブロックフレーテの音色には、他の奏者とは全く違う存在感がある。
しかし、今回の演奏会も、この録音に負けず劣らず素晴らしかった。
先ほどのバッハほど好きな曲ではないけれど、2つのリコーダーのための曲であるバッハと違って、もともとリコーダーとフルートのための曲であり(つまり原曲通りの編成)、そのためか各楽器がソリスティックにうまく対比されるよう書かれていて、田中玲奈の至芸を聴くにはうってつけだった。
本当に、驚くほどうまい。
フレーズのつくりが実に丁寧で、全くムラがない。
縫い目のない良質なシルクのような滑らかさ。
それが、第4楽章のような技巧的な箇所であっても変わらないのである。
上記録音でフルートを担当しているフェスターも悪くないのだが、田中玲奈と比べると霞んでしまう(彼は古楽器のフラウト・トラヴェルソを使っているので条件は違うけれど)。
そればかりか、昨年11月に実演を聴いたあのパユでさえ、ここまでではなかった(ただし彼には別のすごさがある)。
彼女は、大フィルの至宝といっても過言ではないと思う。
なお、このコンサートには庄司拓と秋山滋によるトークがあったのだが、それによると田中玲奈はクラフトビールが大好き、秋山滋は米の味にうるさい、とのことだった。
また、フルートやリコーダーは飛行機に乗るとき拳銃と間違えられやすく、中身を見せるとフッと笑われる話や、アンコール曲であるヴィヴァルディの「夏」で田中玲奈のために庄司拓がフルート・パートを書いたところ、「これ難しい!」と怒られたのでクラフトビールを奢らなければならない話などがあった。
こういう話のあいだの、田中玲奈のひょうきんなジェスチャーが何とも面白い。
どうやら、ノリの良い人のようである。
こうして最後に演奏されたヴィヴァルディの「夏」では、「これ難しい!」という文句がビールのためだけだったのではと疑われるような、彼女のあまりにも鮮やかな超絶技巧を聴くことができた。
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