アメリカのフォートワースで開催された、第15回ヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールが、終わった(公式サイトはこちら)。
これまで、ネット配信を聴いて(こちらのサイト)感想を書いてきたが、とりわけ印象深かったピアニストについて、忘備録的に記載しておきたい。
ちなみに、これまでの記事はこちら。
Julia Kociuban (Poland | Age 25)
先日のモントリオールコンクールでは大変生き生きとした演奏と感じたが、今回はあまり持ち味を発揮できなかったか。
今後に期待。
Madoka Fukami (Japan | Age 28)
落ち着いた感じの大人な演奏。
ヒナステラのピアノ・ソナタ第1番、ショパンの幻想ポロネーズが印象的。
Su Yeon Kim (South Korea | Age 23)
目立つ演奏ではないが、ベートーヴェンの「ワルトシュタイン」ソナタのような通常カラッとした曲でもみずみずしいというか、自然な情感が感じられる。
シューマンのクライスレリアーナも良かった。
Leonardo Pierdomenico (Italy | Age 24)
やや淡々としているが、技巧的にかなり安定している。
ラフマニノフのショパン変奏曲や、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第4番あたりが比較的良かったか。
Alina Bercu (Romania | Age 27)
晴れやかで歯切れの良いバッハのパルティータ第4番が印象的。
プロコフィエフのピアノ・ソナタ第7番も、テンポは遅めだがノン・レガートなタッチが小気味よく、下手に盛り上がりすぎないところが良い。
Dasol Kim (South Korea | Age 28)
スマート系技巧派、とにかくうまい。
ラヴェルの「夜のガスパール」、スクリャービンのピアノ・ソナタ第4番、メンデルスゾーンのスコットランド・ソナタ、カプースチンの間奏曲 op.40-7、いずれもあっさりめだが情感にも欠けず、余裕をもってさらりと弾いてしまう(ように聴こえる)。
シューベルトのピアノ・ソナタ第21番も、思った以上に良かった。
Tristan Teo (Canada | Age 20)
パワフルで、技巧的にも安定している。
繊細な表現はやや苦手そうだけれども。
リストの死の舞踏の、ドスの利いた迫力が印象的。
Caterina Grewe (Germany | Age 29)
美しく整った端正な演奏。
人をハッと驚かすようなところはあまりないので、コンクール向きではないかも。
スクリャービンのピアノ・ソナタ第3番、リストの「灰色の雲」が印象的。
Philipp Scheucher (Austria | Age 24)
どことなくオーストリアらしい「古典性」が感じられる演奏(先入観?)。
ベートーヴェンの幻想曲 op.77が印象的。
リストのスペイン狂詩曲も、少し鄙びた感じで悪くなかった。
Martin James Bartlett (United Kingdom | Age 20)
情感の豊かさと冷静な明晰性とが共存している。
これまた「英国らしい」といえるか?
バーバーのピアノ・ソナタ、スカルラッティのソナタ ホ長調 K.380とロ短調 K.27、グラナドスの「ゴイェスカス」より「愛と死」、シューマン/リストの「献呈」、プロコフィエフのピアノ・ソナタ第7番、いずれも大変良い。
Daniel Hsu (United States | Age 19)
今大会の第3位。
技巧的にトップクラスのコントロール力の持ち主であり、それだけでなく独特の情感(個性的だが自然でもある)がある。
ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第31番、リストの「ドン・ジョヴァンニの回想」、バッハ/ブゾーニのシャコンヌ、ムソルグスキーの「展覧会の絵」、シューベルトの即興曲集 op.90、ブラームスのヘンデル変奏曲、フランクのピアノ五重奏曲、そしてチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番と、ほぼ全ての曲目で高い完成度を誇る演奏となっている。
Yury Favorin (Russia | Age 30)
今大会のファイナリスト。
パワーのあるピアニストで、スラヴ風の味わいもみせる。
プロコフィエフの4つのエチュード op.2、リストの「ベッリーニの清教徒の回想」、スクリャービンのピアノ・ソナタ第10番、リストの「スケルツォとマーチ」、ショスタコーヴィチのピアノ・ソナタ第1番あたり、力強い名演。
Yutong Sun (China | Age 21)
こだわり派のピアニストで、かなりのコントロール力。
どこかグールドっぽい?(演奏時の姿勢も含め)
プロコフィエフのピアノ・ソナタ第7番、バッハの平均律第1巻 第8番 変ホ短調、リゲティのエチュード第13番「悪魔の階段」、バルトークのピアノ・ソナタあたりが印象的。
Nikolay Khozyainov (Russia | Age 24)
他のロシアのコンテスタントと同様にパワーがあるが、力でゴリ押しするタイプでは決してなく、みずみずしい情感に溢れている。
ショパンのエチュード op.10-1、ラフマニノフの「音の絵」 op.39-1、リストの「ダンテを読んで」、指回りという意味では最高度とまでは言えないが(とはいえ十分にうまい)、いずれも素晴らしい音楽性のある演奏。
Georgy Tchaidze (Russia | Age 29)
今大会のファイナリスト。
パワフルで柄が大きい(やや大味なときもないではないが)。
ラフマニノフの「音の絵」 op.33-3と9、そしてプロコフィエフのピアノ協奏曲第3番あたりは文句なく良かった。
Kenneth Broberg (United States | Age 23)
今大会の第2位。
並みいる強豪をしのぐほどのレベルかと言われると悩ましいが(技巧的な弱点が少しある)、みずみずしい美音と自然な情感が持ち味。
フランク/バウアーの「前奏曲、フーガと変奏曲」、バーバーのピアノ・ソナタ、シューベルトの即興曲集 op.90、ドヴォルザークのピアノ五重奏曲、ラフマニノフのパガニーニ狂詩曲が印象的。
Sun-A Park (United States | Age 29)
美しい音色、抒情的でロマンティックな表現が魅力。
バッハのカプリッチョ BWV 992、シューマンのフモレスケ、ともに大変美しい名演。
技巧的な難もあまりなさそうだし、1次を通過してほしかった。
Rachel Cheung (Hong Kong | Age 25)
今大会のファイナリスト。
もし個人的に今大会のMVPを選ぶとするならば、迷った上で彼女を選ぶだろう。
なぜ迷うかというと、そこまで好きになれない演奏もあったから。
彼女の作り出す音楽の起伏には、強いこだわりが感じられる反面、「むら気」のようなものを感じることがないわけではない(自然さに欠けることがある、というか)。
また、パワーのほしいような曲では物足りない場合もある。
しかし、いずれの曲のどの箇所を切り取っても、彼女独特の情感の表出に満ち満ちているのは、まぎれもない。
一音たりともゆるがせにしない集中力も、余人の真似できぬところ。
ドビュッシーの「帆」「西風の見たもの」、シューマンのクライスレリアーナといったソロ曲も良いが、とりわけモーツァルトのピアノ協奏曲第20番、ブラームスのピアノ五重奏曲、ベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番は、過去のピアニストたちの名演の数々に優るとも劣らない成熟した演奏となっており、上記のような欠点(とまでは言えないが)もここではほとんど感じられず、素晴らしいことこの上ない。
Sergey Belyavskiy (Russia | Age 23)
テクニック的なムラもないではないが(キレのあるところとそうでもないところとがある)、なかなかの迫力と表現力を持ち合わせている。
シューベルトのさすらい人幻想曲、ベートーヴェンのエロイカ変奏曲、プロコフィエフのピアノ・ソナタ第2番が印象的。
Tony Yike Yang (Canada | Age 18)
独特の情趣を持った個性的な音と表現が聴かれる。
指回りやタッチ・コントロールもかなりのもの。
ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第30番、プロコフィエフのピアノ・ソナタ第7番、スクリャービンのピアノ・ソナタ第2番、リストのピアノ・ソナタ、ショパンのピアノ・ソナタ第2番、ムソルグスキーの「展覧会の絵」などが印象的。
Yekwon Sunwoo (South Korea | Age 28)
今大会の優勝者。
スマート系技巧派で、かなりのテクニックの持ち主。
比較的淡めの表現ながら、情感にも欠けていない。
彼が他の誰よりも飛びぬけて優れているとは思わないが、確実に優勝候補の一人だったとは思うし、それなりに納得のいく結果だったのではないだろうか。
シューベルト/リストの「万霊節の連祷」、ラフマニノフのピアノ・ソナタ第2番、シューベルトのピアノ・ソナタ第19番、ラヴェルのラ・ヴァルス、R. シュトラウス/グレインジャーの歌劇「ばらの騎士」より 最後の愛の二重唱によるランブル、プロコフィエフのピアノ・ソナタ第6番、ドヴォルザークのピアノ五重奏曲などが印象的。
Han Chen (Taiwan | Age 25)
彼もスマート系技巧派だが、それらしい情感をあまり込めることなく、あくまで真っ向ストレート勝負なのが特徴。
私は好きだが、評価が分かれるところでもあるかもしれない。
カーターのCaténaires、リストの「ドン・ジョヴァンニの回想」、リストのピアノ・ソナタ、バッハ/ブゾーニのシャコンヌ、シューベルトのさすらい人幻想曲あたりが印象的。
Honggi Kim (South Korea | Age 25)
彼もスマート系技巧派。
リスト/ヴォロドスのハンガリー狂詩曲第13番、ラフマニノフのピアノ・ソナタ第1番、ヴァインのピアノ・ソナタ第1番、シューマンの「クライスレリアーナ」、チャイコフスキー/フェインベルクの交響曲第6番「悲愴」よりスケルツォが印象的。
Alyosha Jurinic (Croatia | Age 28)
抒情派ピアニスト。
潤いのある音、みずみずしい情緒に溢れている。
ドビュッシーの「夢」、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第13番、シューマン/リストの「献呈」、ドビュッシーの映像第2集が印象的。
以上である。
今回は例年にも増して全体にハイレベルな大会だったように思う。
気に入らないピアニストがほとんどいなかったし、名の知れたピアニストも次々と予選で落とされていった。
常にレベルの高い演奏を聴くことができて、大変楽しかった。
ただ…個人的にはClaire Huangciにぜひとも弾いてほしかった。
4年前に出場したときよりもレパートリーはきっと増えているだろうし、新たなレパートリーのライヴ録音が手に入ると期待していたのだが…そこだけが心残りである。
それが結果だから仕方ないことだけれど。
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