山本貴志 大阪公演 フランク 前奏曲、コラールとフーガ ほか | 音と言葉と音楽家  ~クラシック音楽コンサート鑑賞記 in 関西~

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クラシック音楽の鑑賞日記や雑記です。
“たまにしか書かないけど日記”というタイトルでしたが、最近毎日のように書いているので変更しました。
敬愛する音楽評論家ロベルト・シューマン、ヴィルヘルム・フルトヴェングラー、吉田秀和の著作や翻訳に因んで名付けています。

山本貴志 Afternoon Concert

in B-tech Japan

vol. 1 クリスマスへの誘い

 

【日時】

2017年12月16日(土) 開演 13:00 (開場 12:40)

 

【会場】

新大阪 B-tech Japan Osaka

 

【演奏】

ピアノ:山本貴志

 

【プログラム】

ショパン:ノクターン 嬰ハ短調 遺作

ショパン:舟歌 嬰ヘ長調 op.60

ショパン:4つのマズルカ op.6

メンデルスゾーン:6つの前奏曲とフーガ op.35 より 第1番 ホ短調

ブラームス:6つの小品 op.118 より 第2番 「間奏曲」 イ長調

フランク:前奏曲、コラールとフーガ ロ短調

 

※アンコール

チャイコフスキー:「四季」 より 「11月 トロイカで」

ショパン:ノクターン 第2番 変ホ長調 op.9-2

 

 

 

 

 

山本貴志のソロ・リサイタルを聴きに行った。

新大阪にある楽器店でのこじんまりとした演奏会である。

本当に目の前で演奏を聴くことができ、ペダルを踏む音(ダンパーが弦から離れる音?)さえ逐一聴こえるほどだった。

これだけ近くで聴くとすごい迫力で、一流の演奏家はやはり「音が大きい」ということに改めて気づかされる。

こうでなければ、大きなホールでは音が届かないだろう。

 

 

プログラムの前半は、ショパンから何曲か。

山本貴志のショパンはもう何度も聴いているけれど、やはり絶品。

最初の遺作ノクターンからして、ショパン以外の何物でもない演奏になっている。

次の「舟歌」は秋の演奏会(そのときの記事はこちら)でも聴いたが、今回も同様に素晴らしかった。

今回はベーゼンドルファーのピアノだったので、前回のスタインウェイの輝かしい音に比べると少し鄙びた音がしたが、それでもしっかりと「山本貴志の音」になっていた。

「舟歌」はショパンの晩年の作であるためか、少し渋い味わいというか、ただそのまま弾くだけでは良さが伝わりにくい曲であるように感じる。

山本貴志は、そんなこの曲にたっぷりと表情をつけて、鮮やかな色彩感を表現してみせる。

和声が変化するときの彼の演奏の鮮やかさといったら、周りの風景さえ変わってしまわんばかりである。

そのような味付けたっぷりの演奏でありながら、舟の上でゆられるようなさわやかさも失っていない。

このバランス感覚は、何度聴いても素晴らしい。

 

 

ショパンの4つのマズルカ op.6は、「舟歌」とは逆に、ショパンが若い頃に書いたマズルカである。

4曲通して聴いたのは本当に久々だが、晩年の曲とはまた違った良さがある。

第4番など、のちの第33番 ロ長調 op.56-1に通じるような、絶妙なゼクエンツ(反復進行)が聴かれる。

山本貴志の演奏も、やはりさすがだった。

 

 

メンデルスゾーンの前奏曲とフーガ第1番、これも大変にロマンティックかつ情熱的な演奏で、メンデルスゾーンというよりもショパンやシューマンを聴いているような感じさえあった。

メンデルスゾーンにも、こういった激しい情熱が実は隠れているのかもしれないと思わされるような、説得力のある演奏だった。

フーガの部分は、あるいは彼が弾くとロマン的に過ぎるだろうかとも予想したが、なんのなんの、各声部がくっきりと描かれながらも美しく歌われており、このフーガのバッハ的要素とロマン的要素との釣り合いが見事だった。

 

 

ブラームスの間奏曲op.118-2も同様にロマン的な解釈で、晩年の曲らしい枯れた味わいというのとは違っていたが、これはこれで素晴らしかった。

音楽学者リチャード・タラスキンの著作には(こちら)、ブラームスがショパンから大きな影響を受けたことが指摘されているけれども、今回はそのことがよく分かる演奏だった。

フランクの「前奏曲、コラールとフーガ ロ短調」も、私がこの曲でイメージする、モントリオールコンクールでAlbert Cano Smitが弾いたような端正な演奏とはまた違った表情豊かなもので、これはこれでやはり美しかった。

 

 

今回、山本貴志はポーランドのクリスマスの雰囲気に合った、やや厳粛な感じのする曲をプログラムに選んだとのこと。

代わりにアンコールでは、日本の明るくキラキラしたクリスマスのイメージに合うような曲ということで、チャイコフスキーの「四季」より「11月 トロイカで」が奏された。

この曲は、私はこれまでさほど好きというわけでもなかったのだが、今回本当に美しい名曲であることを知った。

山本貴志の意図通り、クリスマスの華やかな雰囲気にぴったりの曲で、チャイコフスキーの名曲「くるみ割り人形」の要素をぎゅっと圧縮して小さい曲に収めたような感がある。

和声進行のしかたなどまさに「くるみ割り人形」で、その和声の色合いの変化を鮮やかに活かす彼の演奏が大変素晴らしく、心が浮き立たずにはいられない。

アンコール2曲目のショパンのノクターンももちろん素晴らしく、すっかりクリスマス気分になって会場を後にしたのだった。

 

 


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