SS『ここから始まる物語・1』(マクロスF・アニメ版)
注:このSSはジョークです。
「シェリルさん、あたし、負けません!
歌も、恋も!」
「受けて立つわ♪」
頬を染めて見上げる、可愛らしい少女。
彼女のおかげで、自分の身体は治った。彼女がフロンティアを離れていた間にアルトと過ごしていたのはフェアじゃない。
あの時はそれをわかっていてなおすがりつく人がいなければ生きていけなかったからアルトに甘えたけれど、こうして平和が訪れ、自身もまだ生きていられることがわかったのだから、もう一度フェアに勝負したい。
ランカの宣言は、シェリルにとっても望むところだったのだ。
******
アルトがようやく空を飛ぶのに満足したのか、ふわりと降下して大地に降り立つ。今回の彼の活躍は、贔屓目なしに素晴らしかった。ここは褒めてあげないとね、と笑顔を浮かべて迎えようとして、
自分の腕をぎゅっと抱きしめて離さないランカに、シェリルは気がついた。
「ランカ、ちゃん?」
戸惑いながら声をかけると、ランカは顔を真っ赤にして、それでもえへへと微笑んだ。
……ナニ、その反応。ええと、アルトが降りてきたんだけど? 駆け寄ったりとかしないのかしら?
なんて思ってるシェリルをよそに、アルトが歩み寄ってくる。彼の左耳に揺れる母の形見のイヤリングが、自然の陽光にキラリと光った。
ああ、今度も約束守ってくれたんだ。シェリルは様子のおかしなランカのことも一時忘れ、胸をいっぱいにした。断じて現実逃避を試みたわけではない。
だが仮にそれが逃避だったとしても、ランカの前では無意味であった。
ますます腕に力が込められたかと思うと、先ほどに倍する力強さで、ランカは宣言したのだ。
「シェリルさんは、アルトくんには渡さないんだからね!」
沈黙。
アルトが中途半端に右手を上げたまま、満面の笑顔のまま、固まった。自分も似たようなものだろうと思う。
……この子は、一体ナニを言っているの?
とりあえず自分の耳を疑い、次に自分の言語知識を疑い、さらには自分の正気をも疑ったあたりでようやくランカの言葉を把握した。
――つまり、なにか。『恋』で『負けない』ってのは、『アルトに』負けないで貴女を口説き落とすという決意表明だったというわけで……
「え、ええっ!?」
「……おい、ランカはどうなってんだ?」
「し、知らないわよっ!」
てっきりランカの想い人はアルトなのだと思っていたので、これは晴天の霹靂だった。ていうか普通そう思うよね。
だが、残念ながらランカは普通ではなかった。頼もしい護衛つきとはいえ単身バジュラの群れに赴くような少女である。そのぶっ飛びっぷりは、常人の理解の及ぶところではない。
どうやら、アルトへの恋心はあの別れの時にスッパリ断ち切ってしまったらしい。
バトルギャラクシーに飛び込み見事自分を救出したアルトに、想いを再燃させても良さそうなものだが、なぜかそうはならなかったようだ。
ランカにしてみれば、その後シェリルと二人で繰り広げた超時空ライブの方がよっぽど大きいのだった。だって、本当に本当に、心の底からずっと憧れていた女性なのだ。何の因果か、アイドルとファンとしてではなく個人として出会うことができて、なぜか一緒の学園生活を送ることになって、恋の鞘当みたいなことまでして。それでも、バジュラたちのところへ赴くことを決めた時に、もう会えないと覚悟を決めていたのだ。
それが、また会うことができちゃった。それどころか、あんな凄い舞台で、二人で一緒に最高の歌を歌うことができたなんて、もう告白するしかないよねっ!
キラッ☆
としか言いようがないくらいに目を輝かせ、シェリルを見つめるランカ。もちろん、彼女の考えていることが二人に伝わることはないし、仮に伝わってもなぜそんな結論になるのか理解不能だったに違いない。
天然は理解できないから天然なのだ。
とうとう抱きついたランカと抱きつかれ慌てふためくシェリルを眺めながら、アルトは何事か思案していたが、
「まあ、ランカならいいか……」
ぽりぽりと頭をかいて、くるっと背を向けた。
シェリルは焦った。そりゃ焦る。アルトは見捨てる気満々だ。帰ってきたら続きを聞くって言ったでしょ、あんただって言うつもりだったんでしょ!? この状況でそのままどっか行っちゃうってどういうこと、っていうか助けて……!!
「ちょ、ちょっと、待ちなさいよアルト! このまま放っていくつもり!?」
「シェリルさん……好き」
「んぁっ……ラ、ランカちゃん、変なとこ触んないで――きゃうっ」
熱い吐息が耳に吹きかけられ、シェリルの背筋をゾクゾクした何かが駆け上がる。
――アルトと暮らした日々。V型感染症のせいで本番こそしてないが、若い男女が二人きりでいて何も起こらないはずはなく。結論だけ言うなら、シェリルの身体はアルトが連夜行った静かな、しかし熱の篭った愛撫によって急激に開発されつつあったのだ。性的な意味で。
病気のシェリルに何すんだよ、と批判される筋合いはない。勇気をちょうだいと求めたのはシェリルであるからして。むしろこの世で最高級に美しい『銀河の妖精』の肢体を、誰より愛しく想う少女の無防備な姿を前によく我慢したアルト! と賞賛されるべき忍耐で以って、彼はシェリルを愛したのである。
すりすりと寄せられるランカの頬、そして可愛らしい緑色の髪が、シェリルの豊かな双丘を刺激する。逃れようにも背中に回された手の力は思いの外強く、というか指先で背中をつつつっとなで上げられてしまってはもう振り払うような力は出せそうにない。
そういえばランカはゼントラーディの血が混じっているとのことで、ようするに見た目より力が強いのであった。
あれ、ちょっとこれ本格的にまずいんじゃないだろうか。
桃色に染まりつつある思考で、シェリルは朦朧と考えていた。
******
「ラ、ランカ……お前……」
「ランカ。お前が望むことなら、なんだって叶えてやる。お前の幸せは、俺が守る」
義兄と実兄がそれぞれの場所から温かく(?)見守る中、ランカはシェリルに抱きついたまま離れようとしない。アルトがこの場を放棄した絶好の機会に、思う存分シェリルを堪能するつもりなのだろう。
ついでにナチュラルにその身体を撫で回すランカ。実は、これで本人にはセクハラ働いてる意識がカケラもないんだから始末に終えない。本気出したらどうなることやら。
「ん……シェリルさん、いい匂い……」
「は――あ――っ!」
『超時空シンデレラ』『希望の歌姫』、ランカ・リー。
彼女が想い人を篭絡する日は、多分けっこう近そうだった。
『ランカならいいか』なんぞと余裕ぶっこいた姫は、一体どうするのだろうか。
――物語(トライアングラー)は、今ここに始まった。
【終われ】
「シェリルさん、あたし、負けません!
歌も、恋も!」
「受けて立つわ♪」
頬を染めて見上げる、可愛らしい少女。
彼女のおかげで、自分の身体は治った。彼女がフロンティアを離れていた間にアルトと過ごしていたのはフェアじゃない。
あの時はそれをわかっていてなおすがりつく人がいなければ生きていけなかったからアルトに甘えたけれど、こうして平和が訪れ、自身もまだ生きていられることがわかったのだから、もう一度フェアに勝負したい。
ランカの宣言は、シェリルにとっても望むところだったのだ。
******
アルトがようやく空を飛ぶのに満足したのか、ふわりと降下して大地に降り立つ。今回の彼の活躍は、贔屓目なしに素晴らしかった。ここは褒めてあげないとね、と笑顔を浮かべて迎えようとして、
自分の腕をぎゅっと抱きしめて離さないランカに、シェリルは気がついた。
「ランカ、ちゃん?」
戸惑いながら声をかけると、ランカは顔を真っ赤にして、それでもえへへと微笑んだ。
……ナニ、その反応。ええと、アルトが降りてきたんだけど? 駆け寄ったりとかしないのかしら?
なんて思ってるシェリルをよそに、アルトが歩み寄ってくる。彼の左耳に揺れる母の形見のイヤリングが、自然の陽光にキラリと光った。
ああ、今度も約束守ってくれたんだ。シェリルは様子のおかしなランカのことも一時忘れ、胸をいっぱいにした。断じて現実逃避を試みたわけではない。
だが仮にそれが逃避だったとしても、ランカの前では無意味であった。
ますます腕に力が込められたかと思うと、先ほどに倍する力強さで、ランカは宣言したのだ。
「シェリルさんは、アルトくんには渡さないんだからね!」
沈黙。
アルトが中途半端に右手を上げたまま、満面の笑顔のまま、固まった。自分も似たようなものだろうと思う。
……この子は、一体ナニを言っているの?
とりあえず自分の耳を疑い、次に自分の言語知識を疑い、さらには自分の正気をも疑ったあたりでようやくランカの言葉を把握した。
――つまり、なにか。『恋』で『負けない』ってのは、『アルトに』負けないで貴女を口説き落とすという決意表明だったというわけで……
「え、ええっ!?」
「……おい、ランカはどうなってんだ?」
「し、知らないわよっ!」
てっきりランカの想い人はアルトなのだと思っていたので、これは晴天の霹靂だった。ていうか普通そう思うよね。
だが、残念ながらランカは普通ではなかった。頼もしい護衛つきとはいえ単身バジュラの群れに赴くような少女である。そのぶっ飛びっぷりは、常人の理解の及ぶところではない。
どうやら、アルトへの恋心はあの別れの時にスッパリ断ち切ってしまったらしい。
バトルギャラクシーに飛び込み見事自分を救出したアルトに、想いを再燃させても良さそうなものだが、なぜかそうはならなかったようだ。
ランカにしてみれば、その後シェリルと二人で繰り広げた超時空ライブの方がよっぽど大きいのだった。だって、本当に本当に、心の底からずっと憧れていた女性なのだ。何の因果か、アイドルとファンとしてではなく個人として出会うことができて、なぜか一緒の学園生活を送ることになって、恋の鞘当みたいなことまでして。それでも、バジュラたちのところへ赴くことを決めた時に、もう会えないと覚悟を決めていたのだ。
それが、また会うことができちゃった。それどころか、あんな凄い舞台で、二人で一緒に最高の歌を歌うことができたなんて、もう告白するしかないよねっ!
キラッ☆
としか言いようがないくらいに目を輝かせ、シェリルを見つめるランカ。もちろん、彼女の考えていることが二人に伝わることはないし、仮に伝わってもなぜそんな結論になるのか理解不能だったに違いない。
天然は理解できないから天然なのだ。
とうとう抱きついたランカと抱きつかれ慌てふためくシェリルを眺めながら、アルトは何事か思案していたが、
「まあ、ランカならいいか……」
ぽりぽりと頭をかいて、くるっと背を向けた。
シェリルは焦った。そりゃ焦る。アルトは見捨てる気満々だ。帰ってきたら続きを聞くって言ったでしょ、あんただって言うつもりだったんでしょ!? この状況でそのままどっか行っちゃうってどういうこと、っていうか助けて……!!
「ちょ、ちょっと、待ちなさいよアルト! このまま放っていくつもり!?」
「シェリルさん……好き」
「んぁっ……ラ、ランカちゃん、変なとこ触んないで――きゃうっ」
熱い吐息が耳に吹きかけられ、シェリルの背筋をゾクゾクした何かが駆け上がる。
――アルトと暮らした日々。V型感染症のせいで本番こそしてないが、若い男女が二人きりでいて何も起こらないはずはなく。結論だけ言うなら、シェリルの身体はアルトが連夜行った静かな、しかし熱の篭った愛撫によって急激に開発されつつあったのだ。性的な意味で。
病気のシェリルに何すんだよ、と批判される筋合いはない。勇気をちょうだいと求めたのはシェリルであるからして。むしろこの世で最高級に美しい『銀河の妖精』の肢体を、誰より愛しく想う少女の無防備な姿を前によく我慢したアルト! と賞賛されるべき忍耐で以って、彼はシェリルを愛したのである。
すりすりと寄せられるランカの頬、そして可愛らしい緑色の髪が、シェリルの豊かな双丘を刺激する。逃れようにも背中に回された手の力は思いの外強く、というか指先で背中をつつつっとなで上げられてしまってはもう振り払うような力は出せそうにない。
そういえばランカはゼントラーディの血が混じっているとのことで、ようするに見た目より力が強いのであった。
あれ、ちょっとこれ本格的にまずいんじゃないだろうか。
桃色に染まりつつある思考で、シェリルは朦朧と考えていた。
******
「ラ、ランカ……お前……」
「ランカ。お前が望むことなら、なんだって叶えてやる。お前の幸せは、俺が守る」
義兄と実兄がそれぞれの場所から温かく(?)見守る中、ランカはシェリルに抱きついたまま離れようとしない。アルトがこの場を放棄した絶好の機会に、思う存分シェリルを堪能するつもりなのだろう。
ついでにナチュラルにその身体を撫で回すランカ。実は、これで本人にはセクハラ働いてる意識がカケラもないんだから始末に終えない。本気出したらどうなることやら。
「ん……シェリルさん、いい匂い……」
「は――あ――っ!」
『超時空シンデレラ』『希望の歌姫』、ランカ・リー。
彼女が想い人を篭絡する日は、多分けっこう近そうだった。
『ランカならいいか』なんぞと余裕ぶっこいた姫は、一体どうするのだろうか。
――物語(トライアングラー)は、今ここに始まった。
【終われ】
新作-第一回シングリンク合唱コンクール応募作-
ブログに書くの忘れてたんだけど、歌ってみたSNSことシングリンクで開催されている、「第1回合唱コンクール 2010春の陣」に、しんのすけをリーダーとするチーム「かすかべ防衛隊」の一員として参加しています。
しています、ってーか予選はもう終わっちゃって残念ながら敗退したんだけどw
この「RE:BRIDGE~Return to oneself~」を7人で歌いました。
しんのすけ、イスカ、ぐりーく、しぶナレフ、たれ、Nimo、5コマスベリ
という面子です。
アニサマテーマソングの中で二番目に好きなこの曲を、この人達とコラボできて幸せだった。
そして、この「合コン」、運営の粋な計らいで、敗退したチーム同士で「スモールファイナル」として引き続き争えるシステムになっています。
それ用の動画がこちら。
たれさんと5コマさんを除いた五名で参加しています。
アニメ版サクラ大戦のOPテーマ「ゲキテイ」
ものすごい出来のmidiがニコニコに投稿されてたので、それを使わせてもらいました。
ゲキテイを投稿するのはこれで三度目ですが、当然ながら今回が一番楽しかったw
どちらもミックス・動画編集をしんのすけが、アバターをNimoさんが担当しています。
二人、特にしんのすけの仕事量にはほんとに頭が下がります。
お疲れさまでした。
ちなみに、Nimoさんが描いてくれたアイコンをプロフィール画像に使用させてもらってます。
へへへw
しています、ってーか予選はもう終わっちゃって残念ながら敗退したんだけどw
この「RE:BRIDGE~Return to oneself~」を7人で歌いました。
しんのすけ、イスカ、ぐりーく、しぶナレフ、たれ、Nimo、5コマスベリ
という面子です。
アニサマテーマソングの中で二番目に好きなこの曲を、この人達とコラボできて幸せだった。
そして、この「合コン」、運営の粋な計らいで、敗退したチーム同士で「スモールファイナル」として引き続き争えるシステムになっています。
それ用の動画がこちら。
たれさんと5コマさんを除いた五名で参加しています。
アニメ版サクラ大戦のOPテーマ「ゲキテイ」
ものすごい出来のmidiがニコニコに投稿されてたので、それを使わせてもらいました。
ゲキテイを投稿するのはこれで三度目ですが、当然ながら今回が一番楽しかったw
どちらもミックス・動画編集をしんのすけが、アバターをNimoさんが担当しています。
二人、特にしんのすけの仕事量にはほんとに頭が下がります。
お疲れさまでした。
ちなみに、Nimoさんが描いてくれたアイコンをプロフィール画像に使用させてもらってます。
へへへw
SS『降臨』(アイドルマスター)
天海春香という少女がいる。
彼女は、765プロダクションに所属する中でも最古参の部類に入るアイドルだ。……というと誤解を招いてしまうかもしれないが、彼女はまだ若い。うちの初期メンバーである彼女は、実のところ若干18歳。女性アイドルとして、もっとも人気を集めやすい世代だ。
俺がプロデューサーになってから3年。デビューからは2年。アイドルとしての階段を順調に、かつ急速に駆け上ってきた彼女は、いまやトップアイドルとして日本の芸能界でも有数の人気を得ていた。
誰もが惹かれる、明るい笑顔。
アイドルらしからぬ、飾らない人柄。
時折かます大失敗すら人気に変えてしまうその魅力は、どこにでもいそうな普通の女の子の、誰にも真似できない熱意故だろう。
みんなに楽しんでほしい。ただ純粋にそう願い、765プロダクションの門を叩いた彼女。歌もダンスも、それ単体で見れば春香を上回る女の子はいくらでもいる。けれど、アイドルとして最も大切な「ファンへの愛情」に関して、彼女に適う者などいはしないのだ。
ほんの3年前のことながら、当時の俺はプロデューサーとして未熟もいいところだった。 アポも取らずに春香をつれて営業に出かけ大恥を書いたこともあるし、トンチンカンな指示を出して彼女を困惑させたこともある。一方で春香の方も、すっ転んで機材を破壊しかけたり、営業先で緊張のあまり何も話せなくなってしまったりといった失敗はしばしばあった。
そんな調子だったから、最初は本当に不安だらけだった。未来のビジョンが描けない苦しみは知っているつもりだったが、その未来が他人と共に歩むものであることが(男女の仲ではない、あくまでプロデューサーとアイドルとしてだ。誤解のないように!)どれほどプレッシャーになるか、嫌というほど味わった。
プロデューサー見習いとアイドル候補生。未熟者二人で色んな挫折を経験し、一緒に苦労をしてきた。
それを乗り越えて、今がある。
天海春香は、間違いなく俺の自慢のアイドルだ。
しかし……。
◇◆◇◆◇◆
俺は少し休憩をもらって、事務所から少し離れた公園に来ていた。
考え事をするのに、この場所はちょうどいい。今考えようとしている内容からすれば、なおさらだ。
目下頭を悩ませているのは、春香のことだった。
全国でもトップクラスの人気を誇る彼女だが――最近、その人気に陰りがみられるようになってきたのだ。
トップアイドルとして君臨していながら、デビューしたての頃と何ら変わらない素直な態度。裏表のない、天然の愛嬌。
それらは彼女を全国区に押し上げた要因であると同時に、……アイドルとしての幅の無さをも意味していた。
いい意味で「アイドルっぽさ」のない春香だが、それは「普通の女の子」であるということでもある。今時珍しいくらいの「女の子」らしい女の子、それが天海春香という少女だ。だからこそ幅広い層に受け入れられた。
しかし、春香ももう18だ。これまでの純朴で一生懸命な女の子という、あえて言うならそれ「だけ」のアイドルを脱却して新しい魅力をアピールしていかなければ、いずれ人気の衰えは誰の目にもわかるものとなって765プロダクションに、そして春香に襲い掛かるだろう。
そして――その兆候は、既に見えている。
そうなれば道は二つ。
本当に熱心な一部のファンだけを頼りに、規模を縮小してアイドル活動を続けていくか。
もしくは、スッパリと引退して新たな道を歩むか、だ。
一度凋落したアイドルの復活は、極めて困難と言わざるを得ない。
厳しいが、それが芸能界という場所の現実だ……。
「……冒険してみるか」
俺は一つの決心を胸に、公園を後にした。
向かうは、以前歌番組に出た時に知り合ったバンドのところ。
第三の選択肢のために、打てる手がある。
思い切って、180度違う方向の楽曲を。
ミステリアスで、アダルトで、……背徳的な曲を、春香に。
◇◆◇◆◇◆
曲作りを依頼してから3ヶ月ほど経ち――そして、今。
新曲の仕上がりを確認するため、時間をとってレッスンスタジオに出向いた俺は、正体のわからない寒気が背筋に奔るのを止められずにいた。
夜の闇のような深い黒を基調とした、禍々しい印象すら与える衣装。
狂気に満ちた愛を描き出す、背徳的な歌詞。
アップテンポなメロディ、予測を外す頻繁なコードチェンジが、聴く者の心の安定を突き崩す。
仕組んだ俺の予想をはるかに超える、妖しく艶やかな世界がここには作り出されていた。
誰よりも傍で見てきた少女、天海春香の手によって。
曲が終わり、春香が俺のところへ駆けてくる。
「どうでしたか……プロデューサーさん?」
「あ、ああ……」
俺は、ゴクリとつばを飲み込んだ。
春香の声が、やけに艶かしく聞こえる。
いつもの弾むような声ではなく、どこかに危うい熱を秘めたような――
「……完璧だ」
「ふふっ。ありがとうございます」
かろうじて搾り出したその一言に、笑みで応える春香。
その表情もまた、これまでの彼女にはなかったもの。
例えるなら、獲物を捕らえた女郎蜘蛛……。
いや、それは俺の目の錯覚だ。二、三度瞬きすれば……ほら、いつも通りの春香の笑み。
なのになんで、いつもと違うなんて思ったのか――
「今まで歌ってきた曲とぜんぜん違ったから、最初はどうすればいいのか困ってたんですけど。千早ちゃんと美希がしっかりサポートしてくれたから助かりました」
やっぱり二人とも凄いですね、と笑う春香。
そう、この曲を一人で歌わせるのは流石に厳しいと思った俺は、うちの事務所でも折り紙つきの実力を持つ千早と美希を加え、三人でユニットを組ませていた。
けど――違う。
千早と美希がサポート? 逆だ。二人は春香に引っ張られていただけ。
俺の目から見ればそれは明らかだ。
千早と美希のポテンシャルは、実のところ春香を完全に凌駕しているのだが、それにしたってこの手の曲をモノにできるほどの幅はまだ備えていない。二人にとっても引き出しを増やすいい機会だと思ってメンバーに加えたのだから、そんな技量があるはずがないのだ。
そもそも今この時でさえ二人は戸惑いの色を隠せずにいる。
こちらに近づいてこようとせず、俺たちのやり取りを――むしろ春香を、こわごわと眺めていた。
「さーて、シャワー浴びてさっぱりしてこよっと」
「なあ、春香……」
「はい、なんですか?」
さっきのは、演技だったんだよな――?
喉元まで出かかった言葉を、俺はかろうじて飲み込んだ。
「……いや、なんでもない」
「……?
変なプロデューサー♪」
くすくすと笑って、春香はシャワールームへと向かった。
◇◆◇◆◇◆
千早と美希が、金縛りが解けたかのようにようやく俺のところまで来る。
「ね、ねえ、プロデューサーさん……」
「これで、よかったんですか……?」
二人して、すがりつくような目を向けてくる。
……変な話だ。今日初めて見た俺とは違って、この曲を渡された時からずっと一緒に練習しているはずの二人が、どうしてこんなにも戸惑っている?
まあ仕方ないか。優しくて、明るくて、一生懸命で、ちょっとドジ。そんな自分たちの仲間が、こんなダークな歌を当然のような顔をして歌いこなしてしまったのだから。
「……俺もびっくりした。まさかあの春香がここまでやれるなんて思ってなかったからな。
これは間違いなく、アイドル界を激震させるヒットになる。
お前たちも、だいぶ驚いたみたいだな」
なんとか向けた笑顔に、二人はためらいがちに答えた。
「だって、その」
「……あんな春香は、初めて見ました」
「……何?」
「春香ね、一生懸命練習してたけど。昨日まではあんなじゃなかったの。
レッスンの後に、トレーナーと何か話してたけど……こんなに変わっちゃうなんて、ミキ、思ってなかったの」
「昨日のレッスンでは、今までの春香だったんです。
アイドルらしいアイドルである春香が、こうした退廃的な曲を歌う……そのギャップをファンに見せて楽しんでもらうんだと思っていたんですけど。
プロデューサーもわかりましたよね? 春香の今までのキャラクターでは、さっきの歌はありえないって」
「……そうか」
無意識のうちに唸り声が漏れる。
今日の春香の歌は、ダンスは、アイドルとしてのイメージとのギャップ、なんて生易しいものじゃなかった。
女王のように傲然と、娼婦のように嫣然と。
恋焦がれる余りの、狂気。偏執的なまでの、愛。
それらを、完膚なきまでに表現しきっていた。
……普段の練習との違いは、曲が仕上げられた段階、最後の確認の場であること。
そのために、俺がこの場に来ていたこと。
それはつまり――
俺は首を振った。
考えすぎだ。
何かきっかけがあって、春香がこちらの予想をぶっちぎった急成長を遂げてくれたということ。またしてもあのトレーナーにやられてしまったようだが、こういう計算違いならいくらでも大歓迎だ。
あの春香があそこまでやれるとは驚きだったが、一から育ててきたプロデューサーとしてはあいつの成長には感慨深いものが――
そこで。
ねじ伏せようとした思考が、再び浮き上がってくる。
……なら、なぜさっき俺はためらった?
曲に合わせて演じたのだと、そう確かめられなかった理由は?
――それは、簡単な話だ。
「当たり前ですよ! 私をどんな目で見てるんですか!!」
そんなふうに怒られるなら、まだいい。俺もごめんごめんと笑って済ますことが出来る。
だが……もし。
もし、いつもの調子で、
「そんなわけないじゃないですかーv」
などと明るく言われてしまったら――あれが、本来の春香だと肯定されてしまったら。
俺は、一体どうすればいい?
天海春香。
俺が765プロダクションに雇われてから、ずっと一緒にいる少女。
家族を除けば、春香のことを一番良く知っているのはこの俺だという密やかな自負は、しかしこの時から大きく揺らいでしまった。
春香――
◇◆◇◆◇◆
俺たちの戸惑いを他所に、新曲『阿修羅姫』はとてつもないヒットを記録した。
メインを務めた春香の人気は鰻上り。辛口の批評家たちにも絶賛され、その勢いはとどまるところを知らない。如月千早と星井美希、二人の天才をバックに従えるだけの力量を、世間は認めたのだ。
春香の新しい一面にノックアウトされた以前からのファンはもちろん、今回の曲をきっかけにファンになったという人々も多い。彼女を『春閣下』などという、アイドルとしてあまりにも微妙な愛称で呼び『崇拝』する(困ったことに、これは別に誇張表現ではないのだ)人々もいる。
特にインターネットの世界では爆発的な反響を呼んでいる。
「閣下にはこんな曲を歌ってほしい!」
とかいうくらいなら別にまだ可愛いもんだが、
「閣下に踏まれたい」「跪いて脚を嘗めろと言われたら喜んで嘗める!」「閣下になら殺されても本望」
などというレベルまで来てしまうと、喜んでいいのかどうか判断に迷う。
仕掛けといてなんだが、日本大丈夫か?
社長も大喜びで、
「よくぞ春香くんの新たな一面を引き出してくれたな! 流石だ!!」
と特別ボーナスを出してくれた。
俺は顔が引きつりそうなのをこらえて笑うしかなかった。
……あの、凄絶なまでの流し目を。
愛の為なら修羅にも成らんとするあの狂気を。
果たして春香は『演じて』いたのか。
それとも……。
俺は、未だに真相を聞けていない。
……だって怖いじゃんか。なあ?
「くすくすくす・・・…」
彼女は、765プロダクションに所属する中でも最古参の部類に入るアイドルだ。……というと誤解を招いてしまうかもしれないが、彼女はまだ若い。うちの初期メンバーである彼女は、実のところ若干18歳。女性アイドルとして、もっとも人気を集めやすい世代だ。
俺がプロデューサーになってから3年。デビューからは2年。アイドルとしての階段を順調に、かつ急速に駆け上ってきた彼女は、いまやトップアイドルとして日本の芸能界でも有数の人気を得ていた。
誰もが惹かれる、明るい笑顔。
アイドルらしからぬ、飾らない人柄。
時折かます大失敗すら人気に変えてしまうその魅力は、どこにでもいそうな普通の女の子の、誰にも真似できない熱意故だろう。
みんなに楽しんでほしい。ただ純粋にそう願い、765プロダクションの門を叩いた彼女。歌もダンスも、それ単体で見れば春香を上回る女の子はいくらでもいる。けれど、アイドルとして最も大切な「ファンへの愛情」に関して、彼女に適う者などいはしないのだ。
ほんの3年前のことながら、当時の俺はプロデューサーとして未熟もいいところだった。 アポも取らずに春香をつれて営業に出かけ大恥を書いたこともあるし、トンチンカンな指示を出して彼女を困惑させたこともある。一方で春香の方も、すっ転んで機材を破壊しかけたり、営業先で緊張のあまり何も話せなくなってしまったりといった失敗はしばしばあった。
そんな調子だったから、最初は本当に不安だらけだった。未来のビジョンが描けない苦しみは知っているつもりだったが、その未来が他人と共に歩むものであることが(男女の仲ではない、あくまでプロデューサーとアイドルとしてだ。誤解のないように!)どれほどプレッシャーになるか、嫌というほど味わった。
プロデューサー見習いとアイドル候補生。未熟者二人で色んな挫折を経験し、一緒に苦労をしてきた。
それを乗り越えて、今がある。
天海春香は、間違いなく俺の自慢のアイドルだ。
しかし……。
◇◆◇◆◇◆
俺は少し休憩をもらって、事務所から少し離れた公園に来ていた。
考え事をするのに、この場所はちょうどいい。今考えようとしている内容からすれば、なおさらだ。
目下頭を悩ませているのは、春香のことだった。
全国でもトップクラスの人気を誇る彼女だが――最近、その人気に陰りがみられるようになってきたのだ。
トップアイドルとして君臨していながら、デビューしたての頃と何ら変わらない素直な態度。裏表のない、天然の愛嬌。
それらは彼女を全国区に押し上げた要因であると同時に、……アイドルとしての幅の無さをも意味していた。
いい意味で「アイドルっぽさ」のない春香だが、それは「普通の女の子」であるということでもある。今時珍しいくらいの「女の子」らしい女の子、それが天海春香という少女だ。だからこそ幅広い層に受け入れられた。
しかし、春香ももう18だ。これまでの純朴で一生懸命な女の子という、あえて言うならそれ「だけ」のアイドルを脱却して新しい魅力をアピールしていかなければ、いずれ人気の衰えは誰の目にもわかるものとなって765プロダクションに、そして春香に襲い掛かるだろう。
そして――その兆候は、既に見えている。
そうなれば道は二つ。
本当に熱心な一部のファンだけを頼りに、規模を縮小してアイドル活動を続けていくか。
もしくは、スッパリと引退して新たな道を歩むか、だ。
一度凋落したアイドルの復活は、極めて困難と言わざるを得ない。
厳しいが、それが芸能界という場所の現実だ……。
「……冒険してみるか」
俺は一つの決心を胸に、公園を後にした。
向かうは、以前歌番組に出た時に知り合ったバンドのところ。
第三の選択肢のために、打てる手がある。
思い切って、180度違う方向の楽曲を。
ミステリアスで、アダルトで、……背徳的な曲を、春香に。
◇◆◇◆◇◆
曲作りを依頼してから3ヶ月ほど経ち――そして、今。
新曲の仕上がりを確認するため、時間をとってレッスンスタジオに出向いた俺は、正体のわからない寒気が背筋に奔るのを止められずにいた。
夜の闇のような深い黒を基調とした、禍々しい印象すら与える衣装。
狂気に満ちた愛を描き出す、背徳的な歌詞。
アップテンポなメロディ、予測を外す頻繁なコードチェンジが、聴く者の心の安定を突き崩す。
仕組んだ俺の予想をはるかに超える、妖しく艶やかな世界がここには作り出されていた。
誰よりも傍で見てきた少女、天海春香の手によって。
曲が終わり、春香が俺のところへ駆けてくる。
「どうでしたか……プロデューサーさん?」
「あ、ああ……」
俺は、ゴクリとつばを飲み込んだ。
春香の声が、やけに艶かしく聞こえる。
いつもの弾むような声ではなく、どこかに危うい熱を秘めたような――
「……完璧だ」
「ふふっ。ありがとうございます」
かろうじて搾り出したその一言に、笑みで応える春香。
その表情もまた、これまでの彼女にはなかったもの。
例えるなら、獲物を捕らえた女郎蜘蛛……。
いや、それは俺の目の錯覚だ。二、三度瞬きすれば……ほら、いつも通りの春香の笑み。
なのになんで、いつもと違うなんて思ったのか――
「今まで歌ってきた曲とぜんぜん違ったから、最初はどうすればいいのか困ってたんですけど。千早ちゃんと美希がしっかりサポートしてくれたから助かりました」
やっぱり二人とも凄いですね、と笑う春香。
そう、この曲を一人で歌わせるのは流石に厳しいと思った俺は、うちの事務所でも折り紙つきの実力を持つ千早と美希を加え、三人でユニットを組ませていた。
けど――違う。
千早と美希がサポート? 逆だ。二人は春香に引っ張られていただけ。
俺の目から見ればそれは明らかだ。
千早と美希のポテンシャルは、実のところ春香を完全に凌駕しているのだが、それにしたってこの手の曲をモノにできるほどの幅はまだ備えていない。二人にとっても引き出しを増やすいい機会だと思ってメンバーに加えたのだから、そんな技量があるはずがないのだ。
そもそも今この時でさえ二人は戸惑いの色を隠せずにいる。
こちらに近づいてこようとせず、俺たちのやり取りを――むしろ春香を、こわごわと眺めていた。
「さーて、シャワー浴びてさっぱりしてこよっと」
「なあ、春香……」
「はい、なんですか?」
さっきのは、演技だったんだよな――?
喉元まで出かかった言葉を、俺はかろうじて飲み込んだ。
「……いや、なんでもない」
「……?
変なプロデューサー♪」
くすくすと笑って、春香はシャワールームへと向かった。
◇◆◇◆◇◆
千早と美希が、金縛りが解けたかのようにようやく俺のところまで来る。
「ね、ねえ、プロデューサーさん……」
「これで、よかったんですか……?」
二人して、すがりつくような目を向けてくる。
……変な話だ。今日初めて見た俺とは違って、この曲を渡された時からずっと一緒に練習しているはずの二人が、どうしてこんなにも戸惑っている?
まあ仕方ないか。優しくて、明るくて、一生懸命で、ちょっとドジ。そんな自分たちの仲間が、こんなダークな歌を当然のような顔をして歌いこなしてしまったのだから。
「……俺もびっくりした。まさかあの春香がここまでやれるなんて思ってなかったからな。
これは間違いなく、アイドル界を激震させるヒットになる。
お前たちも、だいぶ驚いたみたいだな」
なんとか向けた笑顔に、二人はためらいがちに答えた。
「だって、その」
「……あんな春香は、初めて見ました」
「……何?」
「春香ね、一生懸命練習してたけど。昨日まではあんなじゃなかったの。
レッスンの後に、トレーナーと何か話してたけど……こんなに変わっちゃうなんて、ミキ、思ってなかったの」
「昨日のレッスンでは、今までの春香だったんです。
アイドルらしいアイドルである春香が、こうした退廃的な曲を歌う……そのギャップをファンに見せて楽しんでもらうんだと思っていたんですけど。
プロデューサーもわかりましたよね? 春香の今までのキャラクターでは、さっきの歌はありえないって」
「……そうか」
無意識のうちに唸り声が漏れる。
今日の春香の歌は、ダンスは、アイドルとしてのイメージとのギャップ、なんて生易しいものじゃなかった。
女王のように傲然と、娼婦のように嫣然と。
恋焦がれる余りの、狂気。偏執的なまでの、愛。
それらを、完膚なきまでに表現しきっていた。
……普段の練習との違いは、曲が仕上げられた段階、最後の確認の場であること。
そのために、俺がこの場に来ていたこと。
それはつまり――
俺は首を振った。
考えすぎだ。
何かきっかけがあって、春香がこちらの予想をぶっちぎった急成長を遂げてくれたということ。またしてもあのトレーナーにやられてしまったようだが、こういう計算違いならいくらでも大歓迎だ。
あの春香があそこまでやれるとは驚きだったが、一から育ててきたプロデューサーとしてはあいつの成長には感慨深いものが――
そこで。
ねじ伏せようとした思考が、再び浮き上がってくる。
……なら、なぜさっき俺はためらった?
曲に合わせて演じたのだと、そう確かめられなかった理由は?
――それは、簡単な話だ。
「当たり前ですよ! 私をどんな目で見てるんですか!!」
そんなふうに怒られるなら、まだいい。俺もごめんごめんと笑って済ますことが出来る。
だが……もし。
もし、いつもの調子で、
「そんなわけないじゃないですかーv」
などと明るく言われてしまったら――あれが、本来の春香だと肯定されてしまったら。
俺は、一体どうすればいい?
天海春香。
俺が765プロダクションに雇われてから、ずっと一緒にいる少女。
家族を除けば、春香のことを一番良く知っているのはこの俺だという密やかな自負は、しかしこの時から大きく揺らいでしまった。
春香――
◇◆◇◆◇◆
俺たちの戸惑いを他所に、新曲『阿修羅姫』はとてつもないヒットを記録した。
メインを務めた春香の人気は鰻上り。辛口の批評家たちにも絶賛され、その勢いはとどまるところを知らない。如月千早と星井美希、二人の天才をバックに従えるだけの力量を、世間は認めたのだ。
春香の新しい一面にノックアウトされた以前からのファンはもちろん、今回の曲をきっかけにファンになったという人々も多い。彼女を『春閣下』などという、アイドルとしてあまりにも微妙な愛称で呼び『崇拝』する(困ったことに、これは別に誇張表現ではないのだ)人々もいる。
特にインターネットの世界では爆発的な反響を呼んでいる。
「閣下にはこんな曲を歌ってほしい!」
とかいうくらいなら別にまだ可愛いもんだが、
「閣下に踏まれたい」「跪いて脚を嘗めろと言われたら喜んで嘗める!」「閣下になら殺されても本望」
などというレベルまで来てしまうと、喜んでいいのかどうか判断に迷う。
仕掛けといてなんだが、日本大丈夫か?
社長も大喜びで、
「よくぞ春香くんの新たな一面を引き出してくれたな! 流石だ!!」
と特別ボーナスを出してくれた。
俺は顔が引きつりそうなのをこらえて笑うしかなかった。
……あの、凄絶なまでの流し目を。
愛の為なら修羅にも成らんとするあの狂気を。
果たして春香は『演じて』いたのか。
それとも……。
俺は、未だに真相を聞けていない。
……だって怖いじゃんか。なあ?
「くすくすくす・・・…」