すばるショパンフェスティバル ショパンマラソンコンサート | 音と言葉と音楽家  ~クラシック音楽コンサート鑑賞記 in 関西~

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クラシック音楽の鑑賞日記や雑記です。
“たまにしか書かないけど日記”というタイトルでしたが、最近毎日のように書いているので変更しました。
敬愛する音楽評論家ロベルト・シューマン、ヴィルヘルム・フルトヴェングラー、吉田秀和の著作や翻訳に因んで名付けています。

すばるショパンフェスティバル

~ショパンマラソンコンサート~

 

【日時】

2018年1月20日(土) 開演 11:00 (開場 10:30)

 

【会場】

すばるホール 2Fホール (大阪)

 

【演奏・プログラム】(以下全員ピアノ)

・三好朝香

ショパン:スケルツォ 第3番 嬰ハ短調 op.39

ショパン:バラード 第4番 ヘ短調 op.52

 

・三重野奈緒

ショパン:ノクターン 第2番 変ホ長調 op.9-2

ショパン:スケルツォ 第1番 ロ短調 op.20

ショパン:舟歌 嬰ヘ長調 op.60

 

・山﨑亮汰

ショパン:バラード 第2番 ヘ長調 op.38

ショパン:英雄ポロネーズ 変イ長調 op.53

ショパン:12の練習曲 op.25

 

・吉原佳奈

ショパン:12の練習曲 op.10 より 「別れの曲」 「黒鍵」 「革命」

ショパン:アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ 変ホ長調 op.22

 

・太田糸音

ショパン:ワルツ 第1番 変ホ長調 op.18 「華麗なる大円舞曲」

ショパン:スケルツォ 第4番 ホ長調 op.54

ショパン:ピアノ・ソナタ 第2番 変ロ短調 op.35 「葬送」

 

・今野尚美

ショパン:ノクターン 嬰ハ短調 (遺作)

ショパン:バラード 第1番 ト短調 op.23

ショパン:スケルツォ 第2番 変ロ短調 op.31

ショパン:バラード 第3番 変イ長調 op.47

ショパン:幻想曲 ヘ短調 op.49

ショパン:3つのワルツ op.64

 

・水本明莉

ショパン:即興曲 第3番 変ト長調 op.51

ショパン:3つのマズルカ op.56

ショパン:幻想ポロネーズ 変イ長調 op.61

 

・鯛中卓也

ショパン:前奏曲 嬰ハ短調 op.45

ショパン:24の前奏曲 op.28

 

・酒井有彩

ショパン:子守歌 変ニ長調 op.57

ショパン:ピアノ・ソナタ 第3番 ロ短調 op.58

 

 

 

 

 

すばるショパンフェスティバルの、ショパンマラソンコンサートという催しに行ってきた。

何時間にもわたってひたすらショパンの曲を聴き続けるという企画である。

一日でショパンの主だった曲はほとんど網羅されていた。

 

 

まず最初の演奏は、三好朝香。

遅れて行ったため、最初のスケルツォ第3番は聴けなかった。

バラード第4番は、この曲の抒情的な面をよく出した美しい演奏だった。

ただ、この曲の別の側面であるデモーニッシュな、底知れないようなところがもう少し出ればなお良かったか。

また、ちょっと抒情的に過ぎるというか、もう少し全体がぴりっと引き締まった、ピアノ・ソナタ的な演奏のほうが、私としては好みである。

これらの点では、中川真耶加など大変うまい(動画はこちら)。

 

 

次の演奏は、三重野奈緒。

ノクターン第2番、スケルツォ第1番、舟歌。

こちらは先ほどの三好朝香とは逆に、引き締まってはいるのだが、ショパンならではの情感の表現があまり得意でない印象を受けた。

あと、スケルツォ第1番では、細かい走句があまり明瞭でなかった。

ただ、だいぶ手が冷えているような様子であり、本調子ではなかったのかもしれない。

 

 

次の演奏は、山﨑亮汰。

バラード第2番、英雄ポロネーズ、12のエチュードop.25。

ショパンのエチュードop.25を全曲弾くという意欲は買いたい。

しかし、全体に単調になりがちで、もう少し表情豊かに弾いてほしいところ。

テクニック的には、これが弱点といった曲がなく、どのエチュードも同程度のレベルで弾けているのはすごいけれど、逆に驚くほどうまいという曲もなかった(なお、第10番ロ短調で内声をけっこう強調しているのが新鮮ではあった)。

 

 

次の演奏は、吉原佳奈。

昼休憩が思いのほか短く、急いで昼食を摂ったが間に合わず、最初の「別れの曲」「黒鍵」「革命」は聴けなかった。

「アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ」は、アンダンテ・スピアナートでは美しくはあったけれどもっともっと歌ってほしいし(特に副主題の弾き方がやや単調)、華麗なる大ポロネーズではもっとぴちぴち飛び跳ねるような躍動感がほしい。

クレア・フアンチの演奏を聴きすぎているせいかもしれないが(動画はこちら)。

 

 

次の演奏は、太田糸音。

ワルツ第1番、スケルツォ第4番、ソナタ第2番。

彼女は、なかなかうまい。

スケルツォ第4番の速いパッセージでは、山本貴志ほどのきらめく水しぶきのような美しい輝きはなかったけれど(そのときの記事はこちら)、曖昧にならずくっきりと弾けていて、なかなか良かった。

ソナタ第2番では情熱的な表現が聴かれ、なおかつそれがやりすぎにならず、ソナタとしてのバランスを保っていた。

ただ、音色はやや地味な印象。

一音で聴き手を魅了するというタイプではないかもしれない。

 

 

次の演奏は、今野尚美。

ノクターン(遺作)、バラード第1番、スケルツォ第2番、バラード第3番、幻想曲、3つのワルツop.64。

これまでのピアニストたち比べるとベテランのようで、ノクターン(遺作)などなかなか味わい深かった。

しかし、全体的にどうも自由気ままな感がある。

一つのフレーズの途中でもテンポが変わることがよくあり、バラード第1番の第2主題が分厚い和音になって展開される部分だとか、あるいは同曲のコーダなど、ところどころつんのめるような感じになってしまっていた。

また、和音をときどきアルペッジョ風にばらして弾いているのも気になった(スケルツォ第2番の中間部など)。

こういったやり方は、いわゆる「巨匠」に多いように思われる。

自由な即興風の味があって良いという人もいるだろうが、私はもっと全体を見渡した上できっちりとまとめ上げる緊密な演奏のほうが好きである。

とはいえ、バラード第3番の第2主題(舟の上でたゆたうようなメロディ)や、幻想曲の中間部など、穏やかな箇所で美しく情感を込めて表現できるのはさすがだった。

 

 

次の演奏は、水本明莉。

即興曲第3番、3つのマズルカop.56、幻想ポロネーズ。

悪くはないのだが、表現がいま一つこなれていない感じがする。

もう少し情感の豊かさがほしいところ。

3つのマズルカop.56は、ケイト・リウの陶酔的な美しい演奏が印象に残っている(動画はこちら)。

これは少しやりすぎかもしれず、ここまでやってくれとは言わないけれど、にしてもショパンではこうした情緒的な味がどうしてもほしい。

 

 

次の演奏は、鯛中卓也。

前奏曲op.45と、24の前奏曲op.28。

これは、素晴らしかった!

最初の前奏曲op.45こそ、小林愛実ほどの美しさを感じなかったけれど(動画はこちら)、次の24の前奏曲は驚くほど良かった。

これまで私はこの「24の前奏曲」が、嫌いというわけではないのだが、他の曲に比べると好きになりきれないでいた。

こういう細切れの寄せ集めのような曲集は、シューマンにやらせると素晴らしい「詩集」になるけれど、ショパンにはあまり向かない、と考えていた。

それでもこの曲集で比較的好きな演奏はあって、ポリーニ盤やチョ・ソンジン盤なのだが、これらはどちらかというと正統派の、端正な演奏であった。

ところが、今回の鯛中卓也の演奏は、これらとは全然違う。

非常に個性的なのである。

第2番のもぞもぞ動く左手の動きをかなりの弱音で弾いたり、第3番の右手のメロディラインの強弱を極端に変化させたり。

いわゆる「変わった演奏」なのだが、奇を衒ったというよりは、それぞれの曲固有の「詩情」を汲み取った結果なのだ、と思わせるような説得力があった。

あまりにも有名な、短くシンプルな第7番のような曲でも、彼が弾くとなんとも味わい深く、繊細な音楽となる。

同じく有名な第15番「雨だれ」も実に美しくポエティックで、殊に中間部などペダルの使い方が絶妙、低音部の哀しい旋律が美しい響きで興っては消えていく。

この中間部を聴いていると、マジョルカ島の隠れ家で雨を見つめながら独りピアノを弾くショパンその人ではないかと、錯覚しそうになるほど。

同様に、第13、17、21、23番といった抒情的な曲がいずれも大変素晴らしかった。

ポリーニ盤でもチョ・ソンジン盤でも、あるいは私の好きなピアニスト、クレア・フアンチの実演でさえ完全にはしっくりこなかったこの曲集が(そのときの記事はこちら)、彼の演奏を聴いて初めて理解できた気がする。

フアンチの演奏もとてもうまかったのだが、この曲集にしてはやや健康的に過ぎるかもしれない。

鯛中卓也は、ショパンの音楽の壊れやすい繊細な部分を、うまく表現する。

また彼は、第16、24番のような技巧的な曲を、鮮やかに弾くというタイプのピアニストではないようである。

第16番の速い走句は不明瞭だし、第24番でも、三度の音程で半音階的に下降する右手のパッセージがあまりスムーズには行っていなかった。

こういったところは、フアンチのほうがずっとうまい。

しかし、鯛中卓也の演奏は、たとえ右手が不明瞭でも左手が雄弁であったりと、何となくサマになってしまうところがある。

こういった技巧的な曲も、足を引っ張っているようには感じなかった。

彼の幻想的な演奏でぜひスクリャービンを聴いてみたい、と思った。

 

 

最後は、酒井有彩。

子守歌と、ソナタ第3番。

テクニック的に非常に安定しているし、曲の情感も出せている。

音もよく立っていて、パキッとしている。

ただ、何となく全体にサクサク進んでしまう感じで、どちらかというと淡白な印象を受けた。

先ほどの鯛中卓也のような、ショパンの「詩情」をとことん味わい尽くす演奏とは、違っている。

 

 

今回のように、多くのピアニストたちの演奏を聴くことができる機会というのは、貴重である。

特に、今回は鯛中卓也という個性的なピアニストを知ることができたのが、私としては大きかった。

こういった会は、またぜひ開催してほしいものである。

 

 


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